国立感染症研究所

(IDWR 2001年第24号)

 水痘は、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus;VZV)によって起こる急性の伝染性疾患である。19世紀の終わりまでは、水痘と天然痘は明確に区別されていなかった。1875年 Steinerによって、水痘患者の水疱内容を接種することによって水痘が発症することが示され、1888年von Bokayによって、水痘に感受性のある子どもが、帯状疱疹の患者との接触によって水痘が発症することが確認された。1954年にThomas Wellerによって、水痘患者および帯状疱疹患者いずれの水疱からもVZVが分離されることが確認された。その後の研究によって1970年代に日本で水 痘ワクチンが開発され、現在水痘の予防に使用されている。

疫 学
 水痘ウイルスの自然宿主はヒトのみであるが、世界中に分布し、その伝染力は麻疹よりは弱いが、ムンプスや風疹よりは強いとされ、家庭内接触での発症率は 90%と報告されている。発疹出現の1〜2日前から出現後4〜5日、あるいは痂皮化するまで伝染力がある。1999年4月の感染症法施行後の感染症発生動 向調査によると、約3,000の小児科定点医療機関から毎週1,300〜9,500例の報告がある。季節的には毎年12〜7月に多く、8〜11月には減少 しており、罹患年齢はほとんどが9歳以下である。

病原体  
 水痘帯状疱疹ウイルスはヘルペスウイルス科のα亜科に属するDNAウイルスであり、他のヘルペスウイルスと同様に初感染の後、知覚神経節に潜伏感染す る。ウイルスは通常気道粘膜から侵入し、鼻咽頭の侵入部位と所属リンパ節にて増殖した後、感染後4〜6日で一次ウイルス血症を起こす。これによりウイルス は他の器官、肝、脾などに散布され、そこで増殖した後二次ウイルス血症を起こし、皮膚に水疱を形成する。ウイルスは発疹出現の5日前ころから1〜2日後ま で、末梢血単核球から分離される。

臨床症状
 潜伏期は2週間程度(10〜21日)であるが、免疫不全患者ではより長くなることがある。成人では発疹 出現前に1〜2日の発熱と全身倦怠感を伴うことがあるが、子どもでは通常発疹が初発症状である。発疹は全身性で掻痒を伴い、紅斑、丘疹を経て短時間で水疱 となり、痂皮化する。通常は最初に頭皮、次いで体幹、四肢に出現するが、体幹にもっとも多くなる。数日にわたり新しい発疹が次々と出現するので、急性期に は紅斑、丘疹、水疱、痂皮のそれぞれの段階の発疹が混在することが特徴である。またこれらの発疹は、鼻咽頭、気道、膣などの粘膜にも出現することがある。 臨床経過は一般的に軽症で、倦怠感、掻痒感、38度前後の発熱が2〜3日間続く程度であることが大半である。成人ではより重症になり、合併症の頻度も高 い。通常呼吸器症状や胃腸症状を伴うことはない。初感染からの回復後は終生免疫を得て、その後に野生株に暴露された場合には、臨床症状を起こすことなく抗 体価の上昇をみる。
 合併症の危険性は年齢により異なり、健康な小児ではあまりみられないが、15歳以上と1歳以下では高くなる。1〜14歳の子どもでの死亡率は10万あた り約1例であるが、15〜19歳では2.7例、30〜49歳では25.2例と上昇する。合併症として、皮膚の二次性細菌感染、脱水、肺炎、中枢神経合併症 などがある。水痘に合併する肺炎は通常ウイルス性であるが、細菌性のこともある。中枢神経合併症としては無菌性髄膜炎から脳炎まで種々ありうる。脳炎では 小脳炎が多く、小脳失調をきたすことがあるが予後は良好である。より広範な脳炎は稀で1万例に2.7程度であるが、成人に多く見られる。急性期にアスピリ ンを服用した小児では、ライ症候群が起こることがある。免疫機能が低下している場合の水痘では、生命の危険を伴うことがあるので十分な注意が必要である。

病原診断
 通常は臨床的に診断がなされるが、確認のためには実験室診断が行われる。患者からのウイルス分離がもっとも直接的であり、通常水疱内容から行われること が多い。鼻咽頭から分離するのは難しい。水疱擦過物の塗沫(Tzanck smear)染色標本上で多核巨細胞を証明すれば診断に有用であるが、単純ヘルペスとの鑑別はできない。水痘帯状疱疹ウイルスは、モノクローナル抗体を用 いた蛍光抗体法により確認できる。血清学的診断には種々の方法が用いられ、gpELISA法が有用であるが日本では研究レベルで開発が始まったばかりであ り、IAHA法、ELISA法が用いられているのが現状である。急性期と回復期でIgG抗体の有意な上昇を確認するか、IgM抗体を検出することにより診 断がなされる。近年ではPCR法によりVZV DNAの検出が可能である。
 また、VZVに対する細胞性免疫能を評価する方法として、水痘皮内抗原を用いた皮内テストがある。保険適応はないが、皮内テスト液は市販されている。 0.1mlを皮内注射し、24時間〜48時間後に発赤最大径が5mm以上の場合に、VZVに対する細胞性免疫が陽性であると判定される。これは、迅速に診 断が求められる場合に有効な方法である。


治療・予防
 通常、石炭酸亜鉛化リニメント(カルボルチンクリニメント;カチリ)などの外用が行われる。二次感染をおこした場合には抗生物質の外用、全身投与が行わ れる。抗ウイルス剤としてアシクロビル(ACV)があり、重症水痘、および水痘の重症化が容易に予測される免疫不全者などでは第一選択薬剤となる。この場 合、15mg/kg/日を1日3回に分けて静脈内投与するのが原則である。一方、免疫機能が正常と考えられる者の水痘についても、ACVの経口投与は症状 を軽症化させるのに有効であると考えられており、その場合、発症48時間以内に50〜80mg/kg/日を4〜5日間投与するのが適当であるとされてい る。しかし、全ての水痘患者に対してルーチンに投与する必要はないと思われる。
本疾患はヒト−ヒト感染によるので、その予防は感染源のヒトとの接触をさけることが重要である。弱毒化生ワクチンが日本、韓国、米国などで認可されている が、任意接種のワクチンの扱いである。1回の接種での抗体獲得率は約92%である。米国では、1歳以上で水痘の既往のない全ての小児に対してワクチン接種 が推奨されている。副反応としては、軽度の局所の発赤、腫脹(小児では19%、成人では24%)が主なものである。水痘様発疹の出現は4〜6%とされてい るが、発疹の個数は5個程度でほとんどは斑丘疹である。全身性の副反応は稀である。また従来、ゼラチンアレルギーのある小児などでは注意が必要であった が、各ワクチンメーカーの努力により、全ての生ワクチンからゼラチンが除去されるか、あるいはアレルギー反応を起こしにくい低分子ゼラチンの使用に変更さ れた。これに伴い、水痘ワクチンからもゼラチンが除去され、現在日本で流通している水痘ワクチンはゼラチンを含まない製剤である。水痘ワクチンは、麻疹・ 風疹などのワクチンと異なり、ワクチン接種によって抗体が獲得されても、水痘ウイルスに暴露した時に発症することが10〜20%程度ありうる。ただし、こ の場合の水痘は極めて軽症で発疹の数も少なく、非典型的であることが殆どである。
 2001年3月、米国で水痘ワクチン発売後約6年を経過した時点での接種成績がNew England Journal of Medicineにまとめられた。この報告によると、「水痘ワクチン接種は子供達の水痘を85%予防し、中等度から重症の水痘に関しては97%予防するこ とが可能であった。」と述べている。また、「接種後罹患した者においては、ワクチン接種6週間後のVZVに対する抗体価が低いことに関係しているようであ る。」とも述べられている。
これら効果についての報告が発表されるとともに、分子生物学的手法の発展により、水痘ワクチン「Oka」親株(野生株)とワクチン株との違いもGomi ら、Moffatらによって報告された。ワクチン株は野生株よりも皮膚における増殖が遅く、ウイルス血症が起こる前に免疫ができあがる。さらに、T細胞へ の感染性が減弱していること、などが報告されている。
 水痘が流行している施設や家族内での予防については、患者との接触後できるだけ早く、少なくとも72時間以内に水痘ワクチンを緊急接種することにより、 発症の防止、症状の軽症化が期待できる。浅野らの研究によると、家族内感染での発症予防に関し、予想発症日の1週間前からACVを予防内服 (40mg/kg/日、7日間)することにより症状を抑え、かつ免疫反応を獲得することが報告されている。ただし、予想発症日から約2カ月後にVZV抗体 の有無を確認しておく必要があり、獲得が見られなければ、その時点で水痘ワクチンを接種しておくことが望まれる。また最近では、高齢者に対する帯状疱疹の 予防として、水痘ワクチンを接種する試みが海外および国内でも始まっており、今後の結果が期待される。

 

感染症法における取り扱い(2012年7月更新)

定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約3,000カ所の小児科定点医療機関)は週毎に保健所に届け出なければならない。

届出基準はこちら

 

学校保健安全法における取り扱い(2012年3月30日現在)

第2種の感染症に定められており、すべての発しんが痂皮化するまで出席停止とされている。ただし、病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときは、この限りでない。
また、以下の場合も出席停止期間となる。
・患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
・発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
・流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間

 


(国立感染症研究所感染症情報センター)

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