国立感染症研究所

IASR-logo

日本のHIV検査体制の充実にHIV検査体制研究班が果たした役割

(IASR Vol. 36 p. 167-168: 2015年9月号)

日本におけるHIV検査は、1987年から全国の保健所において有料匿名検査として始まり、保健所で検査受付と結果説明を、地方衛生研究所(地衛研)で検査を実施し、1993年4月から無料化され、現在に至っている。

保健所等での検査数は1992年に13万件を超えたが、その後減少し続け1997年には46,237件まで落ち込んだ。しかし、エイズ発生動向委員会によるHIV/AIDS報告数は増加し続け、保健所等でのHIV検査体制の強化が重要な課題となり、2000年に厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業においてHIV検査体制に関する研究がスタートした。本研究班では各自治体の関連機関等と協力し、検査システムや検査法等の改善を重ね、検査体制の強化に努めてきたが、2014年度を持って終了することとなった。15年間にわたり研究班が果たした役割および成果の一部を紹介する。

公的検査施設でのHIV検査体制の充実1, 2)
保健所等HIV匿名検査は保健所と各自治体が開設している特設検査所で実施されている。HIV感染者報告数に占める公的検査施設で確認される陽性数の割合は、1996年以前は20%に満たなかったが、研究班が立ち上がった2000年から増加し、2004年以降40%を超え、2014年は45%(490人)であった(図1)。

施設別検査数の年次推移を見てみると、保健所での検査数は2008年のピーク時には146,880件であったが、2009年の新型インフルエンザ大流行等の影響により減少し2010年には103,007件(30%減)まで落ち込んだが、2014年は若干増加した(111,743件、2008年比24%減)。一方、特設検査所では2008年のピーク時(30,276件)に比べ2010年には保健所検査と同様に減少(27,923件、7.8%減)したが、その減少率は小さく、2014年には再び増加(33,305件、10%増)に転じた(図2)。

公的検査施設全体での陽性率は1997年には0.19%であったが、2002年には0.37%に上昇し、検査数の最も多かった2008年には0.28%とやや下がったが、その後0.35%前後で推移している。2006~2014年の全国保健所等HIV検査アンケート調査(回収率100~78%)によると、保健所での陽性率は毎年ほぼ0.25%で推移していたが、特設検査所では2006年が0.88%で最も高く、その後やや下がったものの2014年は0.61%で、保健所での陽性率の2~3倍高となっている(図2)。

特設検査所は利便性の良い場所に設置され、土日や夜間に検査を実施しているところが多く、保健所に比べ受検者が利用しやすいものと考えられる。特設検査所は2014年末現在で23カ所開設されているが、今後も施設数や検査実施日程を増やす等、さらに充実させていくことが望まれる。

民間クリニックを利用したHIV検査体制の可能性の検討1, 2)
首都圏を中心とする感染者の多い地域で、主として男性性感染症(STI)クリニックに即日検査を導入し、陽性検体について精査した。協力クリニック数の増加とともに検査数は増加したが、2008年以降は保健所検査数の推移とほぼ同様の傾向をたどった。しかし、同時期の陽性数は年間100人程度、陽性率は0.50~0.68%で推移し、特設検査所の陽性率に匹敵しており、リスクの高い集団に利用されていると考えられる(図3)。また、2008年4月以降の即日検査陽性、遺伝子検査陽性の607件のうち、ウエスタンブロット法陰性あるいは判定保留が49件(8.1%)あり、STIクリニックでの検査システムは感染初期例の発見に効果的であった。

ほとんどが保険適用外の有料検査であるにもかかわらず、ここ数年毎年約17,000人が利用しており、男性STIクリニックにおける検査はHIV感染者の早期発見・治療に有効であると考えられた。

地衛研等におけるHIV診断技術の維持・向上1~3)
地衛研でのHIV検査診断体制を整備するため、1990年にHIV検査技術研修会が始まり、以来2014年まで計25回開催された。2000年ごろからは検査体制班と薬剤耐性班が主体で開催し、地衛研とエイズ拠点病院の検査担当者を対象に基礎ウイルス学から診断に必要な抗体検査や遺伝子検査等について研修を行い、日本のHIV診断技術の維持・向上の一翼を担ってきた。また、研究班では感染初期の判定に有効な遺伝子検査法(KK-TaqMan)を開発し、地衛研へ技術移管を行った結果、本法は2014年末現在、約30%の地衛研で実施されている。

今後の展望 
新規HIV感染者報告数は2008年をピークとして、年間1,000人を超える高止まり状態が続いている。しかし、保健所等公的施設での陽性率は検査数の増減にもかかわらず、2002年以降ほとんど変わらず0.35%程度で、STIクリニックでの陽性率は0.48~0.68%で推移しており、新規感染者が減少しているとは考えにくい。国や自治体でのHIV検査関連予算が削減されていく中、公的検査施設だけでなく民間クリニックの検査も視野に入れた体制を考えていく必要がある。感染拡大を防ぐためには、今後より一層の検査体制の充実が求められている。

 

参考文献
  1. 加藤真吾, 他, 「HIV検査相談体制の充実と活用に関する研究」総合研究報告書(平成21~23年度)
  2. 加藤真吾, 他, 「HIV検査相談体制の充実と利用機会の促進に関する研究」総合研究報告書(平成24~26年度)
  3. 杉浦 亙, IASR 34: 256-257, 2013

神奈川県衛生研究所微生物部   近藤真規子 佐野貴子
田園調布学園大学人間福祉学部   今井光信
慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室   加藤真吾

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version