マイコプラズマ肺炎は一般にみられる肺炎で, 流行時には市中肺炎全体の20-30%を占めることもある。病原体の肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae: M. pneumoniae)は, 細菌としてはゲノムサイズが約800kbと小さく, 増殖にコレステロールなど多くの栄養素を要求するが, 人工の培地で純培養が可能である(本号3ページ)。ペプチドグリカン細胞壁を欠くため, β-ラクタム系の抗菌薬は効果がない。感染経路は主に飛沫感染と接触感染で, 家族内や学校など濃厚接触が多い場所で, しばしば集団発生が起こる。患者は小児, 青年期年齢層に多く, 潜伏期間は感染後2~3週間程度である。症状は発熱, 全身倦怠感, 頭痛, 咳などで, 解熱後も咳が長く続くことがある。M. pneumoniaeによる呼吸器感染症は肺炎に至らない気管支炎症例も多く, 肺炎の場合も比較的症状が軽いため, 英語では“walking pneumonia”という呼び名もある。これは肺炎を発症していても患者が起きて歩けるからである。一方で, 重症化して入院治療が必要な症例もある。また, M. pneumoniaeは呼吸器以外にも造血器系, 心血管系, 消化器系, 泌尿器系, 中枢神経系, 皮膚・粘膜などに炎症をはじめ, 様々な病変や合併症を起こすことがある。現時点で有効なワクチンはない。