ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2016年速報第8報-(2016年11月4日現在) |
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日本脳炎は、日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち数百人に一人が発症するとされている重篤な脳炎である 1)。ヒトへの感染は、蚊(日本では主にコガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し、その後ヒトを刺すことにより起こる。 1960年代までは毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており 2), 3)、ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。Konnoらは当時調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると、約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくると報告している 4)。現在では、日本脳炎ワクチン接種の普及や生活環境の変化等により、ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致しておらず、近年の日本脳炎患者報告数は毎年数名程度である。しかし、ブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域では、ヒトへの感染の危険性が高くなっていると考えられる。 感染症流行予測調査事業では、全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(HI法)により測定し、日本脳炎ウイルスの蔓延状況および活動状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し、さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合、そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。下表は本年度の調査期間中におけるブタの抗体保有状況について都道府県別に示しており、日本脳炎ウイルスの最近の感染が認められた地域を青色、それに加えて調査したブタの50%以上に抗体保有が認められた地域を黄色、80%以上に抗体保有が認められた地域を赤色で示している。 本速報は日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。また、それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報にも注意し、日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域においては、日本脳炎の予防接種を受けていない者、とくに乳幼児や高齢者は蚊に刺されないようにするなどの注意が必要である。 なお、日本脳炎定期予防接種は、第1期(初回2回、追加1回)については生後6か月から90か月に至るまでの間にある者、第2期(1回)については9歳以上13歳未満の者が接種の対象であるが、平成7年4月2日から平成19年4月1日までに生まれた者で積極的勧奨の差し控えなどにより接種機会を逃した者は、20歳になるまでの間、定期接種として日本脳炎ワクチンの接種が可能である。 |
抗体保有状況 (地図情報) 抗体保有状況 (月別推移) |
1. | Southam, C. M., Serological studies of encephalitis in Japan. II. Inapparent infection by Japanese B encephalitis virus. Journal of Infectious diseases. 1956. 99: 163-169. |
2. | 松永泰子,矢部貞雄,谷口清州,中山幹男,倉根一郎. 日本における近年の日本脳炎患者発生状況-厚生省伝染病流行予測調査および日本脳炎確認患者個人票(1982~1996)に基づく解析-. 感染症学雑誌. 1999. 73: 97-103. |
3. | Arai, S., Matsunaga, Y., Takasaki, T., Tanaka-Taya, K., Taniguchi, K., Okabe, N., Kurane, I., Vaccine Preventable Diseases Surveillance Program of Japan. Japanese encephalitis: surveillance and elimination effort in Japan from 1982 to 2004. Japanese Journal of Infectious Diseases. 2008. 61: 333-338. |
4. | Konno, J., Endo, K., Agatsuma, H., Ishida, N., Cyclic outbreaks of Japanese encephalitis among pigs and humans. American Journal of epidemiology. 1966. 84: 292-300. |
国立感染症研究所 感染症疫学センター/ウイルス第一部 |