2011年に流行した手足口病およびヘルパンギーナからのウイルス検出―島根県
2011年、島根県では第26週と第36週をピークとする手足口病の大きな流行があった。年間の報告患者数は3,700人余りと、過去10年間で最も大きな流行であった2003年の報告患者数の2倍以上となった。原因ウイルスとして流行の前半はコクサッキーウイルスA6型(CVA6)、後半はコクサッキーウイルスA16 型(CVA16)が主に検出された(図)。
一方、ヘルパンギーナの流行規模は小さく、患者数の推移は手足口病とほぼ同様で、第27週と第36週をピークとする二峰性の流行となった。原因ウイルスとして前半はCVA6、後半はコクサッキーウイルスA10型(CVA10)が検出された(図)。
2.ウイルス検出法の比較
従来、当所では手足口病とヘルパンギーナのウイルス検索は哺乳マウスおよびVero、RD-18S、FL等の培養細胞を用いた分離を行ってきた。しかし、今回の大規模なCVA6の流行で、多数の患者検体が搬入されたため、哺乳マウスでは対応しきれず、エンテロウイルスのVP1 領域を増幅するCODEHOP VP1 RT-seminested PCR1)(CODEHOP PCR)による検体からの遺伝子検出とRD-A細胞2)(国立感染症研究所から分与)による分離を試みた。
1) 材料と方法
5月以降、手足口病と診断された患者の検体136検体(咽頭ぬぐい液123検体、ふん便12検体、髄液1検体)、ヘルパンギーナと診断された患者の検体26検体(咽頭ぬぐい液25検体、ふん便1検体)を用いた。検体量が少なかったり、哺乳マウスの数が限られているため、すべての検出法を試みていない検体もある。
CODEHOP PCRは電気泳動で増幅産物を確認後、ダイレクトシークエンスで約300bpの塩基配列を決定し、BLAST検索等で型別同定を行った。
培養細胞によるウイルス分離は2代まで継代し、CPEが認められない場合、分離陰性とした。分離ウイルスは哺乳マウス由来の株も含め、主に自家製単味抗血清および単味抗マウス腹水で中和後、RD-A細胞上でのプラック減少法で同定を行った。
2)結果
表に示すように、CVA6はいずれかの検出法で計79検体から検出されており、このうち、哺乳マウスは34検体を検査したうちの33検体が陽性となった。CODEHOPは塩基配列を決定してCVA6と同定したもの46検体、泳動のバンドが薄かったり、他の検出法で同定済みでシークエンスをしていないもの15検体であった。また、RD-A細胞では36検体からCVA6が分離された。CVA10はRD-A細胞が最も高い検出率であった。CVA16の検出はRD-A細胞がVero細胞より若干高い検出率であった。RD-18S細胞はRD-A細胞でCVA6が分離された20検体について分離を試みたが、すべて分離陰性であったため、以後の検査には使用していない。
主にヘルパンギーナの原因ウイルスであるCVA群のlow numberのウイルスは培養細胞で分離しにくく、哺乳マウスによる分離が最もよいとされている。しかし、計画的に多数の哺乳マウスの入手が難しいこと、同定までの手技が煩雑であることから、今回のような大流行の際には使用しづらい。一方、遺伝子検査は比較的短時間で結果が出せ、感度も良いことから、近年、多用されているが、ウイルスの抗原性などの解析が行えない。今回使用したRD-A細胞はウイルスの種類によって検出率に差異があるものの、昨年流行したCVA6、10、16に関しては分離法として有用と考えられた。今後は他の血清型についての検討が必要である。
参考文献
1) Nix WA, et al ., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006
2) World Health Organization, Polio laboratory manual, 4th ed. WHO/IVB/04.10, World Health Organization, Geneva, Switzerland, 2004
島根県保健環境科学研究所ウイルスグループ
飯塚節子 木内郁代 日野英輝