注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆ デング熱の国内感染症例について(2014年9月5日11時現在)
デング熱は、蚊が媒介するデングウイルスによって起こる急性熱性疾患で、アジア、中南米、アフリカ等、世界の広範な地域で流行している感染症である。デングウイルスは蚊の刺咬によりヒトに伝播するが、感染したヒトから未感染のヒトへの直接の伝播は起こさない。国内では、デング熱を媒介するヒトスジシマカが秋田県および岩手県以南に生息しており、主に日中に屋外で吸血する。ヒトが感染した場合、高熱、頭痛、筋肉痛や皮疹等の症状を呈し、不顕性感染の場合もある。比較的軽症のデング熱では1週間程度で回復するが、一部の症例においては、より重症のデング出血熱を発症する。近年、我が国では、海外で感染し、帰国後に発症する輸入症例は、毎年200例前後報告されており、これらの症例に対する診断・治療がなされてきた1, 2, 3)。デング熱の国内での感染については1940年代に流行があったことが知られているが4, 5)、その後、確認されていなかった。昨年以降、日本とドイツ間を直行便で往復した外国人におけるデング熱症例の報告などもあり6)、デング熱の国内感染が発生した際に備えての対応・対策ガイドライン等の準備が進められてきた。
2014年8月27日及び28日、国内でデング熱に感染したと考えられた症例3例が確認された。その後9月5日11時現在(厚生労働省発表分)まで、先の3例も合わせて計66例が確認されている。これらの症例は、すべて海外渡航歴がなく、北海道、青森県、茨城県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、大阪府、愛媛県に居住している。また、66例全員が東京都渋谷区の都立代々木公園及びその周辺への訪問歴があった。
デング熱に対しては対症療法が主体であり、有効な抗ウイルス薬は現在ない。しかし、デングウイルスに感染しても重症化する場合はまれで、蚊に刺されてから3~7日の潜伏期間の後に発症するが、一般に1週間前後で回復する。デング熱に対する予防法としては、国内ではヒトスジシマカ(主に日中に屋外で吸血する)との接触を避け、刺されないようにすることが大事である。屋外の作業において、長袖、長ズボンを適切に着用するなど、肌の露出をなるべく避け、ディート(DEET)を主成分とする有効な虫よけ剤を使用する。また、室内の蚊の駆除を心掛けるとともに、屋外では蚊の幼虫が発生しやすい水たまりなど(植木鉢の水受け、空き缶や放置されたプラスック容器等)の発生源を作らないように注意し、たまった水を捨てる等の対策を行うことが重要である。
厚生労働省は、デング熱の予防や対策についてホームページなどを用いて広報しており7)、自治体と連携しつつ、デング熱の国内発生症例の情報収集と分析を進めている。東京都は、患者が蚊に刺された代々木公園を中心に蚊の駆除を行う一方、注意喚起活動を強化している8, 9, 10)。東京都は2004年度から都内16カ所で蚊を採集し、デング熱などの感染症の原因となる病原体の保有状況調査を行ってきたが、これまで蚊から病原体が発見された例はなかった。2014年9月4日、東京都は、代々木公園において採集された蚊からデングウイルスが発見されたことを公表した8, 10)。今後、東京都は調査ポイントを増やし、監視を強化していく予定であるとのこと。国立感染症研究所は、関係機関と連携し、ウイルス学的検査や蚊の防除に関する技術的な支援、および発生動向を中心とした情報提供を強化していく。
1)Nakamura N, Arima Y, Shimada T, Matsui T, Tada Y, Okabe N. Incidence of dengue virus infection among Japanese travellers, 2006 to 2010. Western Pac Surveill Response J. 2012 Jun 8;3(2):39-45. doi: 10. 5365/WPSAR.2012.2.3.002.
http://www.wpro.who.int/wpsar/volumes/03/2/2012_SR_Nakamura_etal/en/
2)Takasaki, T. Imported dengue fever/dengue hemorrhagic fever cases in Japan. Trop Med Health. 2011 Dec;39(4 Suppl):13-5. doi:10.2149/ tmh.2011-S07. Epub 2011 Oct 12.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tmh/39/4SUPPLEMENT/39_2011-S07/_article
3)国立感染症研究所 デング熱とは
http://www.niid.go.jp/niid/ja/encycropedia/392-encyclopedia/238-dengue-info.html
4)堀田進.デング熱媒介蚊に関する一考察:1942-1944年の日本内地のデング熱流行におけるヒトスジシマカAedes albopictus およびネッタイシマカAedes aegypti の意義について,衞生動物,49(4): 267-274,1998.
5)堀田進.デング熱とデングウイルス-熱帯医学への挑戦,日本熱帯医学会雑誌.28(4): 369-381,2000.
6)Schmidt-Chanasit J, Emmerich P, Tappe D, Gu¨nther S, Schmidt S, Wolff D, Hentschel K,Sagebiel D, Schöneberg I, Stark K, Frank C. Autochthonous dengue virus infection in Japan imported into Germany, September 2013. Euro Surveill. 2014;19(3):pii=20681.
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20681
7)厚生労働省 デング熱について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dengue_fever.html
8)東京都福祉保健局
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/kansen/dengue.html
9)東京都健康安全研究センター
http://www.tokyo-eiken.go.jp/
10)東京都感染症情報センター
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/dengue/
国立感染症研究所
感染症疫学センター
有馬雄三 松井珠乃 島田智恵 山岸拓也 河端邦夫 石金正裕
木下一美 砂川富正 大石和徳
ウイルス第一部 高崎智彦
昆虫医科学部 津田良夫 沢辺京子