若年男性におけるHIV感染症の発生動向 2007~2011年
(IASR Vol. 33 p. 232-233: 2012年9月号)
2010年のWHO/UNAIDS(世界保健機関/国連エイズ合同計画)報告によると、新規のHIV感染の42%が15~24歳となっている。日本においても、HIV感染症が社会問題となった当初から、性行為の若年化や性の多様化を背景に“やがて感染爆発がおきる”といわれ、地理的な拡大、ハイリスク層から一般人口への拡大、上の世代から次世代(若年層)への拡大などが懸念されてきた。
2007~2011年の5年間に、感染症発生動向調査で後天性免疫不全症候群として報告されたHIV感染症例(患者および無症状病原体保有者)7,592例のうち、24歳以下の若年層は772例(10.2%)であった。このうち、母子感染の0歳児の3例、および出生後の感染1例の4例を除いた768例の95.7%(735例)が男性症例〔日本国籍689例(93.7%)、外国国籍30例、不明16例〕であった。
以下に2007~2011年の若年男性のHIV感染症735例の発生動向について記述する(なお、報告数は診断週で計上)。
年次推移
年別報告数は、2007年129例(うちエイズ発症例7)、2008年158例(同15例)、2009年148例(同9例)、2010年150例(同9例)、2011年150例(同16例)であり、ほぼ横ばいで推移した。
年 齢
735例のうち、18歳以下の中学生・高校生相当年齢の報告が39例(5.3%:14歳1例、15歳1例、16歳1例、17歳12例、18歳24例)あった。19歳以上では、19歳40例、20歳102例、21歳111例、22歳105例、23歳171例、24歳167例と、年齢の上昇とともに増加傾向が認められた(図1)。
病 期
16歳以下の3例はすべて無症状病原体保有者であったが、17~24歳では、25歳以上の世代と比較してその比率は小さいものの、エイズ発症例が56例(7.6%)報告された(図1)。
18歳以下の39例のうち、エイズ発症例の報告は3例あり、その診断名は、17歳:サイトメガロウイルス感染症、18歳:エイズ消耗症候群/活動性結核、18歳:ニューモシスティス肺炎であった。無症状病原体保有者として報告された36例のうち、感染直後の急性期症状の報告は5例で、31例は無症状での届出であった。
報告機関
自発的に検査を受けたと考えられる保健所・保健センターおよび行政が設置したHIV検査特設検査機関(以下保健所等)からの報告が 257例(257/735=35.0%)あり、このうち、249例(249/257=96.9%)は無症状病原体保有者であった(ただし、保健所等からの報告はされず、保健所等からの紹介により受診した医療機関から報告されたものは上記に含まれていない)。
地 域
報告地の都道府県別では、報告がなかったのは秋田県・新潟県・鳥取県・島根県・高知県の5県のみであった。最も多かったのは東京都236例(32.1%)、次いで大阪府153例(20.8%)、愛知県44例(6.0%)となっており、全報告例での傾向と同様であった。同年齢男性人口10万人当たりでみると、東京都、大阪府に次いで、沖縄県が3位、広島県が4位となり、また、徳島県、山口県、岐阜県が報告数の順位と異なり上位10位に加わった(表1)。
感染経路
735例のうち、性的接触によるものが686例(686/735=93.3%)あり、その内訳は異性間88例(88/686=12.8%)、同性間558例(81.3%)、異性間および同性間26例(3.8%)、異性間か同性間か不明が14例(2.0%)であった。静注薬物使用は10例(10/735=1.4%)あった(うち6例は同性間性的接触、1例は異性間性的接触と複数回答)。
18歳以下の39例に限ってみると、性的接触での感染によるものが36例(36/39=92.3%)で、内訳では異性間5例(5/36=13.9%)、同性間27例(75.0%)、異性間および同性間1例(2.8%)、異性間か同性間か不明が3例(8.3%)であった。静注薬物使用は2例(2/39=5.1%)あった(うち1例は同性間性的接触と複数回答)。
まとめ
2010年の米国における新規HIV感染症のうち、13~24歳は全体の約20%と報告されている。日本における同世代の報告は全体の約10%にとどまっていたが、HIV検査の受検状況や、診断契機の詳細は不明である。米国においては、2006年に医療機関を受診した13~64歳全員を対象にHIV検査の勧奨が行われており(opt-out式*)、当事者や医療関係者のHIV検査の必要性に関する認知度は高いと思われる。しかし、日本においては基礎疾患のない思春期層が医療機関を受診することは稀であり、また、医療者から検査勧奨を行うことも一般的ではない。また、若年層では医療機関受診時に保護者/代理人の同意確認が必要な場合もあり、検査から専門病院受診までの本人の意思決定における課題も生じやすいと考えられる。
今回の集計結果から、若年層においても、上の世代同様に、男性同性間性的接触が主な感染経路であり、MSM(男性と性行為を行う男性)間において、HIV感染症が世代を超えて若年層にも拡大している状況が把握された。感染リスクや予防・検査受診について、より早期からの啓発が必要であり、そのためには学校教育現場との協力が重要である。また、特にHIV有病率の高い地域においては、他の性感染症の診療時などに、医療者からHIV検査を勧奨するなどの工夫も必要と考えられる。
*opt-out式:原則として、広く対象全員にオプションとして検査を提供するが、本人が希望しない場合には辞退が可能とする手法
国立感染症研究所感染症情報センター
(担当:堀 成美 島田智恵 多田有希)