国立感染症研究所

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インドネシアにおける麻疹の状況

(IASR Vol. 37 p. 67-68: 2016年4月号)

2015年に報告されたわが国の麻疹症例数は35となり, 2008年に麻疹が全数把握疾患となって以来, 最少となった。35症例のうち, 地方衛生研究所においてウイルス遺伝子検査が実施され, 検査陽性となった症例は24症例であった。検出された麻疹ウイルスの遺伝子型の内訳はB3型4株, D8型11株, D9型4株, H1型5株である。

2014年においては, 日本で検出された麻疹ウイルスの約70%がフィリピンにおけるアウトブレイクの原因ウイルスであった遺伝子型B3に属するウイルスであったが, 2015年ではB3型が検出される割合が減少し, D8型の割合が増加した。麻疹発症前の渡航先が判明している症例が15例あり, インドネシアが6件と最も多く, 次いで中国, モンゴル, マレーシア, カタールの各2件, インドの1件となっている。中国においては2015年も麻疹の流行があり, 4万件以上の麻疹症例が報告されている1)。また日本との往来も多い。モンゴルにおいても全国的なアウトブレイクが報告されている。これらの国に関連した麻疹症例がそれぞれ2件であるにもかかわらず, インドネシアの6件は突出しているようにもみえる。2014年においてもインドネシアに関連する麻疹は7例報告されている。インドネシアにおける麻疹の状況を述べる。

インドネシアは人口約2億5,000万人(2014年)を有する世界第4位の大国である。年間の出生数はおよそ480万人とされている2)。国土はジャワ島, スマトラ島, カリマンタン島南部, ニューギニア島西部等とその周辺のおよそ1万3,000の島々からなっている。

インドネシアでは2004年に麻疹ワクチンの2回接種が導入され, 9か月(1期), 6歳(2期, 一部の省では24か月児に実施)のスケジュールで実施されている3)。12~23か月児における第1期麻疹ワクチン接種率は80%前後, また, ほぼ同等の接種率が2期でも報告されている(図12)。接種率から1期の麻疹ワクチンを受けていない子供が毎年100万人ほどいると推測され, この推定未接種者数はインド, ナイジェリア, パキスタンに次ぐものである。また, 補足的ワクチン接種が2006年以降, 9回行われ, 延べ約4,400万人にワクチン接種が行われている。麻疹症例数は2006年以降, 毎年1万~2万件が報告されている(図1)が, 全数報告制ではなく, 定点報告によっている3)。麻疹の感染力やワクチン未接種者数を考慮すれば, インドネシアでは年間数十万程度の麻疹の流行が継続している可能性もあるように思われる。

インドネシアにはWHOが組織する麻疹・風疹ラボラトリーネットワークに所属する検査施設が4つあるが, 流行する麻疹ウイルスの遺伝子型に関する報告はない。一方, インドネシアからの帰国者による麻疹症例から検出されたウイルスの遺伝子型に関する報告がオーストラリアや欧米等からあり, 2013年にはD8型, D9型, 2014年にはD8型, D9型, G3型が報告されている。日本においても2011年にG3型, D9型, 2013年にD9型, 2014年にD8型, D9型, 2015年にはD8型, D9型, B3型がインドネシア関連ウイルスとして報告されている。インドネシアでは複数の遺伝子型のウイルスが同時に流行している可能性が考えられる(次ページ図2)。

インドネシアはインド, タイ等とともにWHO南東アジア地域(South-East Asia Region: SEAR)に所属する。SEARでは2013年に, 地域の麻疹排除達成目標年を2020年と決定したが4), ワクチン接種率, サーベイランス体制ともに課題のある国が多く, 期限内の排除達成が困難である可能性が高い。一方, インドネシアは経済発展が目覚ましく, また, 美しい自然や珍しい動植物, 貴重な遺跡等があることから, 年間約40~50万人の日本人が渡航している5)。日本においては2015年に麻疹排除を達成し, ワクチン未接種でも麻疹に罹患する可能性は低くなってきているが, 海外では麻疹の流行国や, 流行の情報の精度が低い国が存在する。渡航前にはワクチン接種等の可能な感染症対策を実施することが勧められる。

 参考文献
  1. WHO Western Pacific Region, Measles-Rubella Bulletin 10(1): 1-10, 2015 http://iris.wpro.who.int/bitstream/handle/10665.1/12770/Measles-Rubella_Bulletin_2016_Vol_10_No_01.pdf?ua=1
  2. WHO Regional Office for South-East Asia, EPI Fact Sheet Indonesia 2014 http://www.searo.who.int/entity/immunization/data/epi_factsheet_indonesia_2014.pdf#search='EPI+fact+sheet+Indonesia'
  3. Thapa A, et al., Progress Toward Measles Elimination--South-East Asia Region, 2003-2013, MMWR 64(22): 613-617, 2015
  4. WHO Regional Office for South-East Asia, The Regional Committee, Resolution of the Regional Committee for South-East Asia, SEA/RC66/R5: measles elimination and rubella/congenital rubella syndrome control, 2013 http://www.searo.who.int/mediacentre/events/governance/rc/66/r5.pdf#search='searo+measles+2020++SEA%2FRC66%2FR5'
  5. 一般社団法人日本旅行業協会, 海外旅行者の旅行先トップ50(受入国統計) https://www.jata-net.or.jp/data/stats/2015/05.html

国立感染症研究所ウイルス第三部 
 駒瀬勝啓 竹田 誠

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