国立感染症研究所

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第20回国際エイズ会議(AIDS 2014)

(IASR Vol. 35 p. 215-216: 2014年9月号)

第20回国際エイズ会議は2014年7月20日、メルボルンで開会された。マレーシア航空機の撃墜事件で、少なくとも6人の会議参加予定者が亡くなるという悲劇が直前にあり、国際エイズ学会(IAS)は大きな衝撃を受けた。開会式では、この事故の犠牲者を追悼し、黙祷がささげられた。開会宣言の後、オーストラリアおよびアジア・オセアニア・環太平洋の感染者の代表が次々と登壇し、演説した。これまで感染者のおかれた困難な状況に関して述べ、有効な抗ウイルス薬だけではAIDS/HIV問題の解決にはならない、偏見や差別の撤廃と、人としての権利の回復が必要であると主張した。これまであまり言及されなかった法律問題にも触れ、HIV感染者ばかりでなく、ゲイやPWUD(麻薬使用者)への温かい配慮のある社会構築が不可欠とした。一方、学会の主なトピックスは、HIVの治癒戦略、曝露前予防(PrEP)によるHIV予防、予防としての治療(TasP)、自発的な男性の割礼、結核やC型肝炎との重感染、HIVと経口避妊薬、また、差別的法律がもたらす影響、HIV予防とケアのコストなど、社会領域の課題を中心にしたものが多く取り上げられた。

治癒に向けた研究のトピックス
米ミシシッピ州で生まれた女児が、出産直後に積極的な抗ウイルス療法を受けた結果、HIV感染から治癒したという発表があったのは2013年3月だった。この報告はHIVに感染して生まれた新生児を感染していない状態に戻しうる可能性を示すものと受け止められた1)。その女児は現在、4歳になっており、血液中に検出可能レベルのウイルスが認められたことから、抗レトロウイルス治療が再開された。この「ミシシッピベビー」に関して、担当のD. Persaud教授が報告した。27カ月の無治療期間中、HIV-RNA、抗HIV抗体、抗-HIV T細胞反応は認められず、ウイルス増殖の兆候はなかったということであった。gag遺伝子を比べると、再増殖してきたウイルスは母親のものと98%一致した。この症例が、「治癒」したわけではなく、ウイルスの再増殖がみられたことは大変残念ではあるが、多くのことを学ぶことができる。一つは、現在の方法では、極めて低いレベルで持続的に感染しているウイルスを見つけ出すことが困難であること、さらにウイルスの再増殖にかかわるバイオマーカーが不明であることである。一方、感染早期に治療を開始し、リザバーを最小限にとどめられれば、27カ月に及ぶ長期寛解状態を得ることが可能であることが示された。

HIV感染予防研究のトピックス
CAPRISAのリーダーであり、microbicideの研究で有名なS. A. Karim博士の「抗ウイルス薬による予防の可能性と課題」と題した総説講演は聞きごたえのあるものだった。米国CDCやUNAIDSがPrEPをTasPとともに、早期に実行に移すことを推薦していることは周知の事実だが、現実にはなかなか浸透していない。これにはPrEPに関していくつかの誤解があるためであり、これらの誤解を解消していく必要性を述べた。確かに、PrEPに関する臨床試験の結果には、大きな違いがあり()、またアドヒアランスをどのようにして保つかなどの問題も多い2,3)。一方、PrEP先進国であるはずの米国でも、ハイリスク例へのPrEPは49~64%にしか行われていないという現実がある4)。南アフリカでは、若い女性の感染予防対策は重要課題であり、ハイリスク群として、MSM、PWUDとともに若年女性に対するPrEPによる予防介入をスピードアップする必要性を述べた。TasPに関してはJ. Montanerが総説講演し、care cascadeの改善を指標として数字で示した。すなわち、全感染者の診断率を90%、定期的なケアを受ける確率を90%とし、治療効果が90%にできれば全症例の73%の患者でウイルスが抑さえられる。これは現在の約3倍の効果ということになる。これを2020年には到達することが目標である。

終わりに
2030年までにエイズの流行の終結を目指すのなら、誰も置き去りにはできない(No one can be left behind if the AIDS epidemic is to come to an end by 2030)というのが、第20回国際エイズ会議のメッセージの一つだった。AIDS 2014はほぼ共通の認識として、これまでの成果にもかかわらず、流行の社会的拡大要因に対して、さらに取り組みを充実させる必要があるという結論に達した。懲罰的な法律も偏見と差別も存在しており、流行の制圧を妨げる障壁になっている。若者、および感染の高いリスクにさらされ、対策の鍵を握る人たちが求めているサービスを提供できるようにすること、HIV感染が最も多く起きている地域に対策の焦点をあてることが、効果的にエイズの流行に対応するためには重要であることが確認された。

 

参考文献
  1. Persaud D, et al., N Engl J Med 369: 1828-1835, 2013
  2. Abdool-Karim SS, Abdool-Karim Q, The Lancet 378: e23-25, 2011
  3. Abdool-Karim SS, The Lancet 381: 2060-2062, 2013
  4. Liu A, et al., PLoS Med 11: e1001613, 2014

熊本大学エイズ学研究センター 松下修三

 

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