(IASR Vol. 34 p. 351-355: 2013年11月号)
2013年5月27日、オランダのorthdox Protestant 学校で2例の麻疹患者が発生し、その後8月28日までに1,226人の患者が19市保健所から報告された。症例定義は発熱、発疹、および咳、鼻汁、結膜炎のいずれかがあり、かつ検査診断された症例または検査診断例と疫学的リンクがある症例とした。合併症は脳炎1例、肺炎90例、中耳炎66例を含む176例(14.4%)で発生し、82人(6.7%)が入院した。症例の年齢中央値は10歳(範囲0~54歳)で、717人(58.5%)が4~12歳、200人(16%)が13~15歳であった。接種歴の判明した1,217人中1,174人(96.5%)がワクチン未接種者、39人が1回接種、4人が2回接種者であった。ワクチン未接種の理由の情報が得られた1,145人(93.6%)が宗教上、3人が信条、30人が予防接種に反対、40人がその他であった。719人(58.6%)が予防接種率90%未満の地域で起こっており、その他の地域からの症例は大多数がorthdox Protestant に属していた。検査室診断は363(29.6%)で行われており、遺伝子型が調べられた150例はすべてD8であった。D8は2013年1月時点でヨーロッパにおいて最も流行している型である。
オランダでは1987年のMMR導入以降、高い予防接種率が維持できており、2012年は14カ月で接種する1回接種が96%、9歳で接種する2回接種が93%であった。国内にはorthdox Protestantを中心とした予防接種率の低い地域がある。国内25万人のorthdox Protestantは、南西から北東に伸びる”Bible belt”と呼ばれる地域で密集して生活している。彼らの2006~2008年の予防接種率は概ね60%であった。この集団では1999~2000年に患者数3,200人に及ぶ大規模な麻疹アウトブレイクが起こっている。
母体からの移行抗体が減少する6~14カ月の乳児は危険な集団と考えられたため、予防接種率90%未満の地域のその月齢の乳児の両親に対し個別に予防接種が呼びかけられた。また、6カ月~19歳のワクチン未接種のorthdox Protestant 全員に対して、orthdox Protestant 向けのメディアで接種が呼びかけられた。加えて14カ月~19歳までのワクチン未接種者に対しても一般メディアを通じて接種が呼びかけられた。接触者の状況により曝露後予防接種や免疫グロブリン投与が行われた。国内の全病院に連絡が取られ、1965年以降生まれの医療従事者への麻疹予防接種歴と罹患歴の確認および、対象者へのMMR接種を勧めるガイドラインの遵守が推進された。
14カ月時点での予防接種率は2012年7月と比べ2013年7月では10倍高くなったが、正確な予防接種率は不明である。現在流行は収まってきているようにみえるが、これには学校の夏季休業が影響している。カナダから本事例と同一株と考えられるウイルスの麻疹輸入例の照会があり、英国やドイツのように予防接種率の低い集団がいる国では輸入例からの流行が起こりうる。
(Euro Surveill. 2013;18(36):pii=20580)