注目すべき感染症 ◆ RSウイルス感染症
RSウイルス感染症(respiratory syncytial virus infection)は、RSウイルスの感染によって発症する呼吸器感染症である。年齢を問わず、生涯にわたり顕性感染を繰り返し、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の児がRSウイルスの初感染を受けるとされる。分子疫学的な分析として国内ではタイプAが主に流行しているとの情報がある。RSウイルス感染症は乳幼児期においては重要な疾患であり、特に生後数週間~数カ月間の時期においては母体からの移行抗体が存在するにもかかわらず、下気道の炎症を中心とした重篤な症状を引き起こす場合がある。
潜伏期間は2~8日、典型的には4~6日とされる。発熱、鼻汁などの上気道炎症状が数日間続いた後、20~30%の初感染児において、下気道に影響が及ぶ場合があるとされる。特に細気管支炎となった例では、炎症性浮腫と分泌物、脱落上皮により細気管支が狭くなるに従って、呼気性喘鳴、多呼吸、陥没呼吸などを呈するようになる。喀痰の貯留により無気肺を起こすことも珍しくない。RSウイルス感染症は、乳幼児の肺炎の原因の約50%、細気管支炎の50~90%を占めるとの報告もある。また、低出生体重児や、心肺系に基礎疾患があったり、免疫不全が存在する場合には重症化のリスクは高い。重篤な合併症としては、細気管支炎・肺炎以外に、無呼吸、ADH分泌異常症候群、急性脳症等がある(IASR 2008年10月号:https://idsc.niid.go.jp/iasr/29/344/tpc344-j.html 参照)。平成24年の人口動態統計によると、わが国のRSウイルス感染症による死亡数は、2008~2012年の5年間で、年平均31.4人(28~36人)と報告されており、米国では年間400例ほどの小児がRSウイルス感染症により死亡していることが推察されている(Red Book 2012より)。
RSウイルスの主な感染経路は飛沫感染と接触感染である。年長者の再感染例ではRSウイルス感染症と気付かれない軽症例も多数存在することから、家族間の感染や乳幼児の集団生活施設等での流行を効果的に抑制することは困難である場合が多い。
RSウイルス感染症の発生動向については、感染症法改正(2003年11月5日施行)により対象疾患となり、全国約3,000の小児科定点医療機関から毎週報告がなされている。診断は臨床症状のみでは不可能であることから、届出基準としてウイルスの分離・同定、迅速診断キットによる抗原検出、血清抗体検出(中和反応または補体結合反応)による病原検査が必須とされている。臨床現場で最も簡便な迅速診断キット検査については、2011年10月より、従来の入院例に加えて、乳児およびパリビズマブ製剤の適応となる患者に対しても適用されることとなり、現在は外来診療の場においても多く活用されていると推察される。その結果、これまでの対象とは異なる軽症例においてもRSウイルス迅速検査が実施される場合があるとの情報もあり、サーベイランス情報の解釈については慎重に行う必要があると考えられる。
<サーベイランス情報のまとめ> RSウイルス感染症の小児科定点医療機関からの報告数は、例年冬期にピークが見られ、夏期は報告数が少ない状態が継続していたが、2011年以降、7月頃から報告数の増加傾向がみられるようになった。2013年の報告数は第25週から徐々に増加傾向がみられ、特に第34週(1,281)から第35週(2,004)にかけて急激な増加がみられた(図1)。2013年第36週の報告数は2,551例となり、都道府県別の報告数をみると、福岡県(316)、東京都(212)、大阪府(208)、新潟県(135)、山口県(112)、鹿児島県(112)、宮崎県(101)、熊本県(91)の順となっている。37の都道府県で前週の報告数よりも増加がみられている(図2)。
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図1. RSウイルス感染症の年別・週別発生状況(2003年第45週~2013年第36週) |
図2. RSウイルス感染症の都道府県別報告数の推移(2013年第34~36週) |
図3. RSウイルス感染症の年別・年齢群別割合(2004年~2013年第36週) |
年齢群別割合については、2013年第1~36週の累積報告数(35,691)をみると、0歳44.1%(0~5カ月19.7%、6~11カ月24.4%)、1歳33.5%、2歳12.7%、3歳5.3%、4歳2.5%の順であり、0歳の報告割合が最多を占め、次いで1歳、2歳と年齢順である。1歳以下で全報告数の約70%以上を、3歳以下で全報告数の90%以上を占めているのは、2004年以降変わりはない(図3)。また、2013年については、報告数の増加が始まった第25週以降の12週間では、累積報告数13,052例中0歳の報告割合が39.9%(0~5カ月15.7%、6~11カ月24.2%)、1歳の報告割合が37.9%、2歳13.1%であり、1歳の報告割合が増加している。
今後の地理的広がりや年齢分布、重症例の発生などの動向について、さらなる注意が必要である。
国立感染症研究所感染症疫学センター 砂川富正 伊東宏明 木下一美 松井珠乃 多屋馨子 大石和徳 岡山大学医学部 島谷直孝
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