国立感染症研究所

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溶血性レンサ球菌レファレンスセンター

(IASR Vol. 33 p. 211-212: 2012年8月号)

 

溶血性レンサ球菌レファレンスセンターは、8つのセンター(福島県衛生研究所、富山県衛生研究所、東京都健康安全研究センター、神奈川県衛生研究所、大阪府立公衆衛生研究所、山口県環境保健センター、大分県衛生環境研究センター、国立感染症研究所)(表1)が中心となって、国内で発生した溶血性レンサ球菌感染症患者から分離された菌株にかかわるレファレンス活動を行っている。主な検査として、咽頭炎由来株および劇症型溶血性レンサ球菌感染症由来株の血清型別、遺伝子型別、薬剤感受性試験である。

血清型別:A群溶血性レンサ球菌の菌体表層には、MおよびT蛋白等が存在しており、血清型別に利用されている。M蛋白は、耐熱性、トリプシン感受性、型特異的であり、100以上の型が知られている(http://www.cdc.gov/ncidod/biotech/strep/strepindex.htm)。M蛋白は、抗オプソニン作用を有し、細胞への接着にも関与しており、病原因子として知られている。分離株のM型別を行うことは病因との関連を知る上で重要であるが、継代による蛋白の脱落が生じることや、市販血清がないことから、M型別の実施は困難であり、一部の機関でのみ行われている。近年、M型別を血清学的方法ではなく、M蛋白遺伝子(emm )の領域を明らかにし、型別する試みもなされている。一方、T蛋白は病原性と無関係とされているが、T型別とM型別の菌型は相対すること(表2)、トリプシン耐性、型特異的、M蛋白に比べ安定性があり、さらに、継代に耐えうることから、疫学調査の手段として用いられ、多くの施設で実施されている。

遺伝子型別:A群溶血性レンサ球菌の多型性あるいは毒素遺伝子の保有を知る方法として、emm 遺伝子型別とspe 遺伝子型別がある。emm 遺伝子型別は、前述したM型別を血清学的方法ではなく、M蛋白をコードする遺伝子の領域を明らかにし、型別する方法である。M蛋白はemm 遺伝子1遺伝子によってコードされていることから、このemm 遺伝子をPCRで増幅後、その増幅産物の塩基配列を決定することで、emm 遺伝子型を同定することができる。現在まで、100以上の型が同定されている。また、このemm 遺伝子は、Streptococcus pyogenes ばかりでなく、S. dysgalactiae subsp. equisimilis でも保有している。発赤毒素(streptococcal pyrogenic exotoxin: SPE、あるいは、erythrogenic toxin: ET、Dick toxin)は、猩紅熱患者から分離されたA群溶血性レンサ球菌株の培養濾液中に存在する病原因子として1924年Dickにより発見された。主なSPEとしては、SPE-A、SPE-B、SPE-Cがあり、それぞれの遺伝子(speA , speB , speC )に特異的なプライマーを準備することにより、PCR法で簡便に遺伝子保有の有無を調べることができる。

薬剤感受性試験:薬剤感受性試験は、CLSI(旧NCCLS 米国臨床検査標準委員会)に基づく微量液体希釈法により、MIC(最小発育阻止濃度)を測定している。劇症型溶血性レンサ球菌感染症由来株は、アンピシリン(ABPC)、ペニシリンG(PCG)、セファゾリン(CEZ)、セフォタキシム(CTX)、メロペネム(MEPM)、イミペネム(IPM)、パニペネム(PAPM)、エリスロマイシン(EM)、クリンダマイシン(CLDM)、リネゾリド(LZD)、シプロフロキサシン(CPFX)、ミノサイクリン(MINO)計12薬剤について検査をしている。咽頭炎由来株は、アンピシリン(ABPC)、セフジニル(CFDN)、セファレキシン(CEX)、セフジトレン(CDTR)、エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、リンコマイシン(LCM)、クリンダマイシン(CLDM)、テトラサイクリン(TC)、クロラムフェニコール(CP)計10薬剤について検査をしている。

近年、薬剤耐性株の急増傾向が明らかとなってきている。しかしながら、迅速診断キットの普及により、菌株の収集が減少しており、薬剤耐性率の十分な把握には至っていないのが現状である。今後、薬剤耐性のモニタリングの全国規模での実施が望まれる。

 

衛生微生物技術協議会溶血性レンサ球菌レファレンスセンター
福島県衛生研究所
富山県衛生研究所
東京都健康安全研究センター
神奈川県衛生研究所
大阪府立公衆衛生研究所
山口県環境保健センター
大分県衛生環境研究センター
国立感染症研究所

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