注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆梅毒 2014年における報告数増加と疫学的特徴
梅毒はTreponema pallidum という細菌による感染症である。感染すると約3週間の潜伏期を経て無痛性潰瘍(硬性下疳)や初期硬結等の局所病変を引き起こす(早期顕症Ⅰ期)。その後一旦病変が消褪するが、3~12週間後にはバラ疹、扁平コンジローマ、全身のリンパ節腫脹等の全身症状が起こる(早期顕症Ⅱ期)。この時期の皮疹は多岐にわたり、かつては全ての皮疹は診断が下されるまでは梅毒と考えるべきとも言われていた。その後数年間の無症状の時期を経て、大動脈瘤や多彩な神経症状を引き起こすことがある(晩期顕症)。病原体であるTreponema pallidum は試験管内で培養不能のため、診断は主に梅毒血清反応で行われる。Treponema pallidum のタンパク抗原に対する特異的な抗体はIgGが中心であり、感染後比較的早期に上昇し、基本的に一生涯高値を保つ(TPHA、FTA-ABSなど)。一方カルジオリピンといわれるリン脂質を抗原とする非特異的な抗体はIgMが中心であり、梅毒の病勢を示しており、活動性のある梅毒で高値となる(RPRカードテスト、凝集法など)。上記で示した経過中における無症状期、あるいは梅毒病変が特定出来ない場合でも、特異的Tp抗体が陽性かつカルジオリピン抗体が16倍以上の時に診断が下される(無症候)。近年多くの医療機関で使用されている自動化法は16.0IU/ml (U/ML)が従来の抗カルジオリピン抗体16倍に相当するとされている1)。
2001年から2014年(2014年は10月1日現在)の年別報告数と病型別報告数の推移を図1に示した。2013年には前年比1.4倍となる1,200例超の報告を認め、増加傾向は2014年も続いており、2014年10月1日時点の報告数は1,275例(1.0/人口10万人)と昨年を超えた。早期顕症に加えて無症候の梅毒も増加している。性別を見ると、2014年10月1日時点で男性1,010例(昨年同時期の1.3倍)、女性265例(同1.5倍)であった。女性での増加は、梅毒が女性で増加していない米国とは対照的である2)。また、男性異性間性的接触による感染の報告数も2014年10月1日時点で331例(昨年同時期の1.4倍)と増加傾向にある(図2)。患者の約8割を占める男性では、男性と性交する男性(Men who have sex with men:MSM)が45%(451/1,010)を占めており、昨年よりやや鈍っているものの増加を認めている(図2)。これは、同じくMSMが患者の大半を占めるHIV感染症では明らかな報告数の増加を認めていない点と対照的である。更に母子伝播による先天梅毒報告の増加にも注意が必要である(図1)。
近年の梅毒報告数の増加には、これまで報告されていなかった梅毒症例が報告されるようになったことも影響した可能性があるが、今後の動向に注意しながら、特にリスクが高い集団に対する啓発活動が重要である。
【参考文献】 1)梅毒血清反応委員会報告書. 日本性感染症学会誌. 2013, 24(1); 48-54 2)Patton ME, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2014 May 9;63(18):402-6
国立感染症研究所 感染症疫学センター 細菌第一部
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