国立感染症研究所

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沖縄県のHIV/AIDS動向と対策、課題について

(IASR Vol. 36 p. 168-169: 2015年9月号)

1.HIV感染者とAIDS患者の動向
沖縄県では血液凝固因子製剤により感染したAIDS患者が1986年に1)、異性間性的接触感染による患者が1987年に、同性間性的接触感染による患者は1988年に2)、それぞれ初めて確認された。1992年には水平感染と垂直感染が家族内で確認された3)。以後、2014年末までにHIV感染者187名、AIDS患者103名が累計で報告されている。合計290名のうち270名(93%)が男性で、192名(66%)が男性同性間の性的接触感染であった。

沖縄県における新規のHIV感染者数とAIDS患者数の年次推移(診断日基準)をに示す。HIV感染者・AIDS患者ともに1999年頃から徐々に増加している。HIV感染者は2007年にピークを迎えた後、減少に転じていたが、2010年から再び増加しつつある。AIDS患者は2010年までは年間10名未満で推移していたが、2011年以降は年間10名を超えることが多くなっている。

両者を合わせた総数は2007年の32名をピークに減少傾向にあったが、2010年に増加に転じ、2014年には33名と、2007年を超えた。このように沖縄県のHIV/AIDS動向は流行に歯止めがかかっているとは言い難い状況にある4)

2.沖縄県のHIV/AIDS対策
年間の報告数が10名を超えるようになった2003年以降、沖縄県では県内6保健所を中心に予防啓発活動に取り組んできた。たとえば世界エイズデーを中心とした県民向け予防啓発イベント開催などである。また、2005年度から即日検査を全保健所に、2007年度からは夜間検査を2保健所に導入した。各保健所には医師を含む複数名による相談・検査体制を整備した。

これらの予防啓発活動や検査体制強化により、県内保健所における2006年のHIV抗体検査数は2,547件と人口当たり全国1位となった5)。2014年も2,899件と全国1位である。2013年度に中核市となった那覇市の保健所における2014年度のHIV抗体検査陽性率は0.63%(10/1,599)で、全国平均0.26%(2013年度:291/112,755)6)よりも高い。

3.今後の課題
動向の項にあるように流行に歯止めがかかっているとは言い難い。特に人口当たりの新規AIDS患者数は、ここ数年上位に位置し、2011年と2014年は全国1位である7,8)。一時14.6%まで減少した5)、いきなりエイズ率「新規AIDS患者数/(新規HIV感染者数+新規AIDS患者数)」も、2011年以降は33.3~45.8%と高い水準で推移している。今後、早期発見・早期治療への取り組みを、より一層強化する必要がある。そのためにはHIV感染リスク所有者が積極的に申告しやすい環境整備が重要である。県都である那覇市は、2015年7月19日に「性の多様性を尊重する都市・なは」宣言(レインボーなは宣言)を行った。

さらに、他科受診困難問題と高齢化問題がある。前者について、今回は触れない。後者については、これまでの感染者がすべて存命しているとして、2015年に65歳以上となる方が21名。このうち1名は75歳を迎える。既に合併症による高度脳障害により寝たきりを余儀なくされているHIV感染者が存在している。このような方を受け入れてくれる介護施設が現れるのに、1年以上かかってしまう現状がある。今後、高齢HIV感染者の介護問題がより深刻化するものと思われる。沖縄県では陽性者受け入れについて介護施設向けに講習会を開催してきたが、今後も丁寧な講習等により施設側の理解を深めていく必要がある。

 
参考文献
  1. 新里 脩, 他, 臨床血液 30(3): 343-348, 1989
  2. 仲宗根 正, 他, 日本臨床免疫学会雑誌14(2): 216-223, 1991
  3. Sato H, et al., J Virol 73(5): 3551-3559, 1999
  4. 沖縄県感染症情報センター  
    http://www.idsc-okinawa.jp/HIVAIDS.html
  5. 糸数 公, 保健医療科学 56(3): 250-252, 2007
  6. 平成25年度地域保健・健康増進事業報告の概要
    http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/c-hoken/13/index.html
  7. 平成23(2011)年エイズ発生動向-概要, 厚生労働省エイズ動向委員会
    http://api-net.jfap.or.jp/status/2011/11nenpo/nenpo_menu.htm
  8. 平成26(2014)年エイズ発生動向-概要, 厚生労働省エイズ動向委員会
    http://api-net.jfap.or.jp/status/2014/14nenpo/14nenpo_menu.html


那覇市保健所
   仲宗根 正 安藤美恵 速水貴弘 金城早紀 砂川昌太 天願美由紀 東 朝幸
沖縄県保健医療部健康長寿課
   平良勝也 山内美幸 糸数 公

 

 

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