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ポリオウイルスのバイオリスク管理

(IASR Vol. 37 p. 22-24: 2016年2月号)

背 景
『ポリオ根絶の最終段階戦略とその実施計画 2013-2018 (Polio Eradication and Endgame Strategic Plan 2013-2018)』では、世界ポリオ根絶を達成するための要件として、野生株ポリオウイルス伝播の終息、ワクチン関連麻痺およびワクチン由来ポリオウイルスによるポリオ流行のリスクを排除するための3価経口生ポリオワクチン(trivalent OPV: tOPV)接種停止とともに、ポリオウイルス取り扱い施設から地域社会へのポリオウイルス再侵入のリスクを最小限とするためのポリオウイルスの安全な取り扱いと封じ込め活動の徹底を挙げている1) (本号3ページ参照)。そのため世界保健機関(WHO)は、2014年12月に、ポリオウイルス病原体管理に関する世界行動計画(Global Action Plan; GAP)改訂第三版であるWHO Global Action Plan to minimize poliovirus facility-associated risk after type-specific eradication of wild polio- viruses and sequential cessation of OPV use (GAPIII) を公開し2)、GAPIIIは2015年5月のWHO世界保健総会で採択された3) 。GAPIIIは、ポリオ根絶の最終段階におけるポリオウイルス・バイオリスク管理について具体的かつ詳細に示した行動計画であり、世界中のポリオウイルス取り扱い施設を、診断・研究・ワクチン製造等に関わる必須な機能を遂行するために必要とされる最小限の認証された施設(Essential Poliovirus Facility)に限定し、これらの施設では、GAPIIIに示されたバイオリスク管理標準に準じてポリオウイルスを取り扱うことを求めている。Essential Poliovirus Facility以外の施設では、不必要なポリオウイルス感染性材料の廃棄が必要とされる。WHOはまた、ポリオ根絶の最終段階に向けたポリオワクチン戦略の一環として、2016年4月から、tOPVから2型OPV株を除いた2価経口生ポリオワクチン(bivalent OPV: bOPV)を世界的に導入する取り組みを進めており、bOPV導入後は、2型ワクチン株(Sabin2/OPV2株)についても、GAPIIIに基づくバイオリスク管理の対象となる()。標準株として広く用いられているワクチン株もバイオリスク管理の対象となることから、ポリオウイルス検査・研究施設だけでなく、より広範な医学生物学施設へのポリオウイルス病原体廃棄・管理の必要性についての周知が必要とされる。

ポリオウイルスのバイオリスク管理
GAPIIIでは、Essential Poliovirus Facility におけるポリオウイルス感染性材料の保持に関するポリオ根絶後・OPV使用停止後の目標を設定しており、Essential Poliovirus Facilityにおけるリスクを軽減するための、三段階の予防措置について国際的標準を示している。三段階の予防措置とは、施設への封じ込めによる第一段階予防措置、集団免疫による第二段階予防措置、ならびに施設設置場所およびこれら管理標準の遵守を国家的および国際的に確実化することによる第三段階予防措置をいう。GAPIIIに含まれるバイオリスク管理標準書(Annex 2およびAnnex 3)は、Essential Poliovirus Facility における第一段階予防措置に関する国際的要件について詳細に示しており、国およびWHOによるポリオウイルス取り扱い施設認証のための枠組みとされている。

わが国におけるポリオウイルス病原体管理体制の整備
わが国では、WHO西太平洋地域における野生株ポリオウイルス伝播の終息を受け、2000~2008年にかけて大規模かつ広範な野生株ポリオウイルス保有施設調査が行われ、2008年末時点で計15施設が野生株ポリオウイルス保有施設としてリストアップされた4)。西太平洋地域のWHO加盟国は、保有施設リストを含む野生株ポリオウイルス実験室封じ込め第一段階最終評価報告書(Final quality assurance report of phase 1 wild poliovirus laboratory containment)を、WHO西太平洋地域ポリオ根絶認定委員会に提出し、その後、西太平洋地域全体の野生株ポリオウイルス実験室封じ込め第一段階調査完了が宣言された4)

2007年6月に施行された改正感染症法によりワクチン株以外のポリオウイルスは四種特定病原体に分類され、法律に基づいた管理が義務づけられている。四種特定病原体の保有については、法律による届出の義務はないが、感染症法に基づいたポリオウイルスの適切な保管・管理について周知を図ることにより、不要なポリオウイルス感染性材料・感染性を有する可能性のある材料の廃棄を促す結果となった5)

現在および今後の対応
現在、2015年9月20日の世界ポリオ根絶認定委員会による2型野生株ポリオウイルスの世界的根絶宣言を受け、また、2016年4月からのbOPVの世界的な導入に向け、WHOから、不要な2型野生株および2型ワクチン株ポリオウイルスの廃棄が求められている。さらに、国によるEssential Poliovirus Facilityの認定とWHOへの報告、当該施設におけるポリオウイルス感染性材料のバイオリスク管理の徹底が必要とされている。そのため、厚生労働省は、平成27(2015)年12月11日付「世界的なポリオ根絶に向けた、不必要なポリオウイルスの廃棄について(周知及び協力依頼)」6) により、2型ポリオウイルス廃棄に関する理解・協力を求めている。さらに、平成27(2015)年12月17日付「ポリオウイルス保管状況の調査について(協力依頼)」7) を発出し、ポリオウイルス保有施設の把握と保有状況に関する調査を進めている。

 
参考文献
  1. The Global Polio Eradication Initiative, Polio Eradication and Endgame Strategic Plan 2013- 2018, 2013
    http://www.polioeradication.org/Resourcelibrary/Strategyandwork.aspx
  2. WHO, GAPIII, WHO Global Action Plan to minimize poliovirus facility-associated risk after type-specific eradication of wild polioviruses and sequential cessation of OPV use
    http://www.polioeradication.org/Portals/0/Document/Resources/PostEradication/GAPIII_2014.pdf
  3. Previsani N, et al., MMWR 64(33): 913-917, 2015
  4. 厚生労働省健康局結核感染症課, 他, IASR 30: 181-182, 2009
  5. 清水博之, JBSA Newsletter 2: 11-14, 2012
    http://www.microbiology.co.jp/jbsa/information/2012/newsletter_vol2_3.pdf
  6. 厚生労働省健康局結核感染症課長, 「世界的なポリオ根絶に向けた、不必要なポリオウイルスの廃棄について」(健感発1211第1号), 平成27年12月11日
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/polio/dl/topics_20151211.pdf
  7. 厚生労働省健康局結核感染症課長, 「ポリオウイルス保管状況の調査について 」(健感発1217第1号), 平成27年12月17日

国立感染症研究所ウイルス第二部 清水博之
厚生労働省健康局結核感染症課

 

 

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