中国のブルセラ症疫学状況
(IASR Vol. 33 p. 192-193: 2012年7月号)
中国のヒトのブルセラ症は、SARSの流行が始まった2002年頃から急に報告数が増加し、その趨勢は今も変わらない(図1)。2010年に中国CDCがまとめた「2009年全国ブルセラサーベイランスデータ解析」(疾病監測 Dec. 30, 2010, Vol. 25, 944-946)によると、2009年には35,816名の患者が報告されており、全国報告発生率(人口10万対)は2.7である。流行は5月をピークに3~7月までに多く、羊の分娩期が大きく影響していると思われる。サーベイランス地域における家畜の感染率は、羊は1.49%、牛は1.36%となっている。患者の年齢別では就労年齢である20~60歳が多く、特に40~45歳が最も多い。男女比は2.8:1と男性に多い。発生率(人口10万対)の高い省は内蒙古68.6、山西14、吉林12.6、黒竜江12.3の中国東北部の各省で、河北4.6、寧夏2.6を加えると、この6省で中国全体のブルセラ症の92%を占めることとなる。分離株は、ほとんどが、Brucella melitensis (1、2、3型で3型が多い)であるが、まれにB. abortus (3、6型)も分離されている。
最近では、2011年の黒竜江省からの報告(疾病監測 Nov. 30, 2011, Vol. 26, 861-863)がある。1956年に発生率6.87と大発生があった後、しばらく大きな流行は認めなかったが、2000年以降、患者が年々増加し2005年と2009年に大流行があり、それぞれ4,040件(発生率10.77)、4,795件(発生率12.59)の患者を出した。患者はほとんど(86%)が農夫である。かつては省内の内陸地域(西部)に多かったが、2000年以降は東部地域にも拡大してきている。このような流行は、羊の移動に伴い他省にも及び、省間の検疫の無いことが流行を広げているという。その例として、浙江省では北方から羊を買い入れた養羊業者22名、その他13名を加え35人が曝露を受け7人が罹患している(疾病監測 Jan. 30, 2012, Vol. 27, 57-58)。
ブルセラ症は中国で流行が年々増加し続ける感染症の1つである。旅行者などは未殺菌羊乳あるいは牛乳を飲むことは避けるべきである。
国立感染症研究所国際協力室