注目すべき感染症
◆ 感染性胃腸炎
感染性胃腸炎は多種多様の原因によるものを包含する症候群名である。全国約3,000カ所の小児科定点からの患者発生報告数が増加するのは冬季であり、その大半はノロウイルスやロタウイルス等のウイルス感染を原因とするものであると推測される。また、患者発生のピークは例年12月中となることが多く(図1)、同時期の感染性胃腸炎の、特に集団発生例の原因の多くはノロウイルスによるものであると考えられている(IASR, Vol 31. No 11. P312-314https://idsc.niid.go.jp/iasr/31/369/tpc369-j.html 参照)。
ノロウイルス感染症の潜伏期間は数時間~数日(平均1~2日)で、主な症状は嘔気・嘔吐及び下痢であり、嘔吐・下痢は1日数回から多いときには10回以上のこともある。しかし、症状持続期間は数時間~数日(平均1~2日)と比較的短く、以前から他の病気がある等の要因がない限りは、重症化して長期にわたり入院を要することは少ない。また、発熱の頻度は高くはない。特効薬はなく、治療は対症療法となるが、最も重要なことは水分補給によって脱水を防ぐことである。
ノロウイルスの感染経路としては、以前は食中毒としての経口感染がよく知られていたが、感染後の発症者や無症状病原体保有者との直接もしくは間接的接触による接触感染や、患者の嘔吐物や下痢便を介した飛沫感染等のヒト-ヒト感染があり、その感染力は非常に強い。乳幼児の集団生活施設である保育所や幼稚園、小児の集団生活施設である小学校等においては、これら接触感染や飛沫感染等により、集団発生が繰り返されてきているものと推察される。また、2006年12月の東京都豊島区のホテルにおいて発生した集団感染事例のように、「吐物や下痢便の処理が適切に行われなかったために残存したウイルスを含む小粒子が、掃除などの物理的刺激によって舞い上がり、それを間近とは限らない場所で吸引し、経食道的に嚥下して消化管へ至る感染経路」である「塵埃感染」が発生する場合がある(感染症情報センターホームページ「ノロウイルスの感染経路」:https://idsc.niid.go.jp/disease/norovirus/0702keiro.html 参照)。ノロウイルスの感染予防には、流水・石けんによる手洗いの励行と吐物や下痢便の適切な処理がきわめて重要である(感染症情報センターホームページ「家庭等一般の方々へ」:https://idsc.niid.go.jp/disease/norovirus/taio-a.html、「医療従事者・施設スタッフ用」:https://idsc.niid.go.jp/disease/norovirus/taio-b.html 参照)。
感染症発生動向調査では、感染性胃腸炎は全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいている。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2012年第42週以降増加が続いており、第46週の定点当たり報告数は11.39(報告数35,862)となった(図1)。都道府県別では宮崎県(22.42)、福岡県(20.03)、大分県(19.42)、大阪府(19.21)、熊本県(18.73)、鹿児島県(18.69)、兵庫県(18.36)の順となっている。定点当たり報告数が全国値を上回っているのは西日本地域に多いが、42都道府県で前週の報告数よりも増加がみられている(図2)。2012年第36~46週の定点当たり累積報告数は52.41(累積報告数165,397)であり、年齢群別割合は0~1歳26.2%、2~3歳21.2%、4~5歳16.9%、6~7歳9.8%の順となっている(図3)。
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図1. 感染性胃腸炎の年別・週別発生状況(2002~2012年第46週) |
図2. 感染性胃腸炎の都道府県別定点当たり報告数の推移(2012年第44~46週) |
図3. 感染性胃腸炎の年齢群別割合(2012年第36~46週) |
2012年の感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第42週以降増加が続いており、特に第44週に5.0を上回って以降は急激な増加となり、全国的な流行となってきている。感染性胃腸炎の報告数の推移には今後とも注意深い観察が必要である。
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