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感染症発生動向調査における, 麻疹の実験室診断例(取り下げ例を含む)の推移, 2011~2015年

(IASR Vol. 37 p. 69-70: 2016年4月号)

 2007年12月28日に告示された麻しんに関する特定感染症予防指針(以下, 指針)では, 対策の柱の一つとしてサーベイランスの強化が示され, 麻疹は2008年1月より, 感染症法に基づく感染症発生動向調査(以下, 発生動向調査)における全数報告疾患となった。2015年10月25日現在の年別報告数一覧をみると, 2008年の麻疹報告数は11,013例であったが, 各自治体, 医療機関, 教育機関などの関係者の尽力による予防接種推進の強化や, 積極的疫学調査を含む麻疹発生時の迅速な対応の成果で, 2009年732例, 2010年447例と, 順調に報告数が減少した。当初より指針では, 麻疹が一定数以下になった場合には, 原則として全例に実験室診断を行うことができるような体制の強化を謳っていたが, このような報告数の減少を受け, 厚生労働省は2010年11月, 全国の地方衛生研究所へ全例に検査診断を行うよう通知を発出した。その後, 麻疹IgM抗体検出に比較し, 迅速性, 感度, 特異度に優れたPCR検査が積極的に実施され, 遺伝子型の確認も行われた。これは, 検体採取, 搬送, 検査を担当する医療機関や保健所・地方衛生研究所等の地方自治体の尽力の成果といえる。本稿では, 2011~2015年の麻疹報告例の診断方法に基づく病型の推移と, 報告が取り下げられた麻疹疑い症例(以下, 取り下げ例)の取り下げの根拠についてまとめた。

 発生動向調査へ報告された麻疹は計1,449例であり, 年別にみると2011年439例, 2012年283例, 2013年229例, 2014年462例, 2015年36例であった。また, 年別病型別報告数(%)は2011年:臨床診断例118(27%), 検査診断例204(46%), 修飾麻疹(検査診断例)117(27 %), 2012年:臨床診断例79(28%), 検査診断例129(46%), 修飾麻疹(検査診断例)75(27%), 2013年:臨床診断例58(25%), 検査診断例103(45%), 修飾麻疹(検査診断例)68(30%), 2014年:臨床診断例29(6%), 検査診断例362(78%), 修飾麻疹(検査診断例)71(15%)(前述の年別報告数一覧より), 2015年(2016年2月15日現在):臨床診断例4(11%), 検査診断例24(67%), 修飾麻疹(検査診断例)8(22%)であった(図1)。2011~2015年の実験室診断例 〔病型では麻疹(検査診断例)および修飾麻疹(検査診断例)〕 計1,161例のうち, ウイルス分離・同定および/またはPCR検査が実施されたものは701例で, 60%を占めていた(ウイルス分離・同定3例, PCR検査666例, 両方32例)。そのうち624例(89%)では麻疹ウイルス遺伝子型の検出も実施されていた。IgM抗体検査は807例であった。

 図2に示す取り下げ例については, 2011年659例, 2012年790例, 2013年930例, 2014年605例, 2015年286例で, 計3,270例であった。このうち, 実験室診断が実施されていたのは2,518例(77%)であった。検査方法の内訳(重複あり)はウイルス分離・同定186例, PCR検査2,291例, IgM抗体検査1,542例, ペア血清による抗体検査(以下, ペア血清)168例(重複あり)であった。そのうち, 結果が記載され, 取り下げの根拠が把握できたものはウイルス分離・同定82例(44%), PCR検査2,190例(96%), IgM抗体検査976例(63%), ペア血清40例(24%)であり, PCR検査の結果については非常に高い割合で記載されていた。また, 実施された検査方法は不明だが, 検査結果に基づき取り下げた旨の記載が51例あった。風疹が流行した2012~2013年は, 取り下げ例計1,120例のうち, 風疹と診断された症例が336例(30%)を占めた。

 以上の結果から, わが国の麻疹の発生動向調査においてPCR検査が重要な役割を果たしたことがわかる。さらに麻疹ウイルス遺伝子の検出結果とその推移は, 麻疹排除認定にあたって土着株が排除されたことの明確な証拠として貢献した。今後, 麻疹を臨床的に判断することはますます困難になると思われるが, 麻疹の流行している諸外国で感染するリスクは依然として存在する。発熱・発疹を呈した患者で, 特に渡航歴のある場合には, 麻疹の鑑別も念頭に置き, 迅速な実験室診断を行うことが重要である。また, 麻疹を診断した医師は保健所への届出を直ちに行うとともに, 感染拡大防止対策を, 必要に応じて自治体や関係機関(学校, 医療機関, 医師会など)と連携しつつ迅速に行うことが重要である。

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