国立感染症研究所

デング熱・チクングニア熱・ジカウイルス感染症等の媒介蚊対策<緊急時の対応マニュアル>

 

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デング熱・チクングニア熱・ジカウイルス感染症等の媒介蚊対策マニュアルの作成にあたって

 

 2014年夏にわが国では約70年ぶりにデング熱の国内流行が発生した。160名を超える患者のうち99%が主に東京都内の公園で感染したと推測され、患者の居住地は全国19都道府県に散見していた。8月28日に第一例が報道され、翌29日に媒介蚊であるヒトスジシマカの生息数調査と殺虫剤による成虫駆除が実施された。デング熱は、感染症の予防感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、「感染症法」という。)に基づく感染症発生動向調査では全数把握の4類感染症として分類されており、診断後直ちに届け出ることが医師に義務付けられている。また、積極的疫学調査が可能になったことから、この流行の発端は、報道による第一例よりさらにさかのぼり、8月9日に発症した患者がいたことが明らかになった。成虫駆除を行った日は流行開始から既に20日が過ぎており、ヒトスジシマカが推定感染地に留まっている可能性が低かったことも後に明らかになった。


 デングウイルスを伝播するのはヤブカ属シマカ(Stegomyia)類の蚊である。シマカ類は世界中に約130種類が生息しているが、その中でデングウイルス媒介蚊として重要な種類は、ネッタイシマカとヒトスジシマカの2種類である。また、国内にはデングウイルスが増殖することが実験的に確認されたシマカ類も複数分布しているが、これらの生態的条件を考慮してデングウイルスの媒介能力を比較すると、ネッタイシマカとヒトスジシマカの伝搬能力が優れていることは明らかである。


 本媒介蚊対策マニュアルは、2015年4月28日付の蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針(平成27年厚生労働省省告示第260号)の策定に伴い作成された、平常時の対応を中心に、緊急時対応に言及した「デング熱・チクングニア熱等蚊媒介感染症の対応・対策の手引き 地方公共団体向け(平成29年4月28日改定)」の内容から、特に緊急時の媒介蚊対策に焦点を当て、詳細に解説した。2014年の媒介蚊対策で得られた知見を反映させ、さらに、その後に昆虫医科学部で実施した野外における殺虫剤の効力試験の結果を加えた緊急時の対策マニュアルとなっている。また、近年、航空機によるネッタイシマカ成虫の侵入がいくつかの国際空港で頻繁に起きていることから、ネッタイシマカを対象とした蚊対策について付録を追加した。


 2014年のデング熱国内感染事例の発生を受け、国内の医師や一般市民におけるデング熱等の認知が高まったこと、また迅速診断キットや地方衛生研究所における検査体制の整備などもあり、今後はデング熱等の国内感染症例が探知される機会が増えることが予想される。本マニュアルは、このような状況の変化の中、国内感染症例を早期に探知し、早期の対応を行うことにより新規の症例発生を防止することを目標とし、当該施設等管理者、市町村、都道府県等(等は保健所設置市及び特別区を含む)が実施すべき事項をまとめた。なお、今後、さらなる知見が集積された場合には、必要に応じて、マニュアル及び手引きの改訂版を発行する予定である。

 

目 次
 
第1章 デング熱・チクングニア熱・ジカウイルス感染症等の媒介蚊対策マニュアルの作成にあたって
 
第2章 デング熱・チクングニア熱・ジカウイルス感染症等の発生時の媒介蚊対策における基本的な考え方
2-1. デング熱発生時対応の流れ 
2-2. 媒介蚊対策の実施者と実施内容
2-3. ヒトスジシマカ対策の概要
 
第3章 ヒトスジシマカの発生状況調査
3-1. 調査対象地域の選定
3-2. 調査対象地域の地形、土地利用状況の把握
(1) 調査範囲
(2) 調査場所
(3) 調査内容
3-3. 成虫密度調査の実施
(1) 調査範囲と調査チームの構成
(2) 成虫飛来密度
(3) 幼虫発生源の調査と対策
(4) データ分析(西宮市の住宅地の調査例を参照)
(5) 媒介蚊対策の実施と効果判定
 
第4章 殺虫剤によるヒトスジシマカの防除対策
4-1. 薬剤散布対象地の選定
4-2. 薬剤散布計画の策定
(1) 作業用地図
(2) 散布エリア
4-3. 成虫対策における化学的防除
(1) 殺虫剤の有効成分
(2) 殺虫製剤の種類と散布機器
(3) 散布方法の要件
(4) 住民・施設利用者への周知
4-4. 効果判定
4-5. 幼虫対策
(1) 昆虫成長制御剤 
(2) その他の製剤
(3) 殺虫剤のローテーション使用
 
第5章 媒介蚊からのデングウイルス検査

【付録 1】 蚊媒介感染症とそのベクター
1-1. 主な蚊媒介感染症
(1) デング熱 
(2) チクングニア熱
(3) ジカウイルス感染症
(4) ウエストナイル感染症
(5) 日本脳炎 
1-2. 国内に生息する主要な蚊媒介感染症のベクター 
 
【付録 2】 ヒトスジシマカの特徴と鑑別
2-1. ヒトスジシマカの国内分布 
2-2. ヒトスジシマカ成虫の活動特性と吸血嗜好
2-3. ヒトスジシマカ幼虫の発生源 
2-4. 日本産シマカ類(Stegomyia)とネッタイシマカの種類同定 
(1) シマカ類成虫の形態的特徴
(2) 日本産シマカ類とネッタイシマカ成虫の検索表
(3) 幼虫による種類同定
(4) イエカ類とヤブカ/シマカ類の幼虫の違い
 
【付録 3】 媒介蚊の調査事例
3-1. 代々木公園の調査事例 
3-2. 住宅地-1(台東区)の調査事例 
(1) 経緯・保健所の要望
(2) 調査対象範囲の決定
3-3. 住宅地-2(渋谷区)の調査事例 
(1) 経緯・保健所の要望
(2) 調査対象範囲の決定
3-4. 住宅地における幼虫発生源の調査例
3-5. 兵庫県西宮市の住宅地で実施した調査例 
(1) 調査の対象範囲
(2) 調査方法
(3) 調査結果
(4) 考察

【付録 4】 各種散布法による実地及び準実地試験の例
4-1. 油剤の煙霧(スミチオンNP油剤-パルスジェット式エンジン煙霧機)
(1) 散布地の立地・植生
(2) 成績と考察
(3) 散布作業者のコメント
4-2. 乳剤のハンドスプレーヤーによる散布
(スミスリン乳剤SES-ハンドスプレーヤー)
(1) 散布地の立地・植生
(2) 成績と考察
(3) 散布作業者のコメント
4-3. 液化炭酸ガス製剤の散布(ミラクンS)
(1) 散布地の立地・植生
(2) 成績と考察
(3) 散布作業者のコメント
4-4. ULV水性乳剤の散布(金鳥ULV水性乳剤S-電動式・エンジン式ULV散布機)
(1) 散布地の立地・植生
(2) 成績と考察
(3) 散布作業者のコメント
4-5. 散布機器の作業効率
4-6. 有効な噴霧時間と飛距離に関する準実地試験
 
【付録 5】 媒介蚊からのデングウイルス検出
5-1. 捕集蚊の輸送と保管
5-2. 蚊プール検体の作製
5-3. 捕集蚊からのデングウイルス検出法
(1) 蚊破砕液からのデングウイルス遺伝子の検出
(2) 培養細胞接種法によるデングウイルスの分離
 
【付録 6】 ネッタイシマカの特徴と対策
6-1. ネッタイシマカのわが国への侵入と越冬の可能性
6-2. ネッタイシマカの活動特性と吸血嗜好
6-3. ネッタイシマカ幼虫の発生源
6-4. 殺虫剤によるネッタイシマカの防除対策 
(1) 国内におけるネッタイシマカの侵入監視
(2) 対策範囲の考え方
(3) ネッタイシマカに対する化学的防除
 
【付録 7】 平常時のリスク評価とヒトスジシマカ対策の考え方
7-1. 平常時の媒介蚊対策
7-2. 平常時の媒介蚊対策スケジュール案 
 
【付録 8】 感染症法の関連条文
 
<資料1> 蚊成虫防除用殺虫剤
<資料2> 殺虫剤散布用機器
<資料3> リーフレット、掲示文書、ポスター見本(住民への配布資料)
<資料4> 蚊幼虫防除用殺虫剤
<資料5> 新宿区定点におけるヒトスジシマカの季節消長
<資料6> 殺虫剤効力試験(公園A~D)
<資料7> 使用機器の作業効率
<資料8> 散布時間と距離に関する準実地試験 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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