注目すべき感染症
◆ ペニシリン耐性肺炎球菌感染症 2006~2012年7月 (2012年8月10日現在)
ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae:PRSP)感染症は、ペニシリンGに対して耐性のある肺炎球菌による感染症である。PRSPの病原性は、耐性を有さない肺炎球菌と同等であり、健常者の口腔などに定着しても通常は無症状であるが、菌が増殖し咽頭炎や扁桃炎を発生させることがある。また、乳幼児の化膿性髄膜炎や小児の中耳炎、肺炎、高齢者の肺炎などの起因菌となる。
PRSP感染症の発生状況は、1999年4月施行の感染症法に基づく感染症発生動向調査として、全国約470カ所の基幹定点*から月毎の報告が行われている(届出基準・届出様式:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-37.html)。
今回は2006~2012年7月のPRSP感染症の報告についてまとめる。
*基幹定点は、2次医療圏毎に1カ所の患者を300人以上収容する施設を有し、内科及び外科を標榜する病院(小児科医療と内科医療を提供しているもの)とされている。基幹定点数は、2006年458、2007年469、2008年472、2009年470、2010年470、2011年471カ所であった。
2006年1月から2012年7月までに全国の基幹定点から報告されたPRSP感染症は、2006年5,294例、2007年4,840例、2008年5,257例、2009年4,773例、2010年5,659例、2011年4,648例、2012年2,155例(7月まで)の合計32,626例であった。
PRSP感染症の定点当たり報告数は、2011年12月以降、過去10年の同月と比較して、最も少ない値で推移している(本号37ページ参照)。
年齢群別(5歳以下、6~14歳、15~64歳、65歳以上)報告数では、5歳以下が20,131例(20,131/32,626=61.7%)と際立って多く、次いで65歳以上が7,691例(23.6%)と多かった。5歳以下では、1歳が8,413例(8,413/20,131=41.8%)で最も多く、0歳は4,376例(21.7%)、2歳が3,208例(15.9%)の順に多かった(図1-1、図1-2)。
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図1-1. PRSP感染症の年別・月別・年齢群別報告数(2006年1月~2012年7月) |
図1-2. PRSP感染症の年別・月別・年齢群別報告数(2006年1月~2012年7月) |
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0~5歳の月別報告数について、2006~2009年までの4年間の平均月別報告数*と最近3年間の月別報告数を比較した。0歳では、2011年以降徐々に減少傾向がみられ、2012年は過去4年間と比較すると明らかに減少していた(図2-1)。1歳では、0歳と同様に月別報告数が減少傾向であり、また2012年には、2011年までに例年認められた、春から初夏(4~6月)にかけての増加が認められず、ほぼ横ばいで推移した(図2-2)。2歳では、0歳と同様に月別報告数が減少傾向であった(図2-3)。3~5歳では、0~2歳に認められたような月別報告数の減少傾向はなかった(図2-4、図2-5、図2-6)。
*過去4年間(2006~2009年)の平均:前月、当該月、後月の合計12カ月の平均。ただし1月は2005年12月を除く合計11カ月の平均とした。
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図2-1. PRSP感染症(0歳)の年別・月別報告数(2006年1月~2012年7月) |
図2-2. PRSP感染症(1歳)の年別・月別報告数(2006年1月~2012年7月) |
図2-3. PRSP感染症(2歳)の年別・月別報告数(2006年1月~2012年7月) |
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図2-4. PRSP感染症(3歳)の年別・月別報告数(2006年1月~2012年7月) |
図2-5. PRSP感染症(4歳)の年別・月別報告数(2006年1月~2012年7月) |
図2-6. PRSP感染症(5歳)の年別・月別報告数(2006年1月~2012年7月) |
0歳の月齢別報告数(n=4,178、月齢不明な1例を除いた)については、月齢6カ月以降で月齢とともに報告数が増加し、月齢6カ月以降が70.1%(=2,930/4,178)を占めた。年毎の推移については今後の観察が必要である(図3)。
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図3. PRSP感染症(0歳)の年別・月齢別報告数(2006~2011年) |
表. PRSP分離検体採取部位(2006~2012年7月) |
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感染症の種類については報告項目とはなっていないが、検体名が報告項目となっている。2006~2012年7月累積報告32,626例のうち、血液または髄液から検出されたものは3.4%〔=(971+141)/32,626〕であった(表)。〔その他の報告が60.7%(=19,803/32,626)を占めたが、その詳細は自治体から国への報告内容に含まれていないため不明。〕
小児用7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)は、わが国では2010年2月から任意接種として接種可能となり、同年11月26日からは、市町村が実施主体となって公費補助で接種が行われている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html)。その効果を評価するうえでもPRSP感染症の発生動向を引き続き注視していく必要がある。
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