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ワクチン由来ポリオウイルス(VDPV)によるポリオ流行の現状とリスク

(IASR Vol. 37 p. 24-26: 2016年2月号)

背 景
経口生ポリオワクチン(OPV)は、効果的な腸管免疫・血中中和抗体誘導能を有するうえ、安価で接種の容易な有効性と安全性のバランスに優れたポリオワクチンであり、長年、多くの国・地域で使用されてきた。その一方、OPV接種は接種者あるいは接触者におけるワクチン関連麻痺および伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(circulating vaccine-derived poliovirus; cVDPV)によるポリオ流行の原因となる。VDPVは、OPV接種者自身あるいは地域集団でOPV株が長期間増殖・伝播することにより遺伝子変異を蓄積したOPV由来変異株であり、遺伝子変異や他のエンテロウイルスとの遺伝子組換えにより、病原性や伝播能等、野生株ポリオウイルスと同等のウイルス表現型を獲得する場合がある。ポリオウイルスは、地域集団で伝播する際、1年間に1%程度の遺伝子変異を蓄積する1)。1型および3型ポリオウイルスについては、カプシドVP1領域の塩基配列がOPV株と比較して1%以上変異したOPV由来株をVDPVと定義する。2型VDPVは、他の型と比べて出現頻度が高くポリオ流行に関与するリスクが高いことから、VDPV伝播をより早い段階で検出するため、0.6%以上変異した株(6以上の塩基置換)をVDPVと定義し、報告の対象としている1,2)。これまで、ポリオ流行に関与した事例はないが、免疫不全患者等におけるポリオウイルス長期感染事例(iVDPV)は、世界全体で、のべ70例以上報告されており、野生株ポリオ根絶後はポリオ流行のリスク要因となりうる1)

cVDPVによるポリオ流行の現状
2000~2001年にかけて、ハイチおよびドミニカ共和国で、1型cVDPVによる大規模なポリオ流行が報告されて以来、cVDPVによるポリオ流行の発生は、毎年、世界各地で報告されており、ポリオ根絶の最終段階におけるポリオ流行のリスク要因として重要視されている(3)。近年報告されているcVDPVによるポリオ流行事例の多くは2型cVDPVによる4)。2型cVDPVによるポリオ流行の多くは、3価経口生ポリオワクチン(tOPV)接種率が低いアフリカやアジアのハイリスク地域で発生しており、ナイジェリア北部の野生株ポリオ流行地域では、2型cVDPVが2005~2013年にかけて長期間伝播し、ポリオ流行に関与した5)。2型cVDPVによるポリオ流行のリスクを考慮して、WHOは、2016年前半にtOPV接種を停止し、2型OPV成分を除いた2価経口生ポリオワクチン(bOPV)を世界的に導入するための準備を進めている6) (本号3ページ14ページ参照)。

ラオスにおける1型cVDPV流行
ラオスは、カンボジアやベトナム等の周辺国同様、1990年代後半に野生株ポリオウイルス伝播が終息し、その後、20年近くポリオフリーを維持してきた7)。ラオスにはWHO認定ポリオ実験室が無いことから、国立感染症研究所ウイルス第二部がラオスのNational Polio Laboratoryとして、急性弛緩性麻痺(AFP)症例由来糞便検体からのポリオウイルス分離・同定検査を担当している。

2015年9月7日に発症したラオスのAFP症例由来の糞便検体から1型ポリオウイルスが分離され、型内鑑別試験およびVP1領域の塩基配列解析により、分離株はSabin 1型との比較で3.3%の変異を有する1型VDPVと同定された。第1症例は検体採取直後に死亡したが、複数の接触者から分子系統学的関連性を有する1型VDPVが検出されたことから、地域集団における1型VDPVの長期的伝播が示唆された。強化AFPサーベイランスに由来するポリオウイルス分離株の解析により、2015年9月7日~12月18日にかけて発症した7例のAFP症例が、1型VDPVによるポリオ症例であることが明らかとなった2)。2016年1月17日現在、ボリカムサイ県あるいはサイソムブーン県にまたがる広範な地域におけるAFP症例および接触者の糞便約220検体から、分子系統学的関連性を有する計28株の1型VDPVが検出されている。ラオスの1型VDPV株の遺伝子解析によると、すべてのVDPV株は分子系統学的関連性を有する一方、分離株間で比較的高い多様性(Sabin 1株からの変異率2.4~3.5%)を有しており、長期間かつ広範なVDPV伝播が示唆される。VP1以外のゲノム遺伝子領域の予備的解析によると、ラオスの1型VDPV株では、これまで報告されたVDPV株の多くで報告されているC群エンテロウイルスとのゲノム遺伝子組換えは認められておらず、すべてのゲノム領域がSabin 1株に由来する非組換えウイルスである可能性が高い。

第1症例が発生した地区の2009~2014年におけるOPV3回接種率は40~66%と報告されており3)、ポリオ確定症例の年齢は、7か月、14か月、4歳(死亡)、8歳(死亡)、14歳、15歳、および40歳であった。報告されたAFP症例の多くは不十分なポリオワクチン接種歴であることから、ラオスでは、長期にわたりポリオワクチン接種が不十分な民族集団(モン族等)が残されていた可能性が高い。

cVDPVによるポリオ流行対応
世界保健機関(WHO)は、2型cVDPVによるポリオ流行のリスクが、他の型と比較して高いことから、2016年4~5月にかけて、2型OPVを除いたbOPVを世界的に導入する取り組みを進めている6)。一方、今回、ラオスで発生した1型cVDPVによるポリオ流行は、bOPV導入後も、cVDPV病原体サーベイランスが引き続き重要であること示す事例と言える。WHOは、野生株あるいはVDPVによるポリオ症例発生地域への渡航者あるいは発生地域からの出国者へのポリオワクチン追加接種を推奨しており、ラオスは、現在VDPVの輸出はしていないがVDPV症例発生が認められる地域のひとつに指定されている(States infected with wild poliovirus or cVDPV but not currently exporting-See more at: http://www.polioeradication.org/Keycountries/PolioEmergency.aspx#sthash.r4Su1SPB.dpuf)。

 

参考文献
  1. Burns CC, et al., J Infect Dis 210 Suppl 1: S283-293, 2014
  2. 厚生労働省健康局結核感染症課長, 健感発0930 第1号 (急性灰白髄炎の届出基準の技術的修正), 2013
  3. The Global Polio Eradication Initiative, 2016
    http://www.polioeradication.org
  4. Diop OM, et al., MMWR 64: 640-646, 2015
  5. Burns CC, et al., J Virol 87: 4907-4922, 2013
  6. The Global Polio Eradication Initiative, 2013
    http://www.polioeradication.org/Resourcelibrary/Strategyandwork.aspx
  7. Hagiwara A, et al., Jpn J Infect Dis 52: 146-149, 1999


一般財団法人阪大微生物病研究会
観音寺研究所瀬戸センター 中村朋史
国立感染症研究所ウイルス第二部
  西村順裕 有田峰太郎 吉田 弘 和田純子 清水博之

 

 

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