国立感染症研究所

国立感染症研究所 実地疫学研究センター
感染症疫学センター
2023年2月3日現在
(掲載日:2023年8月4日)

日本では1948年に性病予防法により報告されていた梅毒は、1999年4月から感染症法により5類感染症全数把握対象疾患に定められ、診断した医師は7日以内に管轄の保健所に届け出ることが義務づけられた。本まとめでは、診断週に基づいて梅毒報告の特徴を記載する。また報告率については人口10万人あたりの報告数とした。

梅毒報告数は男女ともに2011年頃から継続的に増加していたが、2018年をピークに減少した。しかし2021年には再度増加に転じ、7,978例(男性5,261例、女性2,717例)となった(図1図2図3)。2021年の報告は、病型別では早期顕症の報告数が男女とも特に増加していた。男性では特に局所症状を中心とした早期顕症Ⅰ期が最も多くかつ最も増加していた。女性では、全身症状を中心とした早期顕症Ⅱ期が最も多くかつ最も増加していた。先天梅毒の報告数も梅毒報告総数の増加とともに増加傾向にあったが2019年の23例をピークに横ばいとなり、2021年は20例であった。

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2021年の報告率は6.36(男性8.62、女性4.21)であり、2000年以降最も高かった。報告率は2011年以降男女ともに2018年まで増加し、その後減少したのち、2021年は再度増加した(図4)。

 

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年齢に関しては、男性では20代から50代にかけて幅広いピークを認める傾向が継続していた。2019年以降、相対的に20代後半が他の年齢階級より増え、2020年以降25~29歳が最も報告数が多い年齢階級になった(図5)。女性では、20~24歳が最も報告数が多く、かつ増加も顕著な傾向が継続していた(図6)。

 

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感染経路については、男性では異性間性的接触の報告数及び割合が2014年(439例、35%)頃から増加傾向にあり、2015年以降常に最も高い割合を占めていた。報告数は2019年には前年の2,878例(63%)から2,621例(60%)へ減少したが、2021年には再び3,163例(61%)へ増加した(図7)。男性の同性間性的接触による感染の報告数は、2008年以降小幅な増減があるものの、概ね増加傾向であった。

女性では、異性間性的接触の報告数がその割合とともに2014年(253例、67%)頃から顕著に増加し、2018年には1,997例(83%)に達した(図8)。報告数は2019年(1,791例、79%)から2020年(1,523例、78%)にかけて減少したが、2021年には再度増加し、2,164例(80%)となった。男女ともに梅毒報告数の全体の増加とともに、異性間性的接触の割合が増加した。

 

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2021年に梅毒の報告数が多かった都道府県は、多い順に東京都2,465例、大阪府863例、愛知県427例、福岡県348例であり、人口が多い都道府県が中心であった(図9)。2020年から2021年にかけて39都道府県で報告数が増加し、地方において報告率が2倍以上に増加した都道府県もあった。2021年の報告率も、東京都17.59、大阪府13.89などと大都市圏で高かった。

 

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男性の梅毒のうち、感染経路に同性間性的接触を含む症例を『同性間』、異性間性的接触を含む症例を『異性間』とし(重複症例あり)、その届出状況について記載する。2021年の病型分布は、異性間では全体とほぼ同じで早期、特に早期顕症Ⅰ期が1,995例(63%)と最も多かったが、同性間では早期顕症Ⅱ期が421例(45%)と最も多かった(図10)。年齢群については、異性間では20~50代と、同性間より幅広い年齢で多く報告されており、20代後半が多い傾向が顕著であった(図11)。2021年に最も多く報告された年齢群は、同性間で30~34歳、異性間で25~29歳であった。

 

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平成31年(2019年)1月1日より、梅毒の届出様式に、性風俗産業の従事歴・利用歴(直近6か月以内)の有無、口腔咽頭病変の有無、妊娠の有無、過去の感染歴(治療歴)、HIV感染症の合併の有無、の記載項目が追加された。

2021年に診断された男性の梅毒症例では、性風俗産業従事歴ありが110例(2%)、性風俗産業利用歴ありが1,844例(35%)であった。また、口腔腔咽頭病変の有無については記載なしが大多数を占め、病変ありの症例は147例(3%)であった。過去の治療歴ありの症例は437例(9%)、HIV感染症の合併がある症例は449例(9%)であった(表1)。女性の梅毒症例では、性風俗産業従事歴ありが1,000例(37%)、性風俗産業利用歴ありが46例(2%)であった。1口腔咽頭病変の有無については男性と同様に記載なしが大多数を占め、病変ありの症例は67例(2%)であった。妊娠の有無については、188例(7%)が妊娠ありであった。過去の治療歴ありの症例は146例(5%)、HIV感染症の合併がある症例は2例のみ(0%)であった。HIV感染症の合併のある症例は男女全体では451例(6%)であり、うち449例(99%)は男性であった(表2)。

 

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  1. 感染症発生動向調査に基づく梅毒の届出における妊娠症例と女性性風俗産業従事者の症例、2019~2021年、国立感染症研究所 感染症疫学センター
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/syphilis-m-3/syphilis-idwrs/11654-syphilis-20221130.html

*暫定報告数としての報告のため、本まとめの報告数と異なる場合がある

 


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