国立感染症研究所

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ヒトレトロウイルス学共同研究センターの設立について

(IASR Vol. 40 p172-173:2019年10月号)

熊本大学エイズ学研究センターは, 令和という新たな時代が始まったのとほぼ同じ2019年4月1日より, 「ヒトレトロウイルス学共同研究センター」へと改組しました。名前の中に「共同」とあるのは, 学内の共同施設という意味ではなく, 鹿児島大学の難治ウイルス病態制御研究センターと熊本大学エイズ学研究センターを統合・再編して設立したことを表しています。2つの国立大学がその枠を越えて1つの研究センターを設置するというのは全国初の試みであり, そのことから, センターの正式な英語名称も, Joint Research Center for Human Retrovirus Infection, Kumamoto and Kagoshima Universitiesと, 最後の大学名の部分を複数形Universitiesとしています。

設立の経緯

熊本大学エイズ学研究センターは1997年に日本の大学では初めてのHIV-1・AIDS研究に特化したセンターとして設立されました。その少し前の1993年に鹿児島大学に, 成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)の研究を中心とした, 難治ウイルス病態制御研究センターが設立されました。熊本大学ではワクチン開発を目指した免疫研究やHIV-1の潜伏感染に関する研究, 鹿児島大学では抗ウイルス薬剤の開発研究やHTLV-1関連病態の研究などが進んできました。ただ, 2つのセンターはともに小規模であり, そのため, 教員をタイムリーに採用していくことや, 長期的な視野に立って若手の人材をリクルートすることなどが難しい状況にありました。同じような問題は恐らく, 多くの地方大学の研究センターが抱えており, そしてそれはセンター同士が「連携」するだけでは解決できないものです。ただ幸運なことに, 2つのセンターは研究の分野や方向性が非常に近く, 他方では, 研究の強みがそれぞれ異なるという特徴があり, センター間は新幹線で1時間程度と非常に近いという, 現実的なメリットもありました。そこで初代センター長(馬場昌範)の発案をきっかけとし, 教員間で何度も議論を重ね, 2つのセンターを統合・再編するとともに, 教員の採用を含めて運営を一体化することを選択しました。両センターの教員が中心となって約1年をかけて文部科学省と詳細について協議し, 今回の設立に至っています。

センターの設立理念

本センターは, 「世界的課題である, 排除困難・潜伏感染するレトロウイルス感染症の克服のため, 限られた両センターの資源を有効活用し, 感染病態の基礎研究を基に, 感染予防と治癒を目指した世界的な研究・教育を推進する」ことを設立の基本理念としています。具体的には, 母体となった2つのセンターの研究成果や現状での必要性から, HIV-1とHTLV-1と言う2つの難治性ヒトレトロウイルスに, 逆転写酵素を持ち, 同じく難治性のB型肝炎ウイルス(HBV)を加えた3つのウイルス感染症の克服に向け, 新規感染の予防と感染者の治癒を軸にした研究教育拠点の構築を推進します。そのための一つとして, 熊本キャンパス, 鹿児島キャンパスにかかわらず, 教員, 特に研究室主宰者の採用においては, 両方のキャンパスの教員が選考に参画するという, センターとして戦略的に教員を配置する新たな仕組みを導入して, 現在, 実際に選考を進めています。

部門・分野構成

本センターは大きく, 3つの統合・再編部門と2つの新設部門から構成されています()。感染予防部門ではワクチンの開発につながる研究, 治療研究部門では抗ウイルス薬剤に関する研究, 病態制御部門では関連病態や潜伏感染に関する研究を進めています。新設したトランスレーショナルリサーチ部門では創薬のプロセスを俯瞰できる人材を育成し, 同じく新設の国際先端研究部門では, 海外研究拠点をもとに国際共同研究を強化するとともに, 統合・再編部門の次世代を中核的に担う研究者を育成します。

終わりに

これまで熊本大学の旧エイズ学研究センターは研究と教育の両面において, 国立感染症研究所エイズ研究センターと強い連携関係を築いてきております。共同センター移行後はより大きなネットワークへと強化でき, AIDS研究分野でさらなる貢献ができると期待しています。そのために日々, 努力して参ります。ご支援と同時に厳しいご指導を頂ければ幸いです。

 
 
ヒトレトロウイルス学共同研究センター
熊本キャンパス 感染・造血分野
 鈴 伸也

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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