国立感染症研究所

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不活化ポリオワクチン導入と国際的な3価から2価経口生ポリオワクチンへの転換(2013~2016年)

(IASR Vol. 37 p. 30-31: 2016年2月号)

1988年以降のポリオ根絶運動により、現在野生株ポリオウイルス(WPV)が蔓延する国はアフガニスタン、ナイジェリア、パキスタンのみとなった。経口生ポリオワクチン(OPV)、主に3価OPVの普及に伴い、2型WPVによる急性弛緩性麻痺(AFP)は1999年以降、3型WPVは 2012年11月以降確認されていない。一方、ワクチン普及率が低い地域では、OPV由来ウイルスが市中で複製を繰り返しているうち変異を生じ、ワクチン由来ポリオウイルス(VDPV)となってごく稀にAFPを引き起こす。このほとんどが市中で伝播している伝播型2型ワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV2)によるものである。このため、現在普及している3価OPVの使用を中止し、1型と3型ポリオウイルスを含む2価OPVへの転換が計画されている。

Global Polio Eradication Initiative(GPEI)は『Polio Eradication and Endgame Strategic Plan 2013–2018』において、OPVの転換は世界で同時に行うべきであると提言した。またStrategic Advisory Group of Experts on Immunization(SAGE)は2012年、OPVの転換に先立ち、少なくとも1回の3価不活化ポリオワクチン(IPV)を定期接種に追加することを提言した。これは2型WPVやcVDPV2のアウトブレイクの予防と、1型、3型WPVに対するブースター効果を期待するものであると同時に、3価OPVの使用を中止した地域でのcVDPV2伝播のリスクを排除するためである。

3価OPVは2価OPVへの転換まで使用を継続し、転換と同時に3価OPVはすべて処分する計画である。このためには全世界で2価OPVが使用できる状況が整う必要がある。これらを勘案し、2015年4月、SAGEは2価OPVへの転換を2016年4月に実施するよう提言した。

2014年、cVDPV2の伝播が確認されたのは南スーダン、ナイジェリア、パキスタンのみである。また、ナイジェリアとパキスタンのcVDPV2は6カ月以上伝播が継続している系統のものと確認されており、定期予防接種の実施が一定期間にわたって不十分であることを示している。2014年12月以降、2015年6月までにcVDPV2による急性四肢麻痺は確認されていないが、ナイジェリアとパキスタンでは環境中からcVDPV2が検出されており、不顕性感染者の存在が示唆される。このようにVDPV出現のリスクが高い地域においては、2015年半ばから2016年4月にかけて、追加的な3価OPV接種キャンペーンが予定されている。

研究室等におけるWPVの封じ込めも課題の一つである。WHO Global Action Plan III(GAPIII)の案では、すべての2型WPV 株は2015年末までに封じ込めることとされた。2型VDPVや他のSabin株由来の2型ポリオウイルスも封じ込めの対象とされ、期限はワクチン転換から3カ月以内とされた。一方で、万一2型ポリオウイルスによるアウトブレイクが発生した場合を想定し、単価OPV2の備蓄を行う。

新たなcVDPV2によるアウトブレイクの発生リスクを最小限とするために、OPV使用国での3価OPV から2価OPVへの転換は、慎重な国際的同期と協調が重要となる。IPVの国際的導入も2型OPVの使用中止によりもたらされるリスクを軽減する。IPVの導入効果を最大限とするためには、cVDPV2のハイリスク地域を優先したIPVの安定供給の確保が欠かせない。残念ながら、IPV単独では必ずしも予防効果は十分ではないことが過去の事例から示されている。環境検査と質の高いAFPサーベイランスによる、市中を循環するポリオウイルスの迅速な検知、対応が鍵となる。

(WHO, WER 90(27): 337-343, 2015)

(抄訳担当:感染研・小林彩香、島田智恵)

 

 

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