IASR-logo

平成26年度感染症流行予測調査事業ポリオ環境水調査にて検出されたウイルスについて

(IASR Vol. 37 p. 27-29: 2016年2月号)

1960年代初頭より定期接種用ワクチンとして用いられてきた経口弱毒生ポリオワクチンは2012年9月より不活化ポリオワクチンに切り替わった。環境水サーベイランスは、従来から一部の地方衛生研究所(地衛研)の調査研究で行われてきたが、不活化ポリオワクチンに切り替わったのち、平成25(2013)年度より感染症流行予測調査事業ポリオ感染源調査として新たに開始することとなった。また、同時期に予防接種法が改正され、事業自体が法的に位置付けられた。本調査の目的は輸入が想定されるポリオウイルスについて、流入下水を検査材料として効率よく監視することである。

初年度は8地衛研が事業として、5地衛研が調査研究として実施したところ、ポリオウイルスは検出されなかった1)

平成26(2014)年度は事業として14カ所、調査研究5カ所の計19カ所で調査を実施した。19カ所の下水利用人口は、延べ約500万人である。本調査はポリオウイルスの有無を調べるものだが、①ポリオ以外のウイルス、②調査対象期間外(ポリオ環境水調査事業は通知発出後6カ月を想定)、に関しては各自治体独自の調査研究である。今般、副次的に検出されたエンテロウイルスについて調査の概要を報告する。なお、アデノウイルス等他の腸管系ウイルスの検出結果については示していない。

方 法
国内19カ所の地衛研の協力を得て、主に平成25年度末(2014年1月)~2014年12月の間、月1回の頻度で流入下水を採取した。なお、調査期間は各地衛研で異なっており、調査結果とともに表に示している。平成25年度感染症流行予測調査事業実施要領2)に基づき、昨年度IASR報告1)と同様、流入下水を濃縮(50~100倍)し、ウイルス分離・同定を行った。

結果と考察
2014年10月1日に採水した下水濃縮物より3型ポリオウイルス株が分離された。分離株は実施要領に基づき国立感染症研究所(感染研)ウイルス第二部に送付され、型内鑑別の結果、ワクチン株(Sabin 3)であることが確認された。なお、検出された当該地域では、翌11月、12月とも連続して、ポリオウイルスは検出されなかった。さらに感染症発生動向調査事業により収集された臨床検体のうち、無菌性髄膜炎など神経症状を呈する患者由来陰性検体を過去2カ月分、詳細に再検査を実施したが陰性であった。また、ポリオウイルス検出は国内1カ所のみであったため、下水におけるウイルス検出は一過性のものであると推察された()。

本報告では流行予測調査期間外のエンテロウイルス検出状況も示している()。各地衛研で調査期間が異なるが、検出されたウイルスの多くはエンテロウイルスB群(EV-B)に属していた。一部EV-A、あるいはEV-Cに属するウイルスも検出されている。B群に属するエコーウイルス11(E11)は19カ所のうち18カ所、コクサッキーウイルスB5(CB5)は11カ所で検出された。これらのウイルスは広域に流行していた可能性を示唆する。また、E11、CB5を含め、2カ月以上環境水から検出されているウイルス種もあり(       で示した)、これらは地域内伝播していた可能性を示唆する。

環境水サーベイランスと同時期の感染症発生動向調査事業で検出されたエンテロウイルスを比較すると、EV-B群に属する分離株の多くは一致しているが、本調査期間中E19、E24、E29、Sabin 3は環境水でのみ検出できている。これは、サーベイランス対象の違い、つまり環境水サーベイランスは下水利用人口、即ち全年齢層を対象とし、顕性、不顕性にかかわらず検出すること、発生動向調査は自治体の全域を対象とするが、小児科定点で捕捉できる年齢層の病原体情報であること、等の要因が考えられる。

わが国では2012年10月以降、ポリオウイルスは患者、環境水とも検出されなかった。2014年10月採水時の検査で2年ぶりに環境水より3型ワクチン株が検出され、本法の有用性が確認された。このように環境水調査、発生動向調査ともそれぞれの特徴があり、両者を組み合わせることで感度の高いポリオウイルスを含む腸管系ウイルス監視が可能である。

謝辞:調査にあたり関係自治体、保健所、下水処理場のご協力をいただいている。厚くお礼申し上げる。本報告は厚生労働科学研究費補助金による支援を受けた。


参考文献
  1. IASR 35: 275-276, 2014
  2. 平成25年度感染症流行予測調査事業実施要領
    http://www.niid.go.jp/niid/images/epi/yosoku/AnnReport/2013-99.pdf


安藤克幸(佐賀県衛薬セ)、伊藤 雅(愛知県衛研)、伊東愛梨(宮崎県衛環研)、
内野清子、岡山文香(堺市衛研)、内山友里恵(長野県環保研)、小澤広規(横浜市衛研)、
北川和寛(福島県衛研)、葛口 剛(岐阜県保環研)、後藤明子(北海道衛研)、
下野尚悦(和歌山県環衛研セ)、神保達也(浜松市保環研)、高橋雅輝(岩手県環保研セ)、
滝澤剛則(富山県衛研)、筒井理華(青森県環保セ)、中野 守(奈良県保研セ)、
濱﨑光宏(福岡県保環研)、堀田千恵美(千葉県衛研)、松岡保博(岡山県環保セ)、
山崎謙治、中田恵子(大阪府公衛研)、吉田 弘(感染研)

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan