国立感染症研究所

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莢膜膨化法と遺伝子増幅法による肺炎球菌の血清型決定

(IASR Vol. 34 p. 67-68: 2013年3月号)

 

肺炎球菌は主要な呼吸器病原性菌である。本菌の分離同定には血液寒天培地上での溶血性(α溶血)、胆汁酸溶解試験、オプトヒン感受性試験等によって行われる。本菌の構成成分である莢膜ポリサッカライドはその血清型を決定する抗原である。現在までに93種類の血清型が報告されているが、その血清型決定には抗莢膜血清(Statens Serum Institut 製)を用いた膨化法による型別が標準である。実際の方法としては、スライドグラス上にて肺炎球菌、型特異抗血清、メチレンブルー溶液を混合し、光学顕微鏡(×1,000倍)で検鏡する。肺炎球菌の莢膜抗原と抗血清に反応が起こらなければ、メチレンブルーで染色された菌体のみが見られる(図1.A)。莢膜抗原と抗血清が反応している場合、莢膜に型特異抗体が結合することによって莢膜の膨化(Quellung反応)が見られる(図1.B)。膨化法による血清型決定は、1検体当たりの検査コストは比較的安価であるが、熟練を必要とする。

一方、Multiplex PCR法による肺炎球菌株の血清型決定も可能になっている。肺炎球菌の莢膜は多くの遺伝子群にコードされる莢膜合成酵素群より合成される。血清型間で重複する遺伝子も多く存在するが、本法では、個々の血清型特異的遺伝子をターゲットに血清型を同定する。分離菌株より得られたDNA サンプルと血清型特異プライマーを用いて、QIAGEN Multiplex PCR Kit(キアゲン)等によりMultiplex PCRを行う。PCR後、増幅産物サイズをアガロース電気泳動法により確認することで、血清型を同定する。現在、40種の血清型を同定できるが、1つのDNA サンプルに対して8つのPCR 反応を同時に行う。各PCR 反応には複数種類の該当する血清型特異領域のプライマーセットを含む。8つのMultiplex PCR反応(反応1:血清型6A/B/C, 3, 19A,22F/A, 16F、反応2:血清型8, 33, 15A/F, 7F/A, 23A、反応3:血清型19F, 12F, 11A/D, 38/25F, 35B、反応4:血清型24, 7C, 4, 18, 9V、反応5:血清型14, 1, 23F, 15B, 10A、反応6:血清型39, 10F, 5, 35F, 17F、反応7:血清型23B, 35A, 34, 9, 31、反応8:血清型21, 2, 20, 13)により特定の血清型を同定することが可能である。図2には成人の侵襲性肺炎球菌感染症患者由来の肺炎球菌株を用いたMultiplex PCRの電気泳動所見を示した。本菌株では反応3において 304bpの位置にバンドが認められ、血清型19F と判定され、また膨化法でも19F であることが確認された。本アッセイの、プライマー配列や増幅産物サイズ、反応条件などの詳細については米国CDC ホームページ(http://www.cdc.gov/ncidod/biotech/strep/pcr.htm およびhttp://www.cdc.gov/ ncidod/biotech/files/pcr-US-clinical-specimens.pdf)を参照されたい。Multiplex PCR法による血清型決定はプロトコールに準拠すればいずれの研究室においても比較的容易に実施できることから、スクリーニング法として有用である。

 

参考文献
1) Carvalho et al., J Clin Microbiol 45: 2460-2466, 2007

 

国立感染症研究所細菌第一部 常  彬 大西 真
大阪大学微生物病研究所 朴 貞玉 明田幸宏

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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