国立感染症研究所

(2014年04月01日 改訂)

流行性角結膜炎(EKC:epidemic keratoconjunctivitis)は、主にD種およびE種のアデノウイルスによる疾患で、主として手を介した接触により感染する。以前は、本疾患患者を扱った眼科医や医療従事者などからの感染が多く見られたが、現在では、職場、病院、家庭内などの人が濃密に接触する場所などでの流行的発生もみられる。アデノウイルスは種々の物理学的条件に抵抗性が強いため、その感染力は強い。19 世紀後半、ドイツの労働者の間で流行したことが記載されている。その後米国で、"shipyard eye"と呼ばれる眼疾患が流行した。造船所の労働者が眼の外傷の治療のさい、医原病的に広がったものと考えられる。2007年ころまでは我が国では全国的にEKC がみられるが、年度によりD種の8、19、37型のいずれかの流行となっていると考えられていた。しかし、2007年頃からそれまでの血清型ではなく、アデノウイルスの完全長塩基配列の解読によるgenotypeが新型として報告され67型以上の新型が報告されている。それらのうち53、54および56型(遺伝子型)も日本国内でEKCの流行を引き起こしていることが明らかになっている。

疫学

流行性角結膜炎患者との接触により感染する。病院の医師、看護婦、さらに職場や家庭などで、ウイルスにより汚染されたティッシュペーパー、タオル、洗面器などに触れるなどして感染する。年齢による頻度の差はみられない。血清学的調査では、日本の子供の8型に対する抗体保有率は20%未満、19型および37型に対しては10%程度である。

感染症法施行後の発生動向調査によると、全国約600の眼科定点からの報告では2006年1~12月に報告数31,399(定点当たり報告数49.53)、2007年1~12月に23,537(35.82)、2008 年1~12月に24,266 (36.06)となっている。季節としては8月を中心として夏に多く、年齢では1~5歳を中心とする小児に多いが、成人も含み幅広い年齢層にみられる。

病原体

アデノウイルスは51種の血清型および52~67型までのgenotypeが知られているが、EKCを起こすのはD種の8、19、37、53、54および56型である。さらにB群の3、7型および11型、E群の4型も病因となりうる。

臨床症状

潜伏期は8~14日である。急に発症し、眼瞼の浮腫、流涙を伴う。感染力が強いので両側が感染しやすいが、初発眼の症状がより強い。耳前リンパ節の腫脹を伴う。角膜に炎症が及ぶと透明度が低下し、混濁は数年に及ぶことがある。ときに結膜炎が出血性となり、出血性結膜炎(エンテロウイルス70型, コクサッキーウイルスA群24型 変異株による)や咽頭結膜熱との鑑別を要することがある(図1)。その他、ヘルペスウイルスや、クラミジアによる眼疾患との鑑別が必要である。

図1. アデノウイルス8型による結膜炎(青木功喜先生撮影)

新生児や乳幼児では偽膜性結膜炎を起こし、細菌の混合感染で角膜穿孔を起こすことがあるので注意する必要がある。

病原診断

 眼ぬぐい液や結膜擦過法によりアデノウイルスを分離してウイルスが分離されたら、中和反応により型を同定する手法が用いられてきた。しかし、遺伝子型は血清型でないためペントン、ヘキソン、ファイバー領域の遺伝子配列の決定による同定がなされている(流行性角結膜炎・咽頭結膜熱診断マニュアルとして国立感染症研究所のホームページ上で手法を公開している)。D種アデノウイルスによる場合が多く、D種は重症型が多い。他の型が分離される軽症型では、咽頭結膜熱との異同を再検討する。迅速診断法としてイムノクロマトグラフィー法が使用されているが、型別の判定はできない。PCR‐シーケンス法などにより、型(分子型別)の同定が可能となった。血清型を知ることで、より詳細な疫学的調査が可能となり、公衆衛生的対応にも結びつくことが期待される。実用性の点からヘキソンのループ蛋白をコードする領域だけで型別(molecular typing)されてきたが、特に組換え型が多いD種の同定においてはファイバーおよびペントンの塩基配列決定が必要である。

治療・予防

 アデノウイルス全般について有効な薬剤はない。対症療法的に抗炎症剤の点眼を行い、さらに角膜に炎症がおよび混濁がみられるときは、ステロイド剤を点眼する。細菌の混合感染の可能性に対しては、抗菌剤の点眼を行う。眼疾患患者の分泌物の取扱いと処分に注意し、手洗い、消毒をきちんと行う。点眼瓶類がウイルスで汚染されないように注意をし、汚染された病院内の器具類はオートクレーブで滅菌するか、あるいはアルコール、ヨード剤などで消毒する。予防の基本は接触感染予防の徹底である。タオルや点眼液など目に接触するものは個人用とする。

<付記>
EKCという診断名は8型において初めて用いられ、一元的な病因論でいわれていたが、その後19、37型も8型と全く区別できず、多元的病因論が受け入れられている。4型でもEKC からPCF まで幅広い臨床像を示し、B群は軽症なのでEKCよりもアデノウイルス結膜炎という診断名を用い、重症型(D種)、中間型(E種)、軽症型(B種)という用語を用いることが提唱されている。

感染症法における取り扱い

流行性角結膜炎は5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約600カ所の眼科定点から毎週報告がなされている。報告のための基準は以下の通りとなっている。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ以下の3つの基準のうち2つ以上を満たすもの

  1. 重症な急性濾胞性結膜炎  
  2. 角膜点状上皮下混濁  
  3. 耳前リンパ節腫脹、圧痛

○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの

 

(国立感染症研究所感染症疫学センター)

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