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 2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告

(IASR Vol. 39 p33-34: 2018年3月号)

はじめに

本邦において2012~2013年に全国的な風疹の流行があり, その結果, 2012年10月~2014年10月の間に感染症発生動向調査に計45例の先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome; CRS)が届出られた。我々はこれらのCRS症例に対し, 自治体および医療機関の協力を得て, 届出医に対する質問紙を用いたフォローアップ調査を行った(暫定結果報告;IASR 36: 125-126, 2015)。今回, 45例全例の調査結果をまとめ, 報告する。

調査結果

1.CRS児の特徴

CRS児の届出年は, 2012年4例, 2013年32例, 2014年9例であった。都道府県別の届出数は東京都16例, 大阪府6例, 埼玉県4例の順で多かった。診断方法(重複あり)は, 風疹特異的IgM抗体の検出によるものが42例(93%), 咽頭, 唾液, 尿, 血液検体等からのPCR法による病原体遺伝子の検出によるものが37例(82%), 分離・同定による病原体の検出によるものが7例(16%) であった。43例(96%)が0~3か月と生後早期に診断に至ったが, 9か月および13か月に診断に至った症例を各1例認めた。9か月の症例は, 親が児の白内障に気付いたことが診断の契機となった。13か月の症例は, 出生時には無症状の検査診断例であり, 先天性風疹感染(congenital rubella infection; CRI)としてフォローされていたが, 遅発性の難聴が出現したことによりCRSの診断に至った1)

性別は男児が25例(56%)であった。在胎週数は中央値38週(範囲31-41週), 出生体重は中央値2,262g(範囲650-3,290g)で, 2,500g未満で出生した低出生体重児が30例(67%)を占めた。診断時点の症状・所見を表1に示す。過半数の症例で難聴, 先天性心疾患を認めた。心疾患を認めた26症例のうちでは動脈管開存症の頻度が高く, また, 9例(35%)では複数の心疾患を合併した。CRSの三主徴である心疾患, 白内障, 難聴を診断時にすべて認めた症例は3例(7%)のみであり, 約半数は三主徴のうち1症状しか認めなかった。三主徴以外では, 血小板減少症の合併頻度が高かった。

調査時点の転帰は生存が34例(76%), 死亡が11例(24%)であった。死亡例11例における在胎週数は中央値37週(範囲32-39週), 出生体重は中央値1,552g(範囲650-3,185g)であり, 2,500g未満で出生した低出生体重児は9例(82%)を占めた。多くは先天性心疾患を合併し, 1例を除き6か月までに死亡の転帰をとった(表2)。

1年以上のフォローアップ情報が34例で得られた。調査時点でのフォローアップ期間の中央値は18.5カ月(範囲13-45カ月)であった。15例で体重増加不良, 12例で精神運動発達遅滞を認め, 5例で遅発性の難聴を認めた。また, PCR法による病原体遺伝子検査で連続2回の陰性が確認され, 最後に陽性が確認された月齢までをウイルス排泄期間と定義し検討した。17例で咽頭ぬぐい液検体, 11例で尿検体のフォローアップ情報が得られた。咽頭ぬぐい液検体でのウイルス排泄期間は中央値5カ月(範囲0-12カ月), 尿検体でのウイルス排泄期間は中央値5カ月(範囲0-18カ月)であった。調査時点でウイルス排泄が継続されていると報告された症例はなかった。

2.CRS児の母親の特徴

出産時年齢は中央値25歳(範囲15-42歳)であった(不明の1例を除く)。31例(69%)の母親で妊娠中の風疹様症状(発熱, 発疹, 頸部リンパ節腫脹)の出現歴があり(不明の2例を除く), 出現時の妊娠週数は中央値9週(範囲3-18週) であった。妊娠前の風疹含有ワクチン接種歴について, 2回の接種歴のあった母親はおらず, 1回の接種歴があった母親が11例(24%), 接種歴なしが15例(33%), 不明が19例(42%)であった。

まとめ

2012~2013年の風疹流行に伴い出生したCRS児における調査時点の致命率は24%と高く, また, 難聴や先天性心疾患をはじめとする複数の合併症を呈することが明らかとなった。致命率の高さは諸外国等における既報の結果と同様であり2-4), 公衆衛生学的インパクトが非常に大きい疾患であることが再認識された。本結果も踏まえ, CRSの予防のためには, 女性における, 妊娠前の2回の風疹含有ワクチンの接種もしくは風疹に対する十分な抗体価の保有の確認を徹底することが重要と考えられた。

CRSの診断においては, 必ずしも三主徴すべてを認めないことから, 三主徴のいずれか, もしくはその他 (特に出現頻度の高い) 症状を呈する場合は, 地域の風疹流行や母親のワクチン接種歴等の疫学情報を考慮に入れCRSを鑑別する必要がある。また, 遅発性症状の出現や, 長期にわたるウイルス排泄を考慮した, 定期的なフォローアップや, 周囲への風疹ウイルスの感染予防策の実施が必要であると考えられた。

謝 辞:本調査の実施にあたり, 多大なるご協力をいただきました38医療機関の先生および担当者様, ならびに保健所, 地方衛生研究所の関係者様, 風しんをなくそうの会『hand in hand』(西村麻依子様, 大畑茂子様, 可児佳代様)の皆さまに, 心より感謝申し上げます。

 

引用文献
  1. Nagasawa K, et al., Pediatrics 137: e1-e5, 2016
  2. Cooper LZ, et al., Am J Dis Child 118: 18-29, 1969
  3. Toizumi M, et al., Pediatrics 134: e519-526, 2014
  4. Lazar M, et al., Euro Surveill 21(38), 2016

国立感染症研究所
 実地疫学専門家養成コース(現細菌第一部) 金井瑞恵
 感染症疫学センター 砂川富正 神谷 元 奥野英雄 多屋馨子 大石和徳
 ウイルス第三部 森 嘉生 竹田 誠
大阪健康安全基盤研究所微生物部ウイルス課 倉田貴子 上林大起   
大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学 加瀬哲男
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 駒野 淳
大阪急性期・総合医療センター小児科顧問 北島博之

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