掲載日:2023年6月23日

English

オズウイルス(Oz virus, OZV)は、オルソミクソウイルス科 (Family Orthomyxoviridae) トゴトウイルス属 (Genus Thogotovirus) に分類されるRNAウイルスである。2018年に本邦でタカサゴキララマダニ (Amblyomma testudinarium)より分離同定され、オズウイルスと命名された。これまで国内のヒトにおける血清を用いた抗体検査の結果により、ヒトにおける感染の可能性が示唆されていたものの、世界的にヒトでの発症や死亡事例は確認されていなかった。2023年6月、ヒト感染症例(致死症例)が本邦から世界で初めて報告された(IASR速報)。

 

病原体

OZVはオルソミクソウイルス科トゴトウイルス属に属する、6分節の一本鎖マイナス鎖RNAをゲノムとしてもつエンベロープウイルスで、2013年に愛媛県で採取されたタカサゴキララマダニから、2018年に初めて分離された(Ejiri H, et al., 2018)。本邦以外から同ウイルスが検出されたという報告はない。

図1. オズウイルス粒子の電子顕微鏡写真

分布

タカサゴキララマダニは、主として関東以西に広く分布している。野生動物の血清抗体調査によれば、OZVの感染歴があると考えられる野生動物(ニホンザル (Macaca fuscata)、二ホンイノシシ(Sus scrofa leucomystax)、二ホンジカ(Cervus nippon))が千葉県、岐阜県、三重県、和歌山県、山口県、大分県で確認されている(Tran NTB, et al., 2022)。ヒトでは、2013〜2019年に得られた山口県の狩猟者の血清を用いた抗体検査の結果、24名中2名で抗OZV抗体が陽性だったという報告がある(Tran NTB, et al., 2022)。これらの結果は、OZVが日本の広い地域に分布している可能性を示唆している。

臨床症状

OZV感染による症例報告は本邦における1例のみ(IASR速報)であり、OZV感染による臨床症状を特徴づけることはできない。当該症例は、倦怠感、食欲低下、嘔吐、関節痛、39度の発熱を主訴とし、心筋炎で死亡した。死後、検査結果と病理組織所見よりウイルス性心筋炎と判明した。

なお、上記のように、血清抗体調査により過去の感染が示唆された事例の報告があり、感染が必ずしも致死的な経過につながるわけではないと考えられるが、臨床症状の特徴の解明のためにはさらなる症例の情報の集積が必要である。

感染経路

OZVはヒトを刺咬するマダニで検出されており、本邦における1例(IASR速報)でも、飽血に近い状態のマダニの咬着が確認されていることから、感染マダニの刺咬により感染する可能性は考えられるが、確たる証拠は得られていない。ヒト感染症例は2023年6月の報告(IASR速報)に限られており、当該症例の感染経路について結論は得られていない。

病原体診断

血液等からのウイルスの分離・同定及びRT-PCR法によるウイルス遺伝子の検出により病原体診断が可能である(Ejiri H, et al., 2018)。また、ペア血清による抗体検査も可能である。いずれの検査も国立感染症研究所で実施可能である。

治療

現時点では有効な治療薬に関する知見はなく、対症療法のみとなる。

予防

感染経路に関する決定的な証拠はないが、マダニに刺されることによる感染の可能性が考えられることから、屋外で肌の露出を少なくしたり忌避剤を使用したりするなどして、マダニに刺されないようにする。ワクチンはない。

参考文献

  • Ejiri H, et al. 2018. Characterization of a Novel Thogotovirus Isolated from Amblyomma Testudinarium Ticks in Ehime, Japan: A Significant Phylogenetic Relationship to Bourbon Virus. Virus Research 249 (April): 57–65.
  • Tran NTB, et al. 2022. Zoonotic Infection with OZ virus, a Novel Thogotovirus. Emerging Infectious Diseases 28 (2): 436–39.

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan