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宮崎市の一医療機関における成人の風疹・麻疹抗体価の検討―風疹・麻疹抗体検査費用助成事業への取り組みを中心に

(IASR Vol. 36 p. 64-65: 2015年4月号)

はじめに
2012年第20週から始まった全国的な風疹の流行も、2013年第32週には週100例を割り始め、2014年に入り、ようやく沈静化した。この間2012年第42週の兵庫県の症例を皮切りに、2014年第40週の千葉県からの報告まで、先天性風疹症候群(CRS)の報告は、45例に上った。

また、2014年初めには、年末・年始の東南アジア旅行に関連すると思われる輸入麻疹の小流行が、全国各地で起こった。

2014年3月28日、厚生労働省が告示した「風しんに関する特定感染症予防指針」には、東京オリンピック開催年である2020年度までに風疹の排除を達成することが、目標として掲げられている。2014年度は、全国の多くの自治体で、風疹抗体価の検査が無料で受けられる体制が整備された。宮崎市においては、2014年4月21日~2015年3月31日の1年間、風疹抗体価の測定に併せて、麻疹抗体価も同時に測定された。当院では、市の事業実施以前の約1年間にも成人の風疹および麻疹抗体価を測定してきた。そこで本稿では、主に2013年4月以降の約21カ月間に当院において採血し測定された成人の風疹・麻疹抗体価の結果について整理し、今後必要な風疹・麻疹対策について考察することを目的としている。

対象・方法
2013年4月(1人のみ3月26日)~2014年12月まで12月までの約21カ月間に、当院に子どもを連れてきた、宮崎市の検査助成基準(http://www.city.miyazaki.miyazaki.jp/www/contents/1396486534704/index.html)の対象として合致した成人(主として父親)および、検査を希望した成人(主として母親)を対象に採血を実施し、民間検査機関にて抗体の測定を行った。風疹については赤血球凝集抑制法(HI価)1:32以上あるいは酵素抗体法(EIA価)8.0以上、麻疹はEIA価12.0以上を接種勧奨の対象外(=非接種勧奨対象者)としている宮崎市の基準をもとに、性別・年齢群ごと(検体採取時)の特徴について集計を行った。また、本調査において接種勧奨対象者となった者については、主に麻疹風疹混合(MR)ワクチンを用いて、できる限りの麻疹・風疹ワクチン接種を行った。

結 果
対象期間中の全受検者は、男性761人、女性147人であった。

成人男性761人〔年齢中央値35歳(範囲:21-54歳)〕のうち、風疹ワクチンについて、非接種勧奨対象者の割合(不明2人を除く)は72.3%(=接種勧奨対象者は27.7%)となり、麻疹ワクチンについて、非接種勧奨対象者の割合(不明1人を除く)は63.3%(=接種勧奨対象は36.7%)となった。風疹および麻疹の両方に対する非接種勧奨対象者は359人(47.2%)であった。接種勧奨レベルを区切りとした年齢群別の抗体保有の状況について図1に示す。人数が少ない年代もあるが、風疹および麻疹の各ワクチンに対する非接種勧奨者の割合は、45歳以上群*(*麻疹ワクチンの接種勧奨レベルを上回る抗体保有者の割合は80%)を除く全年齢群で約8割を下回った。

次に成人女性147人〔年齢中央値35歳(範囲:18-50歳)のうち、風疹ワクチンについて、非接種勧奨対象者の割合(不明4人を除く)は77.7%(=接種勧奨対象者は22.3%)となり、麻疹ワクチンについて、非接種勧奨対象者の割合は65.3%(=接種勧奨対象者は34.7%)となった。風疹ワクチンの非接種勧奨対象者111人のうち、麻疹ワクチンの接種勧奨対象となる者が35人(31.5%)あった。接種勧奨レベルを区切りとした年齢群別の抗体保有状況について図2に示す。各年齢群における人数のばらつきが男性以上に多い状況(4~50人)はあるが、風疹ワクチン非接種勧奨対象者の割合は35~39歳群で最も高く(91.8%)、麻疹ワクチン非接種勧奨対象者の割合は、検査人数が20人以上の群では約2~5割と様々であった。

男性では風疹ワクチン接種勧奨対象者210人中145人に対して風疹含有ワクチンを、麻疹ワクチン接種勧奨対象者279人中201人に対して麻疹含有ワクチンを接種し、女性では風疹ワクチン接種勧奨対象者32人中21人に対して風疹含有ワクチンを、麻疹ワクチン接種勧奨対象者51人中31人に対して麻疹含有ワクチンを接種した(それぞれMRワクチンおよび単味各ワクチンを含むため重複あり)。

考 察
本調査は検体採取を人口集団に対してランダムに行ったわけではなく、元より風疹含有ワクチンを過去2回以上接種したことがある者や、過去に風疹と診断されたことがある者は対象とならないことから、風疹の未接種未罹患者により多く偏って検査がなされた可能性が高い。しかしそれであっても、風疹抗体価の低い男性が、未だ多数積み残されていたこと、風疹および麻疹両方のいずれも非接種勧奨対象となるレベルの抗体価(宮崎市の基準)を有する男性は半数にも満たなかったこと、特に今回の対象者の選択で、風疹と異なり抗体保有について大きく特徴的な状況が出にくいはずの麻疹のワクチン接種勧奨対象者が、風疹のそれを上回って数多く把握された事実は非常に重要である。今回、風疹ワクチン接種勧奨対象となる女性の 約3分の2に風疹含有ワクチンを接種したが、風疹ワクチン非接種勧奨対象の女性であっても、実は3分の1近くが麻疹ワクチン接種勧奨対象者となったことから、これらの半数以上に麻疹含有ワクチンを接種した。麻疹は患者の1,000人に1人が命を落とすなど、重大な健康被害を及ぼす病気である。また、定期接種対象外の0歳児が、毎年100万人規模で感受性者として新たに存在し続けることから、定期接種を受ける前の乳児に麻疹を感染させないためにも、成人などへの麻疹含有予防接種は重要である。また当然、風疹流行やCRSの発生予防のためには風疹含有ワクチンの予防接種しかない。

結 語
自治体の風疹・麻疹抗体検査費用助成事業のもとで実施した成人の風疹および麻疹抗体価の測定において多くの接種勧奨対象者が存在することが把握され、風疹および麻疹含有ワクチンを接種した。わが国から風疹と麻疹の両方を排除するためには、成人を含むすべての国民にMRワクチン2回接種を徹底することが重要である。

 

三宅小児科医院院長(宮崎市)
宮崎県小児科医会会長 三宅和昭

 

 

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