国立感染症研究所

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2012年の海外の麻疹情報

(IASR Vol. 34 p. 24-25: 2013年2月号)

 

WHO Western Pacific Region (WPR)における麻疹の流行状況
WPRでは2012年を麻疹排除達成の目標年に設定しているが、韓国のみが2006年に麻疹排除を宣言している。2012年(10月時点)におけるWPRでの麻疹罹患率は、人口100万対1未満が25カ国、100万対10未満が8カ国、 100万対10以上が3カ国で、WPR平均では100万対5.9となり、2011年平均の100万対11.6に比べて減少している1) 。本邦では,積極的な麻疹排除に向けた取り組みにより2009年から感染者数は急激に減少し、2012年では 293人(感染症発生動向調査:2013年1月8日現在報告数)、人口100万人対2.5未満と報告されており、麻疹排除の一つの目安としていた人口100万対1未満に迫る状況となってきている。感染者数の減少に伴い、ウイルスの遺伝子型にも変化がみられ、2006~2008年頃までに本邦で主流(常在株)を占めていたD5型は2010年5月を最後に検出されず、海外で流行しているD4型、D8型、D9型、G3型、H1型の輸入症例が報告されている(IASR 33: 27-33, 2012)。2012年(10月時点)にWPRで検出されたウイルスの遺伝子型とその報告数を表1に示す。

WHO Europe Region (EUR) における麻疹の流行状況
EUR は麻疹排除達成年を2010年に設定していたが、各地で流行が多発したため、2010年9月に麻疹排除達成年を2015年に変更した。2010年以来、ヨーロッパ諸国では麻疹患者数が増加しており、2011年には36カ国から症例報告があった2) 。その数は26,000件以上で、多くはフランスからの報告(>14,000件)であった2) 。EURでは、2008年にも大きな流行があり、その時から常在株になったウイルス(遺伝子型D4)が昨年来の大流行を引き起こしたことが明らかとなっている3)。2011年の流行では6種類の遺伝子型(D4、B3、G3、D8、D9、H1)が検出され、D4型が主な流行株で、24カ国で検出されている2)。患者の構成を見ると、49.4%は15歳以上で、5歳以下は25.0%、5~14歳は24.7%であった。また、患者のワクチン接種歴は、未接種が45.1%、1回接種が 7.4%、2回接種が 2.1%、接種歴不明が45.4%であった2) 。2012年(1~9月)は、51の地域で19,264件の麻疹の流行が報告され、うち86%(16,543件)をウクライナ(11,298件、59%)、ルーマニア(2,051件、11%)、ロシア(1,834件、10%)、英国(1,360件、7%)の4カ国が占めた4)。 7,308件(38%)が検査室診断され、 1,506件(8%)で疫学的リンクが確認された。 1,153件でウイルスの遺伝子型が解析され、その遺伝子型は、D4( 474件)、B3( 490件)、D8(174件)、D9(12件)、H1(3件)であった。アルバニア、ハンガリー、アイスランド、マルタ、モンテネグロ、セルビアの6カ国では、流行が発生しなかった。患者の年齢分布(19,228件、99.8%)は、1歳以下が9%、1~4歳が22%、5~19歳が40%、20歳以上は29%であった。また、ワクチン接種歴(16,382件、85%)を見ると、8,332件(51%)がワクチン未接種で、 8,050件(49%)が少なくとも1回のワクチン接種を受けていた。ワクチン接種者での流行の84%(6,760件)は、ウクライナから報告されている。

WHO Americas Region (AMR) における麻疹の流行状況
AMRでは、2002年11月に発生した土着株による流行を最後に、麻疹の排除状態を維持している。アメリカでは2000年に麻疹排除を宣言したが、その後、輸入症例によるアウトブレイクが多数報告されている。AMRでは2011年には23,204件の麻疹疑い症例があり、1,310件が麻疹症例として報告された5)。麻疹症例の報告は、北米のカナダ(802件)、アメリカ(223件)が多く、全報告数の78%を占めた。アメリカでは、31の州から報告があり6)、そのうち112件(50%)が17件のアウトブレイクに関連していた。また、200件(90%)が輸入症例で、うち52件(26%)が海外旅行からの帰国者で、20件が海外からの訪問者であった。患者の86%はワクチン未接種(65%)、または接種歴が不明(21%)であった。検出されたウイルスの遺伝子型は、D4、D9、D8、B3、G6、H1の6種類であった6)。カナダでは、ケベック州から多くの報告があり、725件が麻疹症例と判定された。感染者の56%は12~17歳の青少年が占めており、検出されたウイルスはB3型であった7)。2012年は18,514件の疑い症例があり、135件の麻疹症例が報告された。報告数は、エクアドルが最も多く68件、次いでアメリカの54件であった8)。

WHO African Region (AFR)における麻疹の流行状況
AFRは2020年を麻疹排除達成年と設定している。AFRでは、麻疹含有ワクチンの2回接種によるワクチン接種率の向上と維持、およびサーベイランスシステムのサポートを軸とするWHO-UNICEF推奨のプログラムを2001年から実行した。その結果、2000年に全国平均56%だったワクチン接種率が2008年には73%に上昇し、371,000名いたと推定される麻疹による死亡者数が28,000名まで減少した(92%の減少)9 )が、2009~2010年に28カ国でアウトブレイク(223,016件)が発生し、1,193件の死亡が報告された10) 。2020年の麻疹排除を目標に、AFRでは2012年までに麻疹による死亡率を2000年比で98%減少させること、また、罹患率を人口100万人対5未満になるようにワクチン接種率の向上を図るとともにサーベイランス体制の強化を進めている10) 。AFRで流行しているウイルスの遺伝子型は、B2、B3、D8の3種類である。

WHO Eastern Mediterranean Region (EMR)における麻疹の流行状況
EMR は、2015年を麻疹排除達成年と設定している。2011年には25,280件の疑い症例が報告され、うち12,876例が麻疹症例11) で、ウイルスの遺伝子型はB3、D4、D8、H1の4種類であった。アフガニスタンでは、2011年に4,856件の疑い症例が報告され、9名の死亡が確認されている12) 。2012年は20,133件の疑い症例が報告され、15,009件が麻疹症例11)であった。症例の多くは、アフガニスタン、パキスタンより報告されており、アフガニスタンでは7,789件の疑い症例が報告され、28名の死亡12)  が、パキスタンでは14,687件の疑い症例が報告され、304名の死亡が確認されている13)  。

WHO South-East Asia Region (SEAR) における麻疹の流行状況
SEARは麻疹による死亡件数が多く、2010年に麻疹により全世界で死亡した139,300人のうち、47%をインドが占めていることが報告されている14)  。このような状況で、SEARでは2015年までに麻疹で死亡する麻疹感染者数の割合を2000年の死亡者数(733,000名)と比較して95%減少させることを目標として掲げている。2011年における麻疹疑い症例は20,731件で、検査室診断による麻疹確定症例は9,004件であった15)  。確定件数は、インドネシア(3,747件)、バングラデシュ(2,802件)、ミャンマー(873件)、ネパール(797件)、東ティモール(763件)、タイ(22件)の順で多く、インドは未報告であった。2012年は9,593件の麻疹疑い症例が報告され、麻疹確定症例は3,309件であった15) 。確定件数は、ミャンマー(1,156件)、バングラデシュ(1,092件)、インドネシア(677件)、ネパール(352件)、タイ(25件)、東ティモール(7件)で、インドからは未報告であった。SEARで流行しているウイルスの遺伝子型は、D4、D5、D8、D9、G2、G3と報告されている15)  。

 

参考文献
1) WHO/WPRO, Measles-Rubella Bulletin 6, 2012
2) WHO, WER 86: 557-564, 2011
3) Mankertz A, et al., J Infect Dis 204 (Suppl 1): S335-342, 2011
4) WHO/Euro, WHO Epidemiological Brief 28: 1-11, 2012
5) WHO/PAHO, Measles Rubella Weekly Bulletin 17: 52, 2011
6) CDC, MMWR, 61: 253-257, 2012
7) De Serres G, et al., J Infect Dis, 2012 (in printing)
8) WHO/PAHO, Measles Rubella Weekly Bulletin 18: 52, 2012
9) WHO, WER 84: 505-516, 2009
10) FFR/RC/8, http://www.afro.who.int/en/sixty-first-session.html
11) http://www.who.int/immunization_monitoring/diseases/measlesregionalsummary.pdf
12) WHO/EMR, Wkly Epidemiol Monitor 32, 2012
13) WHO/EMR, Wkly Epidemiol Bulletin 51, 2012
14) Simons E, et al., Lancet 379: 2173-2178, 2012
15) http://www.searo.who.int/entity/immunization/data/sear_vpdupdate_dec12.pdf

 

国立感染症研究所ウイルス第三部
染谷健二 駒瀬勝啓 竹田 誠

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