国立感染症研究所

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麻疹排除状態における輸入麻疹発生時対応の経験―茨城県

(IASR Vol. 37 p. 163-164: 2016年8月号)

概 要

モンゴルから帰国した0歳児が麻疹を発症した。患者は診断がつくまでに医療機関を延べ4回受診していた。当所は, 接触者に対し積極的疫学調査, 緊急ワクチン接種等の説明および健康観察を実施し, 二次感染者なく終息に至った。この事例における対応について報告する。

症 例

0歳11か月男児。2016年3月半ば~5月4日までモンゴルに渡航。帰国日より発熱・咳嗽発症し, A病院救急外来受診。6日B医院受診。発疹出現。7日A病院救急外来受診。発熱・咳嗽・発疹の症状続く。9日A病院受診, 麻疹疑いとして入院。10日当所あて検査依頼あり, PCR陽性で麻疹と確定診断された。

対 応

まず, 患者調査を実施。基礎疾患はなく, 麻疹ワクチン未接種。保育所等での集団生活はしていない。同居者は3名で, 患者の発症日以後に自宅への訪問者はなく, 外出は医療機関受診のみであった。また, モンゴルからの帰国便名を聴取した。次に接触者調査として, 同居家族について調査し, A病院およびB医院に対し接触者のリストアップを依頼した。また, 医薬品卸業者へワクチンと免疫グロブリンの在庫状況を確認した。さらに, 感染症情報メール・感染症情報収集システムコメント欄・当所ホームページを用いて管内医療機関および市, 保育所, 幼稚園, 学校職員および一般市民に対し, 麻疹患者発生の情報を発信し, 注意喚起および定期ワクチンの接種勧奨を行った。

結 果

家族3名に有症状者はなく, 記憶ではワクチン接種を1回受け, 麻疹の罹患歴もあるとのこと。よって全員を健康観察対象者とした。A病院での接触者は, 職員13名と患者および同伴者37名であり, B医院での接触者は, 職員5名と患者および同伴者22名であった。A病院の受診は3回とも時間外であり, 患者数が限られていたこと, B医院では発熱者は診察直前まで自家用車内待機という体制が図られていたことから, 比較的接触者は小規模であった。両医療機関に対し「医療機関での麻疹対応ガイドライン第六版」に基づく職員への対応を依頼した()。患者および同伴者合計59名については, 当所および対象者住所地管轄の4保健所が調査を行った。1歳以上での2回のワクチン接種記録がある者2名・抗体価基準値以上(「医療関係者のためのワクチンガイドライン第2版」による)の記録がある者3名・その母から出生した6か月未満児1名については免疫ありと判断した。1歳未満のワクチン未接種者7名・記憶によるワクチン接種2回の2名・1回の12名・不明者等16名に加え, 第2期定期接種対象年齢未満のワクチン接種記録1回の16名の計53名を健康観察対象者とし, 麻疹ワクチンや免疫グロブリン製剤についての情報提供を行い, 3名が緊急ワクチン接種を実施した。なお, 定期接種対象年齢の未接種者はいなかった。健康観察対象者には, 電話で健康状態の確認を行い, 麻疹の症状について説明し, 有症状時には麻疹患者接触者であることを事前に医療機関へ連絡のうえ受診するよう伝えた。3週間の健康観察期間中, 3名に発熱もしくはカタル症状がみられ, 麻疹PCR検査を実施したが, いずれも陰性であった。

5月23日, A病院において患者の診察にあたった医師2名に発熱やカタル症状が出現したことを探知した。両名は当初抗体ありと判断され, 健康観察対象外であった。1名はカタル症状出現後も数日間勤務し, 診察患者だけでも44名と接触していた。両名とも外部職員で, 記録によるワクチン接種歴は1回で, 抗体価は基準値未満であったことが判明した。A病院では自院職員のワクチン接種歴および抗体価は管理していたが, 外部職員については受け入れ時に確認を求めていたものの, 徹底はされていなかった。検査の結果, 2名ともに麻疹PCR陰性であった。

なお, 航空機内接触者については, 航空会社の協力が得られず調査不能であった。

最終接触日より4週間後まで新たな麻疹患者の発生はなく, 6月4日終息と判断した。

考 察

感染力が極めて強い麻疹の対策として最も有効なのは, 発生の予防である。今回感染拡大に至らなかった要因として, 定期予防接種の接種率を高く維持できていたこと(茨城県:第1期97.4%, 第2期94.8%), A病院, B医院ともに平常時の院内感染対策がなされていたことが挙げられる。

また, 麻疹患者発生時には迅速な対応が求められるが, 今回, 初発患者発生直後よりA病院と連携し, 臨時院内感染対策委員会に当所も参加し, 情報の共有, 対応の確認を行うことができた。「医療機関での麻疹対応ガイドライン(第六版)」には最も重要な事項として, 医療機関職員の麻疹ワクチン接種歴および抗体価を記録により確認する必要性が記載されている。今回, 医療機関, 保健所ともにその確認を徹底しなかったため, 一時感染拡大の危機に瀕した。

本症例を経験し, 海外輸入例からの感染拡大を防ぎ, 排除国を維持するためには, 平常時の対応が重要であると実感した。2回の予防接種を確実に実施し, 記憶ではなく記録によるワクチン接種歴や抗体価の確認を行うことが, 感染力の極めて強い麻疹に対抗できる手段であると考える。

茨城県つくば保健所健康指導課
 本多めぐみ 黒江悦子 大本俊子 児玉麻里

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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