国立感染症研究所

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<速報>スリランカから輸入されたB3型麻しんの集団発生―京都府

(掲載日 2014/3/19)

 

はじめに
スリランカから帰国した母子からB3型麻しんウイルス遺伝子が検出された後、居住地等が近接する渡航歴のない5か月~46歳の23人の麻しん患者を確認したので報告する。

事例の概況表1図1
年代別では、0-4歳と20-24歳とにピークを有する二峰性を示した。また、予防接種歴なしが19人、不明が3人と、ほとんどに予防接種歴がなかった。感染経路では、家族や学校・友人からの感染が推定される者が13人と半数を占めた。その他の感染経路は後述する。病原体検査では25人中22人がPCR陽性(B3型)であった。

経時的発生状況図2
初発患者の母子は39歳女性(1)と15歳男性(2)で、女性の3歳の娘が11月末にスリランカで麻しんの診断を受けていた。12月初めに帰国後相次いで発症し、発症後近医を頻回に受診していた。また、スーパーマーケット、ファミリーレストラン等へも出入りしていた。

12月末から9歳男性(3)、5歳男性(4)、24歳女性(5)の発生届が出されたが、この3事例には居住地が近接している以外疫学的関連性はなかった。その後患者(4)では妹3歳女性(6)、父27歳男性(16)、患者(5)では姉30歳女性(15)の発症が確認された。

その約10日後には7歳男性(12)が発症、その兄姉が次々と発症(9、10、11、14)していた。

また、同時期に10か月女性(7)、5か月男性(13)が発症しており、IgM 陽性検査診断例として発生届があったものの、発症後14日以上経過していたため検体採取はしなかった。

以上の患者のうち、家族からの感染が推定された者以外の疫学的関連性を確認したところ、患者(4)、(7)、(12)、(13)が患者(2)と同一医療機関に同一日に受診していたことが明らかになった(これらの患者を二次感染疑い群とする)。

さらに、2013年12月末~2014年1月初め24歳男性(8)、6か月女性(17)が発症したが、発症時期から、二次感染疑い群からの感染の可能性が考えられ、患者(17)に患者(7)と同一日の受診が確認された。

また、同時期に発症した3歳男性(18)では、予防接種歴があり、臨床所見を満たさなかったがIgM 陽性で診断された。繰り返す発疹エピソードがあり、PCR検体採取は、直近の発疹発症からは5日後、1回目からは25日後となり、検査の結果は陰性であった。また、この事例は地域的に離れていた。

続いて、1月中旬には24歳男性(19)、41歳女性(20)が発症した。患者(20)の娘8か月女性(21)には患者(20)の発症後5日目にγグロブリンが投与されたが、発症を抑えることはできなかった。その後、接触のあった、友人の息子1歳男性(23)が発症した。また、患者(19)では同級生の24歳男性(24)、26歳男性(25)が発症した。患者(25)には予防接種歴があり、臨床症状を満たさなかったがPCRは陽性となった。

患者(21)と同時期に46歳女性(22)が発症したが、ここから感染が広がることはなかった。

当所の対応
発生届受理の当日もしくは翌日には疫学調査および検体確保を行うとともに、患者や接触者(家族、保育所、学校、職場)、医療機関に対して二次感染防止策を指導した。

管内医師会、医療機関へは適時の情報提供および確実な診断と速やかな発生届提出の依頼を行い、管内市町とは密に情報交換を行うとともに、定期予防接種未接種者への個別勧奨を依頼した。なお、今回の患者のほとんどが居住する市の2012(平成24)年度の麻しんワクチン接種率は第1期、第2期とも90%を超えていた。

考 察
1.家族や友人として患者と接触のあった事例がもっとも多かったが、医療機関内での短時間の接触や、居住地が近く市中でのなんらかの接触が疑われる事例や、全く不明の事例もあり、麻しんの感染力の強さを改めて認識させられた。

2.初発患者の発症後の行動から感染が広がった可能性が示唆されるが、発生届により保健所が把握した時点で患者は既に動き回っていた。初診時の二次感染防止指導や院内感染対策の重要性を再確認した。

3.患者のほとんどが予防接種未接種あるいは不明であり、予防接種の有効性を認識するとともに、予防接種歴1回の事例もあったことから、感染を防ぐには2回の確実な接種が重要であることを再認識した。

4.25例中23例の病原体検査を実施することができ、1事例を除くすべてでPCR陽性かつB3型が検出されたが、このことは感染経路の推定や修飾麻しんの早期診断に有用であった。一方、発生届遅延のため検査を実施できなかった事例も2例あり、発生届の速やかな提出についての周知徹底が必要と考えられた。

5.流行がほとんどみられなくなった麻しんの早期診断は困難であり、医療機関等に地域発生動向をタイムリーに伝えることも重要であると考えられた。

おわりに
今回の集団感染は最終患者の解熱からほぼ3週間を経過しており、終息と判断できるが、今年の発生状況からみて再度当所管内で感染が広がる可能性もあり、ウイルスが活発化する春に向けて発生動向を注視していくこととする。

謝 辞:今回の集団感染において、その対策や分析に対して詳細な御助言をいただいた、国立感染症研究所感染症疫学センター・中島一敏先生ならびに実地疫学専門家養成コース・伊東宏明先生に厚くお礼申し上げます。

 

京都府山城北保健所  堀 忍 山本篤仁 内海和代 大槻眞美子 土屋邦彦 和田行雄

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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