2012~2014年に出生した先天性風しん症候群児のフォローアップ情報(2015年6月17日現在中間報告:22例)
(IASR Vol. 36 p. 125-126: 2015年7月号)
はじめに
風しんに対する免疫のない妊娠20週頃までの妊婦が妊娠早期に風しんウイルスに感染した場合に、出生児が先天性風しん症候群(congenital rubella syndrome; CRS)を発症するリスクがある。CRSの3徴候は感音性難聴、先天性白内障、先天性心疾患(動脈管開存症、肺動脈狭窄、心室中隔欠損、心房中隔欠損など)であり、これら以外にも多様な症状が知られる。CRSに対する特異的な治療法はないことや、麻しんと同様に非常に有効なワクチンが存在することから、風しんを含むワクチン接種を徹底することで風しんの感受性者をなくし、風しんの発生そのものをなくすこと(風しん排除)がCRS発生予防の上で重要である。
感染症発生動向調査によると、わが国ではまだ風しんが定点把握疾患であった2004年に2000年以降では最大となる風しんの流行があり、この年に10例のCRSが報告された。その後、2005~2011年まで、CRSの報告は年0~2例で推移していた。2011年より報告数が増加し始めた風しんは、2012年には関西を中心とした流行となった。2013年に入ると、大都市を含む都府県を中心に大きな流行となり、2012年10月~2014年10月の間、感染症発生動向調査に45例のCRSが届け出られるに至った。2014年3月28日に公布された「風しんに関する特定感染症予防指針」では、重要な施策の一つとしてCRSへの対応強化を謳っている。そこで、感染症発生動向調査に届けられたCRSのできるだけ全例についての経過をフォローし、臨床症状やウイルス学的所見の推移等についてまとめることの重要性が考えられたことから、厚生労働科学研究班および日本新生児成育医学会感染対策・予防接種推進室の連携によるCRS児のフォローアップ調査が、研究グループにより整備された自己記入式の標準的質問票をもとに行われている。本稿では2015年6月17日現在までに情報が得られた22例(20医療機関より)についての疫学情報を暫定的にまとめたものである。
疫学状況のまとめ
情報を得られたCRS児(計22例)の報告年は2012年(1例)、2013年(17例)、2014年(4例)であり、男児12例、女児10例であった。出生時の在胎週数の中央値は38週(範囲32-41週)であり、出生体重は平均値2,209g(標準偏差±604.5)であった。低出生体重児は12例(55%)、極低出生体重児は3例(14%)、超低出生体重児は0例であった。診断時点の臨床症状について、記載がなかった1例を除いて表に示す。CRSの3徴候の頻度は、難聴、心疾患、白内障の順で頻度が高かった。その他の症状としては、血小板減少、紫斑、頭蓋内石灰化が過半数の児で認められた。
これまでに情報の得られたCRS児の転帰に関しては、生存14例、死亡7例であった(1例は前述のように臨床症状の詳細不明)。
診断時の検査方法は、PCR 法による病原体遺伝子の検出例が16例であり、検体の種類は咽頭ぬぐい液13例、尿9例、血液7例、唾液3例、髄液2例、水晶体1例、胃液1例、便1例(重複あり)であった。分離・同定により病原体を検出したものが2例あり、検体の種類(重複あり)は咽頭2例、尿1例であった。ほとんどの調査例で血清IgM抗体が検出された(22例中21例)。血清IgM抗体の検査時期は記載のあった6例において、出生時が3例、日齢4が1例、生後1か月が1例、臍帯血で1例であった。HI抗体価が移行抗体の推移から予想される値を高く超えて持続した例を4例認めた。
また、ウイルス学的経過に関する情報が得られた9症例において、咽頭ぬぐい液のPCR検査が2回陰性化した時期の中央値は生後11か月(範囲1-16か月)であった。尿PCRの検査時期情報が得られた11例について、尿PCRの結果が1もしくは2回陰性化した時期の中央値は生後11か月(範囲0-15か月)であった。
母親の疫学情報に関しては、出産時年齢は中央値23.5歳(範囲15‐40歳)であった。母親の予防接種歴について2回接種歴有りは0名、1回接種歴有り(2回目は不明の3人を含む)は5名(23%)、未接種5名(23%)、接種歴不明8名(36%)であった。1回接種歴のあった母親に関しては、1歳10か月時のMRワクチン接種が1例、5歳時の風しん単独ワクチン接種が1例、7歳時の風しん単独ワクチン接種が1例、14歳時の風しん単独ワクチン接種が1例、30歳時の風しん単独ワクチン接種が1例という内訳であった。妊娠中の風しん症状を認めたのは16例(73%)で、6例(27%)が無症状であった。風しん症状が出現した妊娠週数の中央値は妊娠第10週(範囲3‐16週)であった(1例は妊娠週数が明確でなかったため除外)。
まとめ
2012~2014年の間に感染症発生動向調査で報告されたCRS児45例のうち、約半数の22例についてフォローアップ情報が得られた。22例中、7名の死亡が報告されたほか、発生動向調査においてさらに1例が死亡の転帰をとったことが判明している。また現時点でCRS 3徴候の頻度については、代表的な教科書(Plotkin, 5th Vaccines, 2008)に記載のある先天性白内障(25%)より低く、感音性難聴(60%)、先天性心疾患(45%)より高かった。今後、できるだけ広くかつ長期的に2012~2014年のわが国におけるCRS児についてのフォローアップ情報を収集・分析し、疫学的知見をまとめていくことが、排除を目指すわが国の風しん対策の上でも重要である。また2015年1月から、小児慢性特定疾患としてCRSに対する助成が開始された。難聴のみなど、出生直後には周囲からは分かりにくい症状のCRSの注意深い検出が、今後の児の療育支援にも直結する上で、より重要となっていくことが考えられる。
謝辞:本中間報告をまとめるにあたり、情報をご共有いただいた20医療機関の先生方をはじめ、CRSの診療や発生動向調査に関係するすべての医療機関、保健所、地方衛生研究所、自治体関係部局等に心より感謝申し上げます。
国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース 金井瑞恵
感染症疫学センター 砂川富正 神谷 元 奥野英雄 多屋馨子 大石和徳
ウイルス第三部 森 嘉生 竹田 誠
大阪府立公衆衛生研究所感染症部ウイルス課
加瀬哲男 倉田貴子
国立病院機構名古屋医療センター 駒野 淳
風しんをなくそうの会 『hand in hand』 西村麻依子 大畑茂子 可児佳代
大阪府立母子保健総合医療センター新生児科 北島博之