速報
◆ レジオネラ症 2007~2011年(2012年12月26日現在)
レジオネラ症は、レジオネラ属菌(主にLegionella pneumophila)による感染症で、時に致死的な肺炎型と、一過性のインフルエンザ様症状を呈するポンティアック熱型に分類される。肺炎型では、症状のみで他の病原体による肺炎と鑑別することは困難ではあるが、四肢の脱力感や意識障害等の神経・筋症状を伴う例や、急速に全身状態が悪化する例があるため注意が必要である。レジオネラ属菌は水中や湿った土壌などの自然環境中に普遍的に存在している細菌であり、噴水やエアーコンディショナーで使用する冷却塔の水、また循環風呂といった人工環境水中にも存在することが知られている。
レジオネラ症は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(1999年4月施行)」の4類全数把握の対象疾患として、無症状病原体保有者を含め、診断した全ての医師に届出が義務付けられている。
感染症法の報告に基づくレジオネラ症の発生動向については、これまで、感染症週報(IDWR)2005年第44号:https://idsc.niid.go.jp/disease/legionellosis/sokuho0544.html、同2007年第17・18合併号:https://idsc.niid.go.jp/disease/legionellosis/sokuho0718.html、および、病原微生物検出情報(IASR)2008年12月号:https://idsc.niid.go.jp/iasr/29/346/tpc346-j.html、同2003年2月号:https://idsc.niid.go.jp/iasr/24/276/tpc276-j.html、同2000年9月号:https://idsc.niid.go.jp/iasr/21/247/tpc247-j.html などにおいて記述しており、今回は2007~2011年の報告分についてまとめる。なお、届出は2006年4月から肺炎型とポンティアック熱型の2つの病型に分類されたが、届出基準には分類の基準が明確に示されていないため、今回は病型別の集計は行わなかった。
2007~2011年に感染症法のもとで報告されたレジオネラ症は、2007年668例、2008年893例、2009年717例、2010年751例、2011年818例の計3,847例であった。2004年以降2008年まで増加が続いたが、2009年はやや減少した後、再び緩やかに増加しており、2011年は2008年に次ぐ報告数であった。集団発生事例としては、2011年にスポーツクラブ(8例:神奈川県)が報告された。
死亡は117例(男性89例、女性28例)が報告され、致死率は3.0%となった(ただし、届出時点以降の死亡については十分反映されていない可能性がある)。死亡が報告された症例の年齢中央値は73歳(0~102歳)であった。
2007~2011年に報告された3,847例について、週別報告数をみると夏季(第28~37週)にピークが認められた(図1)。
3,847例を報告された都道府県別にみると、東京都313例、大阪府261例、神奈川県257例、愛知県228例、兵庫県202例が多かった(図2)。人口10万人に対する報告数は、全国平均(0.64)であった。富山県(1.95)、石川県(1.57)、新潟県(1.12)、岡山県(1.12)、鳥取県(1.11)と多く、宮崎県(0.19)、青森県(0.20)、徳島県(0.20)、佐賀県(0.21)、奈良県(0.31)が少なかった(人口は平成22年国勢調査による)。
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図1. レジオネラ症の年別・週別報告数(2007~2011年) |
図2. レジオネラ症の都道府県別報告数(2007~2011年) |
図3. レジオネラ症の感染地域別報告数(2007~2011年) |
感染地域は国内3,745例、国外85例、不明17例であった(感染地域は確定また推定として報告されている)。
感染地域が国内と報告された3,762例(国外との重複を含む)の都道府県は、兵庫県183例、大阪府177例、神奈川県175例、愛知県168例、東京都162例、埼玉県160例の順に多く、このうち兵庫県18例、神奈川県16例、愛知県6例、東京都10例、埼玉県20例は他の都道府県から報告されていた。都道府県不明が454例あった(図3)。さらに、報告地の都道府県と、感染地域として報告された都道府県を比較すると、北海道、青森県、山形県、福島県、栃木県、群馬県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、三重県、奈良県、和歌山県、島根県、徳島県、愛媛県、高知県、佐賀県、熊本県、大分県、鹿児島県で、感染地域とされた数が報告数より多かった。
感染地域が国外と報告された102例(国内との重複を含む)の内訳は、中国が最も多く32例で、次いでイタリア9例、タイ9例、トルコ8例、台湾5例、フィリピン5例、インドネシア5例などであった。
3,847例の性別は、男性3,092例、女性755例で圧倒的に男性が多く80.4%を占めた(図4)。年齢中央値は66歳(0~103歳)〔男性65歳(0~99歳)、女性75歳(0~103歳)〕で、10歳毎の年齢群でみると、60~69歳(29.8%)にピークがあり、50歳以上の年齢群が全体の90%以上(90.6%)を占めた。男女別にみると、男性は60代、50代、70代の順に多く、女性は80代、70代、60代の順であった(図4)。
症状をみると、届出様式に選択式になっているものでは、発熱が3,516例(91.4%)、咳嗽1,897例(49.3%)、呼吸困難1,725例(44.8%)、意識障害668例(17.4%)、下痢352例(9.1%)、腹痛89例(2.3%)で、肺炎が3,412例(88.7%)、多臓器不全が317例(8.2%)に認められていた(複数回答あり)。また、肺炎、多臓器不全のいずれかひとつでも認められたものは3,437例(89.3%)であった。その他の症状として、胸痛・胸水、横紋筋融解、筋肉痛、関節痛、肝機能障害などの自由記載があった。
診断方法を年別にみると、いずれの年も尿中抗原の検出が95%以上の症例に行われていた。一方、菌の分離・同定が実施されていたものは5年間の平均で3.4%(2.2~4.0%)と少なかった(表)。
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図4. レジオネラ症の性別・年齢群別報告数(2007~2011年)n=3,847 |
表.レジオネラ症の診断方法(2007~2011年) |
図5. レジオネラ症の職業分類別報告数(2007~2011年) |
感染原因・感染経路は、不明が2,074例で半数以上を占めた。記載のあったものでは、水系感染1,415例、塵埃感染228例、その他65例、水系及び塵埃感染64例、水系及びその他1例であった(感染源・感染経路は確定または推定として報告されている)(複数回答あり)。特別養護老人ホームやグループホーム等の施設関連からの感染又はその疑いの記載が17例、院内感染又はその疑いの記載が8例あった。
さらに、感染機会の一つとして、職業上の曝露を検討するために、生産年齢人口と定義された15~64歳(1,730例)について、日本標準職業分類(http://www.stat.go.jp/index/seido/shokgyou/5naiyou.htm)を用いて分類し、検討した。「会社員」「自営業」と記載されたもの等は具体的な職種が不明なため、本検討から除外した。その結果759例(男性726例、女性33例)を対象に検討することとした。759例の年齢平均値は55.1歳、中央値は57歳(28~64歳)〔男性の年齢平均値55.4歳、中央値57歳(28~64歳)、女性の年齢平均値49.6歳、中央値54歳(24~64歳)〕であった。
生産工程・労務作業者(362例)の内訳は、採掘・建設業務従事者215例、金属材料製造作業者および輸送機器組立・修理作業者102例、電気作業者26例等があった。運輸・通信従事者(142例)の内訳は、運転手136例、船員3例、その他3例であった(図5)。職業上の曝露の検討はレジオネラ症の対策において重要であり、そのためには職種として職業を把握することが必要である。
レジオネラ菌が土埃などとともに冷却塔、循環式浴槽、給湯設備、加湿器等の人工環境水系に混入することは避けられない。入浴施設などにおいては、「レジオネラ症の知識と浴場の衛生管理」(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/legionella/about.html)に沿った適切な消毒や清掃を行うことが求められる。
治療については、レジオネラ菌はヒトの食細胞内で増殖するため、細胞内への移行が良好な薬剤でなければ治療効果は期待できない。ペニシリン、セフェム系およびカルバペネム系などのβ-ラクタム系薬剤やアミノ配糖体系薬剤は有効ではない。ニュ-キノロン系薬剤、マクロライド系薬剤、及びリファンピシンは細胞内移行が良好であり、優れた抗菌活性を有することが知られている。特に、キノロン系抗菌薬の治療効果は優れている。
尿中抗原検査法の普及は診断率の向上と診断に要する期間短縮をもたらし、診断・治療に大きな功績があったといえる。尿中抗原検査で陽性となるのは、レジオネラ肺炎の8~9割の原因とされるL.pneumophila 血清群1感染症であり、それ以外のレジオネラ症では偽陰性になることがあること、また、いったん陽性になると数週間から数カ月間陽性を持続することがあることなどに注意が必要である。また、尿中抗原検査が診断法の95%以上を占めるため、従来行われていた喀痰等の検体採取については3.4%と低い報告数となっている。レジオネラ症の感染拡大防止・感染予防対策の実施には、感染原因・感染経路の特定が重要であり、患者と環境からの菌の同一性の確認には、菌の分離が必要である。医療機関と保健所、地方衛生研究所等の協力により、集団発生が疑われる場合だけでなく、可能な限り患者と環境からレジオネラ菌を分離し、遺伝子学的な分析の実施を考慮する必要がある。
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