沖縄県本島北部の河川で発生したレプトスピラ症集団感染事例
(IASR Vol. 38 p.40-41: 2017年2月号)
2016年, 本県のレプトスピラ症患者発生数は2003年に4類感染症に指定されて以来, 最多となった(本号19ページ)。今回, 沖縄県本島北部の河川で本症集団感染事例が発生したので報告する。
2016年8月沖縄県国頭郡国頭村を流れる奥間川が感染場所と推定されるレプトスピラ症集団感染事例が発生した。8月6日に奥間川で川遊びをしたグループ約70名中12名が本症と診断された。患者の性別は男性6例, 女性6例, 年齢は10歳未満の小児10例, 10代1例, 30代が1例であった。潜伏期間 (図1) は9~16日(平均11.8日)であり, 医療機関を受診したのは発症後1~6日(平均3.3日)であった。臨床症状(図2)は発熱12例(100%), 結膜充血11例(91.7%), 筋肉痛9例(75.0%), 頭痛8例(66.7%), 胃腸炎6例(50.0%)であった。血液または尿検査では肝機能障害が3例(25.0%), 腎機能障害が2例(16.7%)認められた。また, 初回抗菌薬投与後2~3時間以内の40℃台の高熱, 悪寒戦慄(Jarisch-Herxheimer反応)が9例(75.0%)認められた。また, 治療開始後に腹痛, 嘔吐や痙攣を起こした症例, 不穏・譫妄となり鎮静剤を要した症例も確認された。
当所では本事例の患者12例中11例の実験室診断を行った。顕微鏡下凝集試験による抗体検査は11例実施しすべて陽性, PCR検査は1例実施し陽性, 菌分離は1例実施し陰性であった。抗体検査を実施した11例の推定感染血清群はHebdomadis 8例, Autumnalis 1例, 複数血清群陽性2例と, 複数の血清群による感染が確認された。実験室診断を実施しなかった1例については, 受診した医療機関が菌分離を外部検査機関に委託し, 陽性が確認された。
奥間川は, 病原性レプトスピラの保菌動物であるイノシシやマングース等, 多種類の野生動物が生息する自然豊かな地域に位置する清流として知られている。患者は, 川伝いに上流の滝まで往復し, 合計3時間ほど川に入っていた。服装は上半身長袖, 下半身水着, ライフジャケットの着用と統一されており, 全身が水に浸かり, 外傷があった患者もいた。このグループでは毎年本島北部での川遊びを実施しているが, 本症の患者発生は初めてとのことだった。本県健康長寿課および南部保健所はこの集団発生事例に対し, このグループ関係者への情報提供を行うとともに, マスコミを通して県民への注意喚起を実施した。
本症の潜伏期間は通常5~14日と言われているが, 今回は9~16日であった。本症は河川でのレジャーが感染機会となることが多いが, レジャーガイドのようなハイリスクグループでは毎日のように河川に入ることが多く, 感染日の推定が困難であり, よって潜伏期間を明らかにするのが困難であった。今回の集団発生で, 小児としてのまとまった潜伏期間の情報が得られたため, 今後臨床診断の一助となることが示唆された。
奧間川に限らず, 本県本島北部地域の河川は, 多くの人が訪れる。今回集団感染事例が発生したことを受け, 広く本症の存在を周知し, 川遊びの際には体に傷を創らないよう肌の露出を避けた服装の徹底や, 外傷がある場合は川に入らない等の「予防措置」, そして河川に入った後, 症状が出た際は, 早期受診, 早期治療を促す「対策」ができるよう情報を発信していくことが重要であると考えられた。