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感染推定地域のマダニから検出された日本紅斑熱リケッチアについて

(IASR Vol. 41 p13-14: 2020年1月号)

はじめに

日本紅斑熱はRickettsia japonicaの感染によって引き起こされるダニ媒介性疾患であり, 感染症法では4類感染症に分類される。近年, 和歌山県内の届出数は2桁で推移しており, 患者の発生時期や地域については一定の知見が得られているものの, 媒介するマダニ種等, 不明な点も多い。今回, 複数の患者がダニ咬傷を受けたと推定される場所を調査し, 採取したマダニからR. japonica遺伝子を検出したので報告する。

発生の概要

2019年10月上旬, 県北部の2つの医療機関から日本紅斑熱の症例が合わせて4例報告された。患者はいずれも9月下旬~10月上旬にかけての発症例で, 共通の行動履歴として同一の墓地を訪れていたことが確認された。そこで, 同墓地を感染場所と推定し, 現地に啓発ポスターを掲示するなど注意を呼びかけるとともにマダニの調査を行った。

調査方法および結果

10月8日, 現地にて旗振り法によるマダニ類の採取を行った。患者が訪れた墓はいずれも同墓地の一画に集まっていたことから, その周辺を重点的に調べた。7匹のマダニ類が採取され, 形態観察の後, 1匹ずつ2mLのマイクロチューブに入れて凍結した。それぞれにPBS(-)を200μL加え, 凍結破砕器具(トッケン社, SKミル)で破砕し, 抽出キット(キアゲン社, QIAamp DNA Mini Kit)を用いたDNA抽出を行った。56℃でのインキュベート時間は16時間とし, それ以外の操作は同キットのプロトコールに従った。DNAの最終溶出液量は50μLとし, そのうちの5μLをPCR用のテンプレートとした。マダニ類は, ミトコンドリア遺伝子のシーケンス解析1)の結果等から, キチマダニの若虫1匹とヤマアラシチマダニの幼虫6匹と同定された。また, リケッチア遺伝子(17kDa, gltA, ompA)の検出を試みた結果, ヤマアラシチマダニの幼虫のうち, 3匹が3領域ともに1st PCRで陽性となった。それぞれの増副産物のシーケンス解析の結果は, いずれも標準株であるYH株(GenBank accession number: AP011533)と完全に一致し, R. japonica遺伝子と同定された。残りの4匹はnested PCRまで実施したが, いずれも陰性であった()。

まとめ

同墓地でマダニ咬傷を受け感染したと思われる症例はその後も確認され, 10月末時点で7例となった。患者発生が続いたのは, 親ダニからの垂直感染によりR. japonicaを保有したヤマアラシチマダニの幼虫が, 現地で多数孵化したことが原因と思われた。同様の事例は今後も起こりうると考えられるが, マダニは吸血する動物について移動するため, 産卵場所を把握することは困難である。今回のように感染場所が特定できれば, その情報を地域の住民や医療機関に周知し, 感染予防や早期診断・早期治療に役立てることも可能となる。そのためにも, 患者からの行動履歴の聞き取りは重要であると考えられた。

和歌山県ではこれまで県南部で日本紅斑熱の発生が多くみられているが, 北部でも2010年以降, 継続的に患者発生が確認されている。今回調査を行った墓地も, 県北部の, 大阪府と和歌山県を隔てる和泉山脈の麓に位置している。同じく和泉山脈内で2012~2014年にかけて行ったマダニの調査でも, ヤマアラシチマダニの若虫1匹からR. japonica遺伝子が検出されており, 同種が県北部での日本紅斑熱媒介に関与していることが示唆された。

 

参考文献
  1. Takano A, et al., Medical Entomology and Zoology 65(1): 13-21, 2014
  2. リケッチア感染症診断マニュアル (令和元年6月版)
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Rickettsia20190628.pdf
  3. Noda H, et al., Appl Environ Microbiol 63(10): 3926-3932, 1997

 

 和歌山県環境衛生研究センター 寺杣文男
和歌山市保健所 丹生哲哉 神戸千佐 卯辰暢子
和歌山市衛生研究所 池端孝清
日本赤十字社和歌山医療センター 小林謙一郎 久保健児
和歌山ろうさい病院 下松達哉

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