国立感染症研究所

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幼稚園における麻疹の集団発生事例について―和歌山市

(IASR Vol. 35 p. 278-280: 2014年11月号)

はじめに
感染症発生動向調査(2014年7月2日現在)において、和歌山県は都道府県別人口百万人当たりの麻疹報告数が25.9と突出し1)、和歌山市の患者報告数が大半を占めていた。和歌山市衛生研究所では、2014年1~6月までに麻疹疑い患者123人の咽頭ぬぐい液121検体、血液108検体、尿43検体を検査し、22人から麻疹ウイルス遺伝子を検出した。そのうち2014年3月に発生した和歌山市内の幼稚園児とその家族における集団発生事例について報告する。

概 要
2014年3月15日、39.5℃の発熱、発疹、咳、鼻汁、目脂、コプリック斑の症状を示した1歳女児(患者A)の咽頭ぬぐい液、血液から麻疹ウイルスの遺伝子が検出された。和歌山市保健所は、この患者の発生を受け、直ちに管内医療機関に向けFAX等で情報提供を行った。その直後、患者Aの兄が通う幼稚園の園児が、3月17日(患者B、D)、19日(患者E、G)、21日(患者C、F)に麻疹を発症し、その後も3月27日(患者H)、4月2日(患者I)、5日(患者J)に麻疹を発症した。さらに4月8日に患者Hの兄である小学生(患者K)が麻疹を発症し、幼稚園児9人と家族2人の合計11人による集団感染が発生した。

検査方法
国立感染症研究所の麻疹検査マニュアル(第2版)に準じて、患者11人の咽頭ぬぐい液11検体、血液11検体、尿3検体を用いて、麻疹ウイルスのH遺伝子およびN遺伝子のRT-Nested PCRを実施し、さらにVero/SLAM細胞を用いてウイルス分離を行い、検体またはウイルス分離株のN遺伝子のNested PCR産物を用いて、ダイレクトシークエンス法により456bpの塩基配列を決定し、NJ法により系統樹解析を行った。

検査結果
遺伝子検査の結果、N遺伝子は患者11人のすべての検体から検出されたが、H遺伝子は咽頭ぬぐい液11検体、血液8検体、尿3検体から検出され、血液3検体から検出されなかった。ウイルス分離の結果、咽頭ぬぐい液5検体のみからウイルスが分離された。また、N遺伝子の系統樹解析の結果はすべてB3型であった(図1)。

考 察
患者11人の年齢、性別、ワクチン接種歴、発症日、検体採取日、症状および検査結果をに示した。ワクチン未接種者では、39.5℃の発熱、発疹、鼻汁、咳、コプリック斑、目脂の麻疹患者の典型的な症状があったのに対し、ワクチン接種者は、発熱、鼻汁、咳、軽度の発疹で、高熱の患者もいたが、ほとんどの患者が軽症であった。遺伝子検査では、H遺伝子のNested PCR産物は、検出されたすべての検体において349bpでなく1st PCRとほぼ同じサイズの約400bpであった(図2)。B3型ではMHR2プライマーとの相同性が低いとの報告がある通り2)、本事例のH遺伝子についてもsemi-Nested PCRとなり約400bpにバンドが確認されたと考えられる。N遺伝子は採取した検体すべてから検出され、検体種別やワクチン接種歴の有無、発症から検体採取までの期間による差はなかった。ウイルスが分離された5人はワクチン未接種者1人、ワクチン接種者4人で、咽頭ぬぐい液からのみウイルスが分離され、血液、尿からは分離されなかった。そのうちワクチン接種者4人では、発症日から2日以内に検体を採取していたことから、ワクチン接種者のウイルス分離に用いる検体は、発症から2日以内の咽頭ぬぐい液が有効であると考えられた。

疫学調査において、幼稚園の園児は3~6歳が349人、2歳(週2回保育)が64人の合計413人であり、そのうちワクチン未接種者は1人で、接種率は99.8%であった。接触のあった3~6歳の園児の発症率は、349人中9人で、わずか2.6%であった。患者KはMRワクチンを1期と2期に接種していたが、検体採取時(発症日)の抗体保有状況は、IgM 0.13、IgG 2.3であった。患者11人の感染は、発症日から患者A~Gの7人が、ほぼ同一時であったと考えられる。また、患者H、Iは幼稚園での接触、患者Jは患者Bの妹であり、それぞれ2次感染が考えられ、さらに患者Kは患者Hの兄で3次感染であると考えられる(図3)。同一時に感染したグループから遡ると、感染は3月初め頃と考えられ、この期間に幼稚園では雛祭りやお別れ会等の行事が行われており、園児以外も幼稚園に出入りをしている。園児でない患者Aもこの期間に幼稚園に出入りをしているため、この期間において幼稚園での感染が疑われたが感染源を特定するまでに至らなかった。

和歌山市保健所は、園児における麻疹の発生を受け、全園児と教職員のワクチン接種歴調査、ワクチン未接種者への接種勧奨、有症状時の受診勧奨を実施した。さらに患者Hの同居接触者である小学生(患者K)の発症を受け、小学校に対しても同様の協力を依頼した。この期間中、幼稚園と小学校付近の医療機関には重点的に情報提供を行った。このような保健所の対応がサーベイランス強化となり、ワクチン接種歴のある軽症患者10人を確認することができた。

おわりに
麻疹患者の発生を受け、和歌山市保健所の積極的な疫学調査と和歌山市衛生研究所の迅速な対応により、通常見逃す恐れがあった軽症患者(ワクチン接種者)10人を確認したが、幼稚園におけるMR1期ワクチンの接種率が99.8%と高率であったため、感染拡大は限定的であった。

和歌山市では、本事例以外にも家族内感染3事例が3~5月に発生し、合計11人から麻疹ウイルスの遺伝子を検出した。患者11人のワクチン接種歴は、接種者3人、未接種者6人、不明2人であり、ウイルス分離では、接種者1人(発症日から2日以内に採取された咽頭ぬぐい液)と未接種者6人からウイルスが分離され、不明2人からは分離されなかった。また、N遺伝子の系統樹解析の結果はすべてB3型であった。

今回の集団事例を経験して、麻疹対策においては、保健所と衛生研究所の連携を密にするとともに、医療機関の協力を得て、早期対応することが重要であると思われた。

 
参考文献
  1. 感染症発生動向調査:都道府県別人口百万人当たり麻しん報告数 2014年 第1~26週(2014年7月2日現在)
    https://www0.niid.go.jp/niid/ja/idsc/idwr/diseases/measles/measles2014/meas14-26.pdf(Accessed 7/2, 2014)
  2. IASR 34: 201-202, 2013
 
和歌山市衛生研究所 
  江川秀信 金澤祐子 太田裕元 廣岡真理子 西山貴士 森野吉晴   
和歌山市保健所   
  丹生哲哉 藤井広子 神戸千佐 岩田ゆかり 松浦英夫 永井尚子
 

 

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