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海外の麻疹の状況―2014年のWPR、EUR、AMRの状況

(IASR Vol. 36 p. 68-70: 2015年4月号)

世界における麻疹の症例数は、2000年から劇的に減少してきている(図1a)。WHOのMeasles Surveillance Data1) によると、2013年、2014年の麻疹報告症例数は、それぞれ179,825例、191,343例となっている(2015年1月20日現在)。地域別では、アフリカ地域(AFR)、東地中海地域(EMR)、ヨーロッパ地域(EUR)、東南アジア地域(SEAR)では2013年に比べて症例数が減少、逆にアメリカ地域(AMR)、西太平洋地域(WPRO)では増加が見られた(図1b)。本稿では、特にWPRO、EUR、AMRにおける2014年の状況について報告する。

WHO Western Pacific Region (WPRO)における麻疹の流行状況
WPROにおける2013年の麻疹症例報告数は、35,674例であったが、2014年はおよそ3倍の113,944例に増加した1)。特に症例報告の多かった国はフィリピン、中国、次いでベトナムで、この3国でそれぞれWPRO全体の46.8%、44.7%、5.8%を占めた。

フィリピンにおける2013年と2014年の報告数を比較すると、2014年は2013年の約10倍に増加した (5,799例→53,357例)。2014年10月報告の疫学レポート2)を見ると、罹患者のおよそ60%を1歳未満と1~4歳以下の小児が占め、そのうちの約70%がワクチン未接種、残りは接種歴が不明であった。死亡者は102名が報告されている。流行しているウイルスの遺伝子型は、ほぼすべてがB3型で、一部D9型が検出された。

中国における2013年と2014年の症例報告数は27,825例→50,960例で、罹患者の構成を見ると2)、1歳未満、25~39歳がそれぞれ約34%、27%を占めていた。ワクチンの接種歴は、1歳未満の約87%が未接種、残りが1回接種または不明であった。25~39歳では、約16%が未接種、約76%が接種歴不明、残りの約4%が接種歴1回、または2回であった。流行しているウイルスの遺伝子型は、H1型がほぼ99%を占め、B3型、D8型、D9型、G3型が極少数検出されている。死亡者は26名報告されている。

ベトナム における2013年と2014年の症例報告数は1,233例→6,613例で、罹患者の構成をみると2)、1歳未満が約27%、1~4歳が31%、5~9歳が約15%を占めていた。ワクチン接種歴を見ると、1歳未満の約78%、1~4歳の約65%、5~9歳の約50%が未接種であった。死亡者は2名で、流行しているウイルスの遺伝子型は、B3型、D8型、H1型が検出されている。

本邦の状況をみると、2013年、2014年ともに主に海外からの散発的な輸入麻疹が発生し(229例→463例)、B3型、D8型、D9型、H1型のウイルスが検出されている。

WHO Europe Region (EUR)における麻疹の流行状況
EURにおける2013年の麻疹症例報告数は32,818例、2014年は50%減少の15,995例であった3)。EURでは、2010~2013年の4年間、年間平均30,000例の症例報告があり、2014年の報告数は、2009年(報告数7,892例)以来の低い値であった。

大きな流行は、ロシア、グルジア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ウクライナ、イタリア、トルコで発生し、この6カ国でEURの症例報告数の約90%を占めていた。最も大きな流行国はロシアで、2013年と2014年の報告数を比較すると、2,500例→3,205例であった。次いで、グルジア(7,686例→3,152例)、以下ウクライナ(3,308例→2,289例)、ボスニア・ヘルツェゴビナ(5例→2,204例)、イタリア(2,251例→1,656例)、トルコ(7,406例→535例)の順であった1)。また、2014年上半期までの疫学レポートによると4)、EUR全体の罹患者の40%が20歳以上で、ワクチン接種歴を確認できた罹患者のうちの70%がワクチン未接種者であった。以下、罹患者の割合を多い順に見ると、1~4歳が17%、15~19歳が13%、5~9歳が12%、1歳未満が10%、10~14歳が8%であった。分離されたウイルスの遺伝子型は、B3型、D8型、D9型、H1型で、B3型、D8型が主流であった。

WHO Americas Region (AMR)における麻疹の流行状況
2010年に麻疹排除を達成した南北アメリカでは、輸入麻疹の発生が問題となっている。AMRにおける2013年の麻疹症例報告数は464例、2014年は約4倍増の1,848例であった1)。2014年の主な流行は、ブラジル、米国、カナダで発生し、この3カ国で、それぞれ37.2%、34.8%、27.7%を占めていた。2013年と2014年の報告数を比較すると、ブラジルは192例→689例で、2013年3月~2014年3月までの疫学レポート5)によれば、224例の罹患者のうち、49%が1歳未満の小児であった。3月以降は、5歳未満の小児と15~29歳までの青年層がそれぞれ約40%、30%を占めた。流行したウイルスの遺伝子はD8型であった。

米国の2013年、2014年の報告数は188例→644例で、2014年は2013年のおよそ3倍増となった。2014年は23件の流行があり、特に大きな流行は、オハイオ州のアーミッシュの共同体において発生した383例であった。1~4月までのレポート6)によると、罹患者は18州から報告され、90%がワクチン未接種、または接種歴が不明で、年齢層は、20歳以上が52%、5~19歳が25%、1~4歳が17%、1歳未満は6%であった。検出されたウイルスの遺伝子型はB3型、D9型、D8型、H1型で、海外渡航者を介して18カ国から持ち込まれ、B3型については、フィリピンとの関連が明らかになっている。米国では、本年に入ってからもカリフォルニア州のアミューズメントパークからの麻疹流行が問題になっている。

カナダ における2013年、2014年の症例数は83例→512例で、2014年は、2013年のおよそ6倍増であった。1~5月までのレポートでは、103例の症例が報告され、うち21例が6カ国からの輸入麻疹であることが明らかになった7)。その内訳は、フィリピン(15例)、インド(2例)、米国、タイ、パキスタン、イタリア/オランダ(各1例)であった。

WHOでは2015年末までに、1)全世界の麻疹死亡者数を2000年比で95%減少させること、2)地域規模で麻疹、風疹/先天性風疹症候群の排除をすること、さらに2020年までにWHO 6地域のうち5地域以上からの麻疹、風疹排除を目標としている。しかし、人の流動が著しい国際社会となった今日、麻疹排除達成国やそれに近い状態にある国では、流行国からの輸入麻疹が問題となっている。麻疹排除達成、維持には、今後もすべての国における積極的な麻疹対策の推進、維持が鍵となる。

 
参考文献
  1. WHO, Measles Surveillance Data
    http://www.who.int/immunization/monitoring_surveillance/burden/vpd/surveillance_type/active/measles_monthlydata/en/
  2. WHO Western Pacific Region, Country Profile-Measles Elimination
     http://www.wpro.who.int/immunization/documents/measles_regional_country_profile_archive/en/
  3. WHO Region Office for Europe, Measles incidence drops in Europe, but transmission continues, Feb 2015
    http://www.euro.who.int/en/health-topics/communicable-diseases/measles-and-rubella/news/news/2015/02/measles-incidence-drops-in-europe,-but-transmission-continues
  4. WHO Region Office for Europe, WHO EpiBrief 2014 (3)
    http://www.euro.who.int/en/health-topics/communicable-diseases/measles-and-rubella/publications/who-epibrief-and-who-epidata/latest-who-epibrief
  5. WHO Pan American Health Organization, Epidemiolo-gical Alert-Measles outbreaks and implications for the Americas, Feb 2015
    http://www.paho.org/hq/index.php?option=com_docman&task=doc_view&gid=29015+&Itemid=999999&lang=en
  6. CDC, Measles-United States, January 1-May 23, 2014, MMWR 63(22): 496-499
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6322a4.htm
  7. Public Health Agency of Canada, Communicable Disease Report CCDR Vol. 40-12, June 12, 2014
    http://www.phac-aspc.gc.ca/publicat/ccdr-rmtc/14vol40/dr-rm40-12/dr-rm40-12-rc-cr-eng.php


国立感染症研究所ウイルス第三部 
  染谷健二 駒瀬勝啓 竹田 誠

 

 

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