国立感染症研究所

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2019年3~4月にかけて神戸市内で発生した麻しん事例について

(IASR Vol. 41 p14-16: 2020年1月号)

2019年3~4月に神戸市内において20例が麻しん症例として検査確定された事例が発生した。本事例の概要と検査結果から得られた知見について報告する。

概 要

麻しん患者20例(8か月~53歳)の概要および患者発生状況を表1に示す。初発患者は2019年2月13日~3月2日までフィリピン渡航歴があり予防接種歴のない20代の日本在住のフィリピン人男性 (症例1) で, 3月11日に麻しんを発症した。症例1がA医療機関を受診した際, 症例2, 3, 4が空間共有 (待合室ではない) しており, 二次感染が発生したと考えられる。その後, 症例2から父母(症例9および11)およびB医療機関(小児医療機関)での接触者(症例7, 8および12)への三次感染が起きた。さらに, 症例7(修飾麻しん)から同じくB医療機関での接触者(症例15, 17, 19および20)への四次感染が起きた。症例5は3月25日に麻しんを発症し, C医療機関に入院した。そして, C医療機関での接触者から麻しん患者が確認された(症例10および18)。症例1と症例5の疫学的リンクは明らかになっていないが, 症例5の行動圏および発症の時期から, 症例1との接触は否定できない。症例6, 13, 14, 16は, 疫学的リンクが不明であった。

なお, 四次感染を引き起こした症例7は, 感染性を有する時期に保育園に登園していたが, 保育園からの麻しん患者の発生はなかった。

麻しん患者の疫学情報

ワクチン接種歴については, 麻しん患者20例中7例が不明, 3例が接種歴無し, 9例が1回接種, 1例が2回接種であった。ここで, 感染症法上において, 届出のために必要な要件に基づき, 臨床症状の3つ(ア:麻しんに特徴的な発疹, イ:発熱, ウ:咳嗽, 鼻汁, 結膜充血などのカタル症状)すべてを満たすものを典型麻しん。届出に必要な臨床症状の1つ以上を満たし, かつ届出に必要な病原体診断のいずれかを満たすものを修飾麻しんとして, それぞれについて分類した。典型麻しんに分類された症例は12例あり, うち9例が接種歴無しまたは不明, 2例が1回接種, 1例が2回接種であった。修飾麻しんに分類された症例については8例あり, うち7例が1回接種, 1例が接種歴無しであった。麻しん患者の年齢幅は8か月~53歳で, 中央値は32歳であった。20~30代において9症例と患者が多く, 次いで1歳未満~1歳において7症例と患者が多かった。

麻しんウイルスの遺伝子型

国立感染症研究所の病原体検出マニュアル麻しん(第3.4版)に準拠したreal-timePCR法により陽性となった18例について(症例7および20はIgM陽性での届出), N遺伝子のconventional RT-PCRを実施し, 遺伝子型別を行ったところ, 11例(疫学的リンクが不明であった4例中2例を含む)で遺伝子型を決定できた。11例すべてフィリピンにおいて流行しているB3型で, N遺伝子の450塩基が完全に一致していた。同配列のB3型は, 同時期に大阪府, 愛知県, および香港で検出されていた。また, 2018~2019年に米国, ニュージーランドおよびオーストラリアでも検出されていた。

典型麻しんおよび修飾麻しん検体中の麻しんウイルス量

感染症法に基づく典型麻しん患者と修飾麻しん患者における咽頭ぬぐい液, および尿中の麻しんウイルス量(コピー/mL)を比較した(表2)。検体中のウイルス量について, real-time PCRの際に検量線を作製し, 各々のCt値から算出した。その結果, 典型麻しん患者の検体中ウイルス量は, 修飾麻しん患者に比べて多い傾向がみられた。そこで, 典型麻しん患者および修飾麻しん患者の検体中ウイルス量の2群間比較をMann-WhitneyのU検定を用いて行ったところ, 尿においては典型麻しん患者と修飾麻しん患者の間でウイルス量に有意な差がみられなかったが, 咽頭ぬぐい液においては典型麻しん患者におけるウイルス量が修飾麻しん患者より有意に多かった(p<0.01)。

考 察

本事例では, 初発例を発端に主に医療機関での空間共有を介して四次感染まで拡大し, 麻しんの感染力の強さを改めて認識させられた。また, 予防接種歴がない20代男性がフィリピンから麻しんを持ち込んだ輸入例であったこと, 麻しん患者20例中1例を除いてワクチン接種2回ではなかったことから, 麻しんの予防にはワクチンの2回接種が有効であり, 海外渡航者へのワクチン接種が重要であることが示された。また, ワクチン接種1回が多かった修飾麻しん患者の咽頭ぬぐい液中の麻しんウイルス量は, 典型麻しん患者に比べて有意に少なく, 尿中においても少ない傾向がみられたことから, 事前のワクチン接種が感染拡大の防止に効果的であることが示唆された。さらに, 症例7が登園していた保育園においても, 症例7と同クラスの幼児全員がワクチン1回接種, また職員全員がワクチン2回接種しており, このワクチン接種率の高さが当保育園で感染拡大がなかった要因と考えられる。

近年, 日本における麻しん患者の年齢分布は, 20~39歳が多く1), この世代への追加のワクチン接種が必要であるとする指摘もある2)。また, ワクチン接種を受けられない1歳未満および1回目のワクチン接種が可能となる1歳でも患者が認められる1)。本事例においても20~30代の患者が多く, 次いで1歳未満~1歳の患者が多かった。麻しんの予防・感染拡大防止の点から20~30代への対策により成人麻しん患者を減らし, それにより1歳未満~1歳への感染を防止していくことが重要であると考えられる。

本事例は, 症例1がフィリピンから持ち込んだB3型麻しんウイルスが原因と考えられるが, 同一配列の麻しんウイルスが, 大阪府, 愛知県, 香港, 米国, ニュージーランドおよびオーストラリアで検出されていた。本事例において疫学リンクが不明であった症例は, これらの地域から持ち込まれた可能性がある。また, 症例1についても, 空港等で上記の地域で麻しんに感染した患者と接触し, 麻しんに感染した可能性も考えられる。

本事例において感染拡大を引き起こした症例1および症例2の検体中のウイルス量は106コピー/mLを超えており (Ct値では25未満), このようなウイルス量が多い症例は感染拡大リスクが高いと考えられた。本事例では一般的に感染拡大リスクが低いと言われている1回の接種歴のある修飾麻しん患者3)(症例7)からも, 0回接種者1例および1回接種者3例に対して感染伝播が起きたと考えられた。症例7はIgM陽性で届出されたため, 検体中のウイルス量は不明であったが, 接触者の感受性の状況によっては, 修飾麻しんも感染源となり得ることが示された。麻しんの集団発生が疑われた状況では, ワクチン接種歴, 麻しん病型(典型麻しんまたは修飾麻しん)および検体中のウイルス量などを考慮し, 優先順位をつけた感染拡大防止対策が重要である。

本事例を通して, 麻しんの予防および感染拡大防止のためには, ワクチンの2回接種が重要であり, このことを周知していくとともに, 定期接種や予防接種の強化に積極的に取り組んでいく必要性を強く感じた。特に, 麻しん患者の多い20~30代への対策や, 海外渡航者へのワクチン接種の徹底が重要だと考える。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 感染症発生動向調査(麻疹)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/575-measles-doko.html
  2. Inaida S, et al., Epidemiol Infect 145: 2374-2381, 2017
  3. Rota JS, et al., J Infect Dis 204(suppl_1): S559-563, 2011
 
 
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