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Bordetella holmesii による感染性心外膜炎症例

(IASR Vol. 33 p. 332-333: 2012年12月号)

 

Bordetella holmesii は1995年に登録されたグラム陰性桿菌である。B. holmesii は免疫学的易感染者に対して稀に菌血症を起こすことが知られていたが、近年百日咳様患者からの検出も報告されるようになり、呼吸器疾患との関連が注目されている。今回、我々は本邦初となる悪性リンパ腫の治療中に発症したB. holmesii による感染性心外膜炎を経験したので報告する。

症 例
患者:71歳、男性
主訴:発熱、体動時息切れ
現病歴:2007年11月29日~12月29日DLBCL(びまん性大細胞性型Bリンパ腫)にて入院加療を行った。R-CHOP治療(抗体医薬と化学療法の併用療法)開始約1カ月後わずかに心嚢液の貯留を認め、ドレナージ等の必要性を検討したが、影響は無いとして治療を継続した。

2008年5月までにR-CHOP治療6クール施行したが、6月のPET-CTで気管分岐部リンパ節に残存病変が疑われ、9月までに計8クールのR-CHOP治療を施行した。2009年4月のPET-CTで上記リンパ節(径15mm程度)のSUV(Standard Uptake Value)が上昇し、再発を疑われ5~6月にかけリツキシマブ4回投与、また9~11月にも同治療反復された。12月のPET-CTでの所見変わらず、2010年1~2月にもリツキシマブ計6回投与、3月PET-CTでの活動性変わらず(径は横ばい)の判断でシクロホスファミド+リツキシマブ療法を5~6月に施行された。7月のPET-CTでも所見は変わらず、シクロホスファミド(50mg、10日/月)のみ継続されていた。12月中旬頃より体動時息切れ、および37℃台の発熱、12月24日に外来受診、胸部CT、X-Pで心嚢液の著明な増加を認め緊急入院となった(図1)。

入院時検査所見:CRP 23.0 mg/dl、WBC 6,200/μl(Segmented form:分節核球86.5%)。

臨床経過:入院後直ちに心嚢ドレナージ術を施行、血性心嚢液を排液した。心嚢液の成分は好中球優位の炎症像、リンパ腫細胞は無く、培養によりグラム陰性桿菌が検出された。

セフトリアキソン(CTRX)の投与開始後、速やかに解熱、ドレーン抜去後も心嚢液の増加は認められなかった。しかし、約4週間後に白血球数減少ならびに発熱が認められ、肺真菌症が疑われた。そこで、セフォゾプラン(CZOP)、ミカファンギン(MCFG)、ボリコナゾール(VRCZ)を投与し、約1カ月後に改善、軽快した。

細菌学的検査:提出された心嚢液の培養は、35℃48時間の好気培養で羊血液寒天培地とチョコレート寒天培地に肉眼で確認できる程度のコロニーを形成した。4日目になるとコロニーは1mmほどに成長し、羊血液寒天培地ではコロニーの周辺がα溶血のような緑色を呈した。特徴的なのはマッコンキー寒天培地での発育が非常に遅く、初回分離株のみ5日目でコロニーを形成し、継代した菌株ではマッコンキー寒天培地に発育しなかった。また、発育したコロニーを百日咳菌の選択分離培地であるボルデテラCFDN寒天培地(日研生物)に塗抹したところ、4日目で0.1mm程度の肉眼で確認できる程度の発育を認めた。コロニーのグラム染色はグラム陰性小桿菌が観察された。羊血液寒天培地に発育したコロニー像とグラム染色像を図2に示す。発育したコロニーをApi20NE(sysmex)、NC3.12J(SIEMENS)に供試したが、生化学的な反応では同定に至らず、最終的に16S rRNA遺伝子解析によりB. holmesii と同定した。

考 察
今回、侵襲性疾患からB. holmesii を検出した。R-CHOP治療開始直後から心嚢液の貯留を認めていたが、その段階でのB. holmesii の関連は確認されていない。B. holmesii は発育が遅く、口腔内の他の細菌と同時に発育した場合での検出は極めて困難と考えられた。また、ボルデテラCFDN寒天培地はB. holmesii の発育は遅いながらもコロニー形成を認めたことから、市販の分離培地として利用可能と考えられた。日本における百日咳様患者からのB. holmesii の分離症例は北海道、埼玉県、大阪府、宮崎県で認められており、侵襲性材料からの本症例は神奈川県在住者であった。B. holmesii は日本各地から臨床分離されており、すでに本邦に蔓延しているものと考えられる。百日咳様疾患からの検出はもとより、今後侵襲性材料からの検出が増加するのか興味深いところである(J Clin Microbiol 50: 1815-1817, 2012)。

 

日本医科大学付属病院中央検査部 園部一成
     同                          感染制御部 根井貴仁
     同                           血液内科  兵働英也
東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科生体防御検査学分野 齋藤良一

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