注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆海外で注目すべき感染症-麻しん
麻しんは高熱、全身の発しん、カタル症状を特徴とする感染力の非常に強いウイルス感染症である。肺炎、脳炎等を合併して死亡することもある重篤な感染症だが、事前に予防接種を受けることで予防が可能である。本年、欧州、北米等で麻しんの報告が増加しているため、注目を集めている。本稿においては、直近の欧州、アメリカ大陸および西太平洋地域における麻しんの流行の概要を提供することを目的とした。なお、麻しんを始めとする、海外の直近の感染症発生情報に関しては、厚生労働省検疫所(FORTH)サイトの「新着情報」を参照して頂きたい(http://www.forth.go.jp/topics/fragment1.html)。
欧州では、麻しんの流行が複数の国で報告されている。流行している麻しんウイルスの遺伝子型は殆どがD8であり、報告された患者の大半は麻しんの予防接種を未接種であった。2014年1月1日から2015年3月1日までに、世界保健機関(WHO)はヨーロッパ各地から23,000例を上回る麻しん症例の報告を受けた(http://www.who.int/csr/don/6-march-2015-measles/en/)(2015年3月6日現在)。最も報告数が多いキルギスタンでは、2014年から2015年最初の7週までに7,477例が報告されている。その他、ボスニア・ヘルツェゴビナ(5,340例)、グルジア(3,291例)、ロシア(3,247例)、イタリア(1,674例)、ドイツ(1,091例)、カザフスタン(537例)から多くの麻しんが報告されている(http://www.euro.who.int/en/media-centre/sections/press-releases/2015/whoeuropecalls-for-scaled-up-vaccination-against-measles)(2015年2月25日現在)。この状況は、2015年末までに地域から麻しんを排除するという目標を脅かすものであり、WHOの欧州地域事務局は、感染リスクのある年齢層での麻しんの予防接種を強化することを政策担当者、医療従事者および(その子どもの)親に対して求めている。
アメリカ大陸でも、ブラジル、カナダ、メキシコおよび米国で麻しんの報告増加がみられる。このうち、米国疾病管理予防センターによると、米国では2015年1月1日から2015年3月6日までに、17の州で173例の麻しん症例が報告されており、115例はカリフォルニア州からの報告であった(http://www.cdc.gov/measles/cases-outbreaks.html)(2015年3月9日現在)。また、2014年12月28日から2015年3月6日までに7州から報告された142例は(http://www.cdc.gov/measles/multi-stateoutbreak.html)(2015年3月9日現在)、カリフォルニア州のアミューズメントパークでの活動との関連があると示唆される。この流行は、おそらくは海外で感染し、ウイルスを排出している状態の患者がアミューズメントパークを訪れたことから始まったとされている。遺伝子型は、2013年後半からフィリピンなどで流行しているB3であるが、事例に特化した感染源は特定されていない。報告された症例の年齢は幅広く、1歳未満から59歳(中央値19歳)におよんでいる(http://www.who.int/csr/don/13-february-2015-measles/en/)(2015年2月13日現在)。また、メキシコは、カリフォルニア州に旅行歴のある麻しんの輸入感染例2例(22カ月の女児と37歳の麻しんワクチン未接種の女性)を報告した(http://www.who.int/csr/don/13-february-2015-measles/en/)(2015年2月13日現在)。カナダでは、2015年始めから2月21日までに45例がケベック州、オンタリオ州、マニトバ州から報告された(http://www.phac-aspc.gc.ca/mrwr-rhrr/2015/w07/index-eng.php)(2015年3月4日現在)。遺伝子型についてはケベック州ではB3、オンタリオ州ではD4、そしてマニトバ州ではD8と、個別の発生が起こっていると考えられている。ケベック州では、疑い症例は宗教的理由でワクチンを接種していない同一家族から始まり、米国での流行と繋がっていた。ブラジルでは、2013年から2015年にかけてペルナンブーコ州とセアラー州で遺伝子型D8の麻しんの報告が続いており、2015年の1~7週までに44例が報告されている(http://www.paho.org/hq/index.php?option=com_content&view=article&id=730&Itemid=39426&lang=en)(2015年2月21日現在)。セアラー州では、2013年12月以降718例が確認されており、患者の殆どは5歳未満(37%)と15~29歳の若年齢(33%)であった(http://www.who.int/csr/don/13-february-2015-measles/en/)(2015年2月13日現在)。
日本を含む西太平洋地域の国々においても、麻しんが流行しているところが多い。2015年1月には、中国(2,359例)、フィリピン(33例)、パプアニューギニア(18例)、オーストラリア(10例)、ベトナム(8例)などの麻しん患者がWHOに報告された(http://www.wpro.who.int/immunization/documents/mrbulletinvol9issue2.pdf?ua=1)(2015年2月20日現在)。
海外において、麻しんの流行が継続している中、国内に麻しんが流入しても広がらないように、国内での麻しんを含む定期予防接種の徹底がまず重要である。我が国では、1歳と小学校入学前1年間の小児に対して、2回の定期予防接種が行われている。また、麻しんの予防接種歴がない、1回のみ、あるいは不明の方には、海外渡航前に麻しんを含む予防接種を受けることがすすめられる。なお、麻しんの接種に用いるワクチンは、風しん対策の観点も考慮して、麻しん風しん混合ワクチンを用いることが原則となる。
●世界保健機関(WHO)
http://www.who.int/csr/don/archive/year/2015/en/
●世界保健機関欧州地域事務局(WHO/EURO)
http://www.euro.who.int/en/media-centre/sections/press-releases/2015/whoeurope-calls-for-scaledup-vaccination-against-measles
●厚生労働省検疫所(FORTH)
http://www.forth.go.jp/index.html
●アメリカ疾病管理予防センター(CDC)
http://www.cdc.gov/measles/cases-outbreaks.html
●Public Health Agency of Canada
http://www.phac-aspc.gc.ca/mrwr-rhrr/2015/w07/index-eng.php
●汎米保健機構/世界保健機関(PAHO/WHO)
http://www.paho.org/hq/index.php?option=com_content&view=article&id=730&Itemid=39426&lang=en
●世界保健機関西太平洋地域事務局(WHO/WPRO)
http://www.wpro.who.int/immunization/documents/mrbulletinvol9issue2.pdf?ua=1
●国立感染症研究所「麻疹 2014年3月現在」(IASR Vol. 35 p. 93-95: 2014年4月号)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/657-disease-based/ma/measles/idsc/iasr-topic/4573-tpc410-j.html
国立感染症研究所 感染症疫学センター