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外国人観光客を発端とした麻しんアウトブレイクの行政対応―沖縄県

(IASR Vol. 40 p53-54: 2019年4月号)

2018年3月20日, 沖縄県で4年ぶりとなる麻しんが確認された。患者は外国人観光客で, 麻しんを発症し感染力のある状態で3日間にわたり沖縄本島内を観光したため, 感染者は県内全土に広がり, 101人が報告された1,2)。さらに, 県内で感染した者が県外で発症し, 東京都, 神奈川県で各1名, 愛知県では本流行に関連した麻しん患者が21名確認された3)。以下にその行政対応の概要について報告する。

患者の発生動向

初発患者は30代男性で, 3月14日より発熱などの症状があったが, 3月17日から観光旅行のため沖縄を訪れ, 沖縄本島内各地を観光し不特定多数の人と接触した。その後3月19日に高熱と発疹が出現したため, 救急医療機関を受診し麻しん疑いで入院となった。翌日, 医療機関は, 保健所へ麻しん疑いで届出を行い, 衛生環境研究所で遺伝子検査を実施したところ, 麻しん陽性が確認された。

翌週から2週間後にかけて二次感染者が29名発症した。そのうち27名(93%)が予防接種歴が無いか不明の者で, 24名(83%)が商業施設で感染, さらに5名(17%)は店員であった。3週目以降, 感染は県内全域に拡大し, 初発患者が確認されてから6月11日に終息が確認されるまでに12週間を要した。

感染者の特徴・症状

患者の年齢層は20~40代が全体の70%を占め, また, 予防接種歴無しおよび不明者が全体の64%であった。職業別では, 接客業の感染者の割合が19%で最も高く, 不特定多数の観光客と接する機会が多い接客業等も感染リスクが高いことが示された。

感染症法に基づく届出基準に定められる3主徴を認める典型麻しん例が71%, いずれかの症状を欠く修飾麻しん例が29%であった。感染源となったことが推察された症例が14例確認されたが, ワクチン接種歴のある患者からの感染拡大は確認されなかった()。

積極的疫学調査・検査

短期間で多くの感染者が報告されたため, 接触者の調査範囲は, 患者症状や予防接種歴等により一部縮小を余儀なくされ, 医療機関や患者関連施設の協力を得ながら接触者の行動自粛依頼や健康観察を行った。さらに医療機関から保健所までの検体搬送については, 一部医師会検査センターにもご協力いただいた。なお, 流行期間中の健康観察対象者は5,579名であった。

沖縄県では, 国が示した各種ガイドラインとは別に県が独自に定める「沖縄県麻しん全数把握実施要領」に基づき, 感染症法における医師の届出基準にかかわらず, 医師が麻しんを疑う場合は, 「疑い症例」として保健所へ届出を行い全症例遺伝子検査を実施している。衛生環境研究所では, 麻しん疑い例584例のうち578例の遺伝子検査を実施し95例が陽性であった。なお, 101名の麻しん患者のうち4例は医療機関にてIgMで検査診断, 2例は臨床診断例であった。

感受性者対策

4月2日, 沖縄県はしか0プロジェクト委員会において危機管理最高レベルの「レベル3」が決定された。「沖縄県麻しん発生時対策ガイドライン」等に基づき, 県は, 麻しん抗体を持たない年齢層である6か月~12か月未満の乳児の感染予防および重症化対策として, 市町村が同月齢乳児に対し, 4月~6月末までに任意予防接種を公費負担にて実施する場合, その費用の半額を県が負担することを決定した。その後, 県内すべての市町村において同月齢乳児に対する予防接種の補助が決定された。対象者11,816人のうち8,062人(68%)が麻しん含有ワクチンを接種した。なお, 予防接種法施行規則第5条に基づく麻しん風しん混合(MR)ワクチンに関連した副反応報告はなかった。最終的な1歳未満の患者数は4名(4%)で, いずれもワクチン未接種者であった。

4月3日以降は, 厚生労働省および沖縄県医薬品卸業協会の協力により, MRワクチンの在庫等について週1回のモニタリングを開始した。4月2日時点のワクチンの在庫数は, 2,331本であったが, 4月16日に約19,000本に増加し, その後, 7月2日のモニタリング終了時点まで安定して在庫が確保された。

情報提供

3月23日に初発患者の発生および患者行動歴を公表し, 4月4日からは二次感染者の状況やその行動歴を公開し, 患者発生状況一覧等の情報をホームページに掲載し, 県民に対し注意喚起を行った。また, 国立感染症研究所や県内の医師等の協力により各種Q&A(医療機関, 県民, 旅行者および予防接種担当者向け)を作成し, ホームページに掲載した。ワクチン接種が可能な医療機関のリストは県医師会のホームページに掲載していただいた。保健所および医療機関へはほぼ毎日, 患者発生状況に加えて検査の状況等の詳細な情報を取り扱い注意にて提供した。また, マスコミに対しては, 保健衛生統括監により毎日, 記者ブリーフィングを実施し, 県民に対し正確な情報提供を行った。

課 題

観光をリーディング産業とする本県は, 年間958万人の観光客が来県し, そのうち269万人は主にアジアからの外国人である。今回の事例では, 観光客が麻しんを持ち込んだ場合, 二次感染の規模が大きく, 短時間で広域に拡大することが示された。さらに経済的にも影響を与え, その直接的経済損失は約4.2億円と試算された。外国人観光客患者への対応については, インバウンド医療通訳コールセンター事業の継続や, 調査票の多言語化, 行動自粛期間中の宿泊サポート等, 観光部局との連携が必要である。また, 今回の流行では, 保健所の管轄ごとに様々な流行状況を呈したことから, 積極的疫学調査や検査については, 管轄ごとに随時リスク評価を行い, 調査範囲や検査方針等について柔軟に対応することも必要であると考えられた。今回の経験を踏まえ, 現在, 県ガイドラインの改正を進めている。一方, 感受性者対策については, 東京オリンピック等を控え, さらなる外国人観光客増加に伴う麻しん対策として, 県では, 2019年度より3年間の期間限定で成人に対する麻しん抗体検査およびワクチン接種補助事業を計画している。

謝辞:麻しん対策にご尽力いただきました県内各保健所および衛生環境研究所各位, 多大なる支援を賜りました国立感染症研究所の砂川富正先生, 神谷元先生, ならびに市町村の予防接種担当, 沖縄県はしか0プロジェクト委員会, 県・各地区医師会, 県内の医療機関, 沖縄県医薬品卸業協会および県観光振興課の各関係者に感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. 沖縄県における外国人観光客を発端とした麻しん集団発生と終息に向けた行政対応
    https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kenko/kenko/yakubutsu/toukei.html
  2. 沖縄県における麻しん発生状況
    https://www.pref.okinawa.jp/site/hoken/eiken/kikaku/kansenjouhou/documents/list_180611.pdf
  3. 麻しん(はしか)患者の感染拡大の終息について
    https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kenkotaisaku/measles-syusoku.html

 

沖縄県保健医療部地域保健課
 久髙 潤 仁平 稔 川上佳乃 山川宗貞
沖縄県保健医療部保健衛生統括監 糸数 公
沖縄県保健医療部薬務疾病対策課 新城光雄
沖縄県衛生環境研究所 伊波善之 山内美幸

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