国立感染症研究所
平成27年7月10日版
2012年9月以降、中東地域に居住または渡航歴のある者を中心に中東呼吸器症候群(MERS)の患者が断続的に報告されており、医療施設や家族内等において限定的なヒト-ヒト感染が確認されていることから、接触者調査を実施し、適切な対策を実施することで感染拡大を防止することが重要である。また、高齢者や基礎疾患のある者に感染した場合、重症化する恐れもあることから、患者に対する適切な医療の提供も重要である。なお、中東においては一部の患者の感染原因としてラクダへの曝露が示唆されている。また、韓国において、中東への渡航歴のあるMERSの確定例を発端とし、その接触者において死亡例を含む多数の患者が発生していることを踏まえ、平成27年6月4日に「情報提供を求める患者の要件」が変更されたところである。
本稿は、国内で探知された中東呼吸器症候群(MERS)の疑似症患者(積極的疫学調査の対象となるもの)及び患者(確定例)(以下「症例」という。)等に対して、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第15条による積極的疫学調査を迅速に実施するため、平成26年7月30日版に暫定版として作成した中東呼吸器症候群(MERS)に対する積極的疫学調査実施要領を韓国事例の発生をうけて更新したものである。なお、疫学状況の変化に伴い適宜見直しを行うこととする。
調査票ダウンロード
(調査対象)
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- 積極的疫学調査の対象となるのは、以下に定義する「疑似症患者」、「患者(確定例)」、「濃厚接触者」および「その他の接触者」である。
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- 積極的疫学調査の対象となる「疑似症患者」とは、平成27年6月4日付健感発0604第1号に示す「情報提供を求める患者の要件」に合致しかつ地方衛生研究所で実施されたPCR検査によりMERSコロナウイルス遺伝子陽性であったものを指す。
- ・
- 「患者(確定例)」とは、地方衛生研究所以外に国立感染症研究所において実施される追加検査によってMERSコロナウイルス遺伝子陽性であったものを指す。
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- 「濃厚接触者」とは、症例が発病した日以降に接触した者のうち、次の範囲に該当するものである。
- 世帯内接触者: 症例と同一住所に居住する者
- 医療関係者等: 個人防護具を装着しなかった又は正しく着用しないなど、必要な感染予防策なしで、症例の診察、処置、搬送等に直接係わった医療関係者や搬送担当者
- 汚染物質の接触者: 症例由来の体液、分泌物(痰など(汗を除く))などに、必要な感染予防策なしで接触した者等
- その他: 手で触れること又は対面で会話することが可能な距離(目安として2メートル)で、必要な感染予防策なしで、症例と接触があった者等
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- 「その他の接触者」とは症例が発病した日以降に症例と同じ病棟に滞在する等空間を共有する接触があったもののうち、濃厚接触者の定義に該当しないものや、必要な感染予防策をした上で症例や症例由来の検体と接触した医療関係者や搬送担当者等を含む。症例が発病後、公共交通機関等、不特定多数の者が利用する施設の利用があった場合は、その症状や、状況等を検討した上でメデイア等を使った接触者探知を行う必要があるかどうかを検討する。
(調査内容)
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- 症例について、基本情報・臨床情報・推定感染源・接触者等必要な情報を収集する。(調査票添付1,2-1,2-2,2-3)
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- 濃厚接触者については、最終曝露から14日間、一日2回健康観察を実施するとともに、接触者の生活状況(MERSのハイリスク者(例:高齢者、基礎疾患のあるもの))等を勘案し、全く自宅から外出しない、公共交通機関を利用しない、勤務先に出社等しない等のうち適切な措置を要請する。また、健康観察を十分に行うために長距離の移動等は控えるように要請する。(調査票添付3)
- ○
- その他の接触者については、最終曝露から14日間、一日2回健康観察を実施する。
- ○
- 濃厚接触者およびその他の接触者については、健康観察中に37.5℃以上の発熱、または急性呼吸器症状(上気道または下気道症状)がある者(以下「検査対象者」という。)については、症状が出てきた場合に、保健所へ連絡をするようにし、検査を実施し、その結果に応じて必要な調査と対応を行う。
(調査時の感染予防策)
- ○
- 積極的疫学調査の対応人員が症例及び検査対象者に対面調査を行う際は、手袋、サージカルマスクの着用と適切な手洗いを行うことが必要と考えられるが、現時点では、疫学的な知見に乏しい新興の呼吸器感染症への対応として、眼の防護具(フェイスシールドやゴーグル)、ガウンを追加し、必要に応じてサージカルマスクではなくN95マスクを着用する。(PPE(個人防護具)着脱に関するトレーニングを定期的もしくは事前に積んでおくことが重要である。)
(濃厚接触者およびその他接触者への対応)
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- 濃厚接触者やその他接触者の家族や周囲の者(同僚等)に対しては、特段の対応は不要である。
- ○
- 濃厚接触者およびその他接触者については、手洗いと咳エチケットを徹底するように指導する。
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- 検査対象者については、検査結果が判明するまでの間、感染伝播に十分に配慮する必要があり、本人の同意を得た上で、医療施設における個室対応などの対応も選択肢となりうる。
(とりまとめ)
- ○
- 濃厚接触者およびその他接触者の健康情報については、複数の保健所が関与する場合、初発症例の届出受理保健所又は濃厚接触者およびその他接触者の多くが居住する地域を所管する保健所が適宜とりまとめる。