注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆流行性耳下腺炎
流行性耳下腺炎(mumps:ムンプス、おたふくかぜ)は、ムンプスウイルスの感染を原因として発症する感染症である。2〜3週間の潜伏期(平均18日前後)を経て発症し、片側あるいは両側性の唾液腺(耳下腺が最も多い)のびまん性腫脹、疼痛、発熱を主症状とし、2〜7歳の小児に好発する。不顕性感染が3分の1程度認められ、発症しても、通常は1〜2週間で軽快する予後良好の疾患であるが、無菌性髄膜炎をはじめ、髄膜脳炎、難聴、睾丸炎、卵巣炎、膵炎等の種々の合併症を起こす場合がある。感染経路はヒト−ヒト間の飛沫感染、接触感染であり、特に保育施設等、ムンプスウイルスに免疫を持たない乳幼児の集団生活施設では、しばしば集団発生が認められている。また成人での発症例では、髄膜炎、精巣炎、熱性痙攣、難聴、膵炎などの合併症によって入院を要する例が比較的多い。
流行性耳下腺炎は、感染症発生動向調査において全国約3,000カ所の小児科定点医療機関が週単位での届出を求められる5類感染症である。小児科定点からの報告に基づくため、成人における動向は不明である。流行性耳下腺炎は2015年第20週頃から2016年第23週〔6月6〜12日(6月15日現在)〕まで、増加傾向が続いている(http://www.nih.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1654-13mumps.html)。2016年第23週の定点当たり報告数は0.94(報告数2,978例)であり、過去3年間の同時期の定点当たり報告数(2013年0.30、2014年0.35、2015年0.48)を大きく上回っていた。過去10年間の同時期の定点当たり報告数と比較すると、流行性耳下腺炎が流行した2006年(1.76)、2010年(1.31)に次いで高い水準であった。
直近5週間の第19週から第23週までは、都道府県別では、流行性耳下腺炎の定点当たり累積報告数上位5位は宮崎県、山形県、佐賀県、鹿児島県、石川県であった。この間の年齢群別では、5歳が最も多く、報告数の17%を占め、3〜7歳が報告数の66%を占めた。性別は男児が53%と若干多かった。
また、全国約500カ所の基幹定点医療機関より、週毎に届け出られる5類感染症としての無菌性髄膜炎(ムンプスウイルスを含む多種多様の起因病原体による症候群)の定点当たり報告数は、第19週から第23週までは、過去5年間の平均+2SD(過去5年間の平均:前週、当該週、後週の合計15週の平均;SD:標準偏差)を上回っている(http://www.nih.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1658-17aseptic.html、http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr.html)。2010〜2016年(2016年は第1〜23週)の期間、無菌性髄膜炎の報告数及びムンプスウイルス検出の報告数と割合は、以下であった。2010年:811例中112例(13.8%)、2011年:1,061例中101例(9.5%)、2012年:931例中58例(6.2%)、2013年:1,298例中18例(1.4%)、2014年:903例中19例(2.1%)、2015年:1,069例中39例(3.6%)、2016年(第23週まで):465例中48例(10.3%)。2010〜2011年と2016年現在までの流行性耳下腺炎の流行期には、無菌性髄膜炎のうち、ムンプスウイルス検出の報告数と割合は増加する傾向がみられた。
1982年以降の流行性耳下腺炎の週別定点当たり報告数の推移をみると、3〜4年周期で大きな流行を認めていた。1989年のMMRワクチンの導入により流行は縮小傾向を示したが、その後のMMRワクチンの中止とムンプス関連ワクチンの接種率の低下により流行性耳下腺炎の流行は再び増大傾向となり、以後およそ4〜5年の周期で流行が見られている。2016年は2010〜2011年に次ぐ流行が見られており、ムンプスウイルスが検出された無菌性髄膜炎の報告数も増加傾向にある。今後夏季にかけて患者数の多い状態が持続することが予想されるため、引き続きこれらの流行状況、発生動向に注意が必要である。
流行性耳下腺炎および無菌性髄膜炎の感染症発生動向調査に関する背景・詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●流行性耳下腺炎
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ra/mumps/392-encyclopedia/529-mumps.html
●感染症発生動向調査週報(IDWR)流行性耳下腺炎
http://www.nih.go.jp/niid/ja/mumps-m/mumps-idwrc.html
●IASR 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)2013年7月現在
http://www.nih.go.jp/niid/ja/mumps-m/mumps-iasrtpc.html
●IASR 遺伝子型Gムンプスウイルスによる5年ぶりの流行性耳下腺炎の流行−沖縄県
http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/768-disease-based/ra/mumps/idsc/iasr-news/6360-pr4351.html
●無菌性髄膜炎とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/encycropedia/392-encyclopedia/520-viral-megingitis.html
国立感染症研究所 感染症疫学センター