国立感染症研究所

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北海道における2014年の麻疹患者発生状況

(IASR Vol. 36 p. 54-55: 2015年4月号)

2014年、北海道および札幌市では、37症例について麻疹ウイルスの検査を行った。検体の内訳は、咽頭ぬぐい液35検体、尿30検体および血液32検体であった。遺伝子検査は、国立感染症研究所が作成した病原体検出マニュアルに従って、麻疹ウイルスのヘマグルチニン(H)遺伝子およびヌクレオプロテイン(N)遺伝子の検出を行った。N遺伝子が検出された場合は、世界保健機関が推奨する450塩基の解析領域について塩基配列を解読し、相同性検索を行って麻疹ウイルスの遺伝子型を同定した。また、麻疹IgM抗体指数は、血漿あるいは血清を用いて酵素免疫法にて測定した。

麻疹ウイルス遺伝子が検出された症例は12例であった。これらを含め、道内では13例の麻疹の届出があった。それらの概要および主な発生経過をおよびに示す。積極的疫学調査の結果、11例は道内で感染したと思われた。一方、3月1日発症の症例1および6月21日発症の症例13の2例は、潜伏期とみられる時期に海外渡航歴があり、輸入例であることが疑われた。遺伝子が検出された12例について、 N遺伝子の相同性を解析したところ、フィリピンへの渡航歴を認めた症例1を含め、11例が遺伝子型B3であり、インドネシアへの渡航歴を認めた症例13が遺伝子型D8であった。IgM抗体検査は、陽性が10例、陰性が1例(症例12)、未実施が2例(症例9および11)であった。なお、症例3はIgM抗体が陽性であったため届出となったが、検体採取の協力が得られず遺伝子検査は実施できなかった。

遺伝子型B3のN遺伝子の塩基配列は、11例においてすべて同一であった。発生地域は道央圏に位置するA市、B市およびC市の3市であった。これらは、C市を中心にそれぞれ50km以内の距離関係にあり、通勤・通学・経済活動等によってヒトの往来を頻繁に認める地域である。B市で発生した症例2、6~10および12について、所轄保健所がその詳細を報告している1)。 すなわち、B市内における初発例であった症例2が、3月14日に発熱し、その翌日カタル症状を呈する等症状が悪化、17日にD病院、E眼科およびF耳鼻咽喉科の3医療機関を受診、さらに3月19~25日には水痘疑いでD病院に入院した。この間、D病院において清掃業務の従事者(症例9)へ、E眼科において事務職員(症例7)へ、F耳鼻科において同じ時間帯に受診した患者(症例6および8)へ感染が広がったことが疑われ、遺伝子解析の結果もそれを示唆するものであった。なお、症例2は、発症の約1週間前に自動車免許更新のためC市内にある関係施設を訪れた以外に主な外出歴を認めなかった。一方、A市で報告された症例1、B市の症例10および12、C市の症例3~5および11においては、他の症例との疫学的な繋がりが確認できなかった。麻疹の発生情報は、周辺市町および地元医師会と共有されたが、これ以上の報告は無く、ウイルスの伝播は収束したものとみられた。

麻疹報告例における予防接種歴は、症例8に2回、症例10および12にそれぞれ1回認めたが、その他は無し、もしくは不明であった。症例8は、2回の予防接種歴を有したが、完全な感染防御能は獲得されなかったものとみられた。症状は、発熱(38.0~38.1℃)を2日間に認めた他は発疹と咳のみであり、軽度であった。症例10は、予防接種の1週間後に発症しており、第5病日の検体においてIgM抗体指数が極めて高い値を示した。症状は、発熱、発疹とともにコプリック斑を認め、発熱(38.1~40.2℃)は8日間であったこと、入院による治療が行われたことが報告された。これに対し症例12は、予防接種の4日後に発症しており、第4病日の検体においてIgM抗体指数が陰性であった。発熱(38.6~38.8℃)は2日間のみに認め、入院治療を必要とせず、比較的軽度な経過であったことが報告された。

今回、医療機関を介する麻疹の伝播とともに感染経路が不明の症例も複数認められた。これらのことから、伝播の予防、感染源の解明に向けたさらなる取り組みが重要と考えられる。麻疹排除を達成するためには、今後も予防接種の徹底に加え、疑い患者の早期発見および積極的疫学調査の推進が求められる。

謝辞:検体採取および疫学情報収集等にご協力いただきました北海道保健福祉部健康安全局、保健所、医療機関等の関係者の皆様に深謝いたします。


参考文献
  1. 村松 司, 他, 公衆衛生情報 44(9): 22-24, 2014

北海道立衛生研究所
  三好正浩 駒込理佳 石田勢津子 長野秀樹 岡野素彦
札幌市衛生研究所
  大西麻実 古舘大樹 水嶋好清 楢林秀紀 宮田 淳

 

 

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