国立感染症研究所

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髄膜炎菌ワクチンについて

(IASR Vol. 34 p. 371-372: 2013年12月号)

 

髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は莢膜多糖体の抗原により13種類の血清群が確認されているが、髄膜炎菌感染症は5つの血清群(A、B、C、Y、W-135)によっておきている。近年わが国では髄膜炎菌性髄膜炎の発生は大変少なくなったが、世界的には髄膜炎ベルトとして有名なアフリカ諸国で流行がみられるとともに、先進国でも散発的に患者が発生することがある。そのため、髄膜炎菌ワクチンは、アフリカの髄膜炎ベルト地域を含めた流行地に渡航する者、米国等の留学先でワクチン接種を要求されている者などに接種する。

髄膜炎菌ワクチンは、多糖体ワクチンと結合型ワクチンが流通しているが、いずれも日本では未承認である1-2)。本項では、髄膜炎菌のA、C、Y、W-135群に対する4価の多糖体、結合型ワクチンを中心に概説する。なお、B群の莢膜多糖体はヒトにおいて免疫を賦活しにくく、ワクチン開発が遅れていたが、最近になりB群に対するワクチンも開発され、一部の国で承認されている。

1.多糖体ワクチン(Meningococcal polysaccharide vaccine, MPSV4) 
A、C、Y、W-135群の莢膜多糖体を凍結乾燥した製剤であり、各莢膜多糖体を50μg含有している。2歳以下では抗体反応が悪く、効果が期待できないため、2歳以上の小児に接種する。接種量は0.5mLで、皮下注射する()。

1回接種により、各群に対する4倍以上の血清殺菌能上昇が90%前後の者に認められる。成人では接種後7~10日で殺菌能が上昇する。小児の場合は血清殺菌能の減衰が早く、とくにC群で著しい。リスクの高い者に対しては、3~5年後に追加接種することが推奨される。

わが国で健康成人100名を対象に行われた臨床研究では、接種前後で4倍以上の特異的IgG抗体の上昇を認めた症例は、A群で85例(85.0%)、C群で88例(88.0%)、Y群で84例(84.0%)、W-135群で76例(76.0%)であり、4倍以上の血清殺菌能上昇は、A群で81.0%、C群で95.0%、Y群で89.0%、W-135群で89.0%であった3)

多糖体ワクチンの一般的な副反応は、注射部位の疼痛や発赤など軽微なものが多く、アナフィラキシー様症状等の重篤な全身反応は稀である。わが国の臨床研究で認められた有害事象でも、主に局所の疼痛、発赤・腫脹、全身の倦怠感であり、重篤な有害事象は認められなかった。

2.結合型ワクチン(Meningococcal conjugate vaccine、MCV4)
A、C、Y、W-135群の莢膜多糖体抗原を各種蛋白に結合した製剤である。多糖体ワクチンに比べて、獲得される髄膜炎菌に対する抗体も高値で長続きする。このため米国では、莢膜多糖体ワクチンよりも結合型ワクチンが推奨されている。接種量は0.5mLで、筋肉注射する()。

米国ではMeningococcal polysaccharide diphtheria toxoid conjugate vaccine(MCV4-D)とMeningococcal oligosaccharide diphtheria CRM197 conjugate vaccine (MCV4-CRM)が承認されている4)。MCV4-Dは莢膜多糖体(各群4μg)をジフテリアトキソイドに結合させたワクチンであり、MCV4-CRMはA群(10μg)とC、Y、W-135群(各群4μg)を無毒化された変異ジフテリア毒素(CRM197)に結合させたワクチンである。接種スケジュールは、2~55歳で1回接種である。さらに、その後、髄膜炎菌感染症に感染する危険性が高い場合、2~6歳では3年後に追加接種をし、7歳以上では5年後に追加接種をする。

米国での小児の予防接種スケジュールでは、11~12歳のときに初回接種、16歳のときに追加接種が推奨されている。なお、MCV4-Dは生後9か月から接種でき、23か月までに初回接種を行った場合、8週間以上の間隔をあけて2回目を接種する。また、MCV4-CRMは最近米国で生後2か月以上に承認された。

ヨーロッパではこれに加えてMeningococcal polysaccharide tetanus toxoid conjugate vaccine (MCV4-T)も承認されており、MCV4-Tは莢膜多糖体(各群5μg)を破傷風トキソイドに結合させたワクチンである5)。接種スケジュールは、1~55歳で1回接種である。

結合型ワクチンの一般的な副反応は、注射部位の疼痛と発赤などであり、軽微なものが多く、アナフィラキシー様症状等の重篤な全身反応は稀である。

3.髄膜炎菌ワクチンの適応
髄膜炎菌ワクチンの接種を推奨する者は、髄膜炎菌の流行地域へ渡航する者と侵襲性髄膜炎菌感染症のハイリスク者である。

髄膜炎菌の流行地域は、髄膜炎ベルトといわれるサハラ以南のアフリカである。サウジアラビアのメッカに巡礼する者にも接種を行う。

侵襲性髄膜炎菌感染症のハイリスク者は、無脾症や脾臓を摘出された者、補体欠損症(特にC3、C5-C9の欠損)の者である。また、発作性夜間血色素尿症の治療薬である抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤エクリズマブを開始する前に接種する。

免疫抑制患者やHIV感染者などにも髄膜炎菌ワクチンの接種を勧める。2~55歳であれば、結合型ワクチンを、まず、2か月間隔で2回接種して、その後は5年ごとに追加接種することが推奨されている。

 

参考文献
1) Plotkin SA, Orenstein WA, Offit PA, Vaccine 6th ed, Elsevier, 2013
2) WHO, WER 86:521-539, 2011
3) 宮城啓, 中野貴司, 他, 日本渡航医学会2: 19-23, 2008
4) CDC, Health Information for International Travel 2014, Oxford University Press, 2013
5) Keystone JS, Freedman DO, eds, Travel Medicine, 3rd ed, Elsevier, 2013

 

東京医科大学病院渡航者医療センター 福島慎二 濱田篤郎

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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