国立感染症研究所

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東京都におけるHIV検査数と陽性例の解析

(IASR Vol. 34 p. 254-255: 2013年9月号)

 

2012年の東京都におけるHIV感染者数は 369名、AIDS患者数は92名であり、いずれも前年に比べ微増がみられた(図1)。HIV感染者/AIDS患者461名のうち、日本人男性が407名(88.3%)で大部分を占め、外国人男性は39名(8.5%)であった。また、感染経路別の推移では(図2)、同性間の性的接触による感染が343名(74.4%)と依然として多く、異性間の性的接触による感染は69名(15.0%)であった。HIV感染者/AIDS患者数は2008年までは右肩上がりの増加傾向であったが、2009年以降は減少傾向も認められている。しかし、この減少が感染症自体の縮小を意味しているのか、HIV検査数の減少によるものなのか、結論は出ていない。

東京都健康安全研究センターでは、特別区(東京23区)内の保健所、東京都南新宿検査・相談室(以下、南新宿)からのHIV検査(通常検査:スクリーニング検査から確認検査までを実施し、検査結果は1週間後までに返す)と都内の保健所で実施したHIV即日検査の確認検査を実施している。

23区内保健所では月に1~2回、南新宿は祝日を除く毎日午後~夜間に検査相談を実施しており、保健所からは当日、南新宿からは翌朝に血液検体が当センターに搬入され、検査を行っている。今回、検査の立場から、近年のHIV検査数の推移およびHIV検査陽性例について解析を行った。

1.検査数の推移について
2007~2012年まで、当センターで通常検査を実施した南新宿および保健所(11区14カ所)を定点とし、検体数の推移を四半期(I~IV期)ごとに分けて検討した(図3)。毎年、II期には東京都HIV検査・相談月間(6月)、IV期には東京都エイズ予防月間(11/16-12/15)としてキャンペーン期間があり、その期間の検体数は増加する。

2007年I期~2009年I期までは各I期間平均 3,500~4,000件で推移していたが、2009年II期以降は検査数が連続的に減少し、2009年IV期は一時的に増加したものの、2010年I期はさらに検査数が減少した。その後連続して増加し上昇に転じたが、2011年I期は3,000件を切り、大きく減少した。その後の検査数は徐々に増加したものの、2007年I期~2009年I期より500件程度少ない3,000~3,500件前後で推移している。2009年II期以降に発生した大きな社会的事象は、2009年6月以降に都内で蔓延がみられた新型インフルエンザ(インフルエンザH1N1 2009)および2011年3月に発生した東日本大震災である。これらの事象も影響しているかと考えられるが、2012年になっても2009年以前の件数に回復しないことから、HIV感染症に対する社会的関心の低下が検査数の伸び悩みに繋がっているものと推定される。

2.HIV検査陽性例の解析
当センターで検査を実施し、HIV陽性となった例数は年間150件程度であり、都内HIV感染者報告数の約40%を占めている。多少の増減はみられるものの、例年、検査陽性例の約60%が南新宿で、10~20%が保健所即日検査で、15~30%が保健所通常検査で検出されている。検査機関および検査方式(通常検査または即日検査)別にみると、例年、南新宿(通常検査)でのHIV検査陽性例が最も多く、次いで保健所通常検査、保健所即日検査の順であるが、2011年は南新宿、保健所即日検査、保健所通常検査の順であった。

南新宿の検査陽性例については、倫理指針に基づきHIVのサブタイプ等の遺伝子解析、感染時期の推定等の抗体検査を実施している。サブタイプ型は毎年サブタイプBが95%近くを占めているが(図4)、2009~2011年はサブタイプBの割合が減り、CRF01_AEが増加し、サブタイプB以外のサブタイプ(non-B)が10%近くを占めた。

さらに、大枠ではあるが感染時期の推定が可能なBEDアッセイを用いて検査陽性例に占める感染初期例の割合について解析を行った。BED 陽性はHIV抗体陽転化後 155日以内の感染例(感染初期例)と推定される。この結果から得られた感染初期例の割合は、2006~2007年は約40%、2009年は約50%であったが、2010年以降は低下し、2012年には約30%になっている(図5)。 以上の結果から考えると、2009年以降、検査数のみならず、保健所の陽性数(通常検査と即日検査の割合が異なった)、サブタイプ型(non-Bの増加)、感染初期例の割合などに変化がみられたが、その詳細な関係については不明である。

HIV/AIDS報告数の減少が、HIV感染症自体の縮小に起因しているのか等を解明していくためにも、今後の動向を継続して詳細に見極めていく必要があると考えている。

 

東京都健康安全研究センター微生物部
   長島真美 宮川明子 新開敬行 林 志直 貞升健志、甲斐明美

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