国立感染症研究所

IASR-logo

国際協力機構 国際緊急援助隊感染症対策チーム サモア独立国麻疹アウトブレイク緊急医療支援の活動報告

(IASR Vol. 41 p61-63: 2020年4月号)

サモアの麻疹アウトブレイク発生からチーム派遣に至る経緯

サモア独立国は, 南太平洋のポリネシアにあるウポル島を中心とした人口規模はおよそ20万人の島嶼国である1)。サモアの麻疹予防接種率は世界保健機関(World Health Organization: WHO)の報告によると, 第1期, 第2期ともに60-90%程度で推移していたが, 近年低下傾向にあり, 2018年は第1期40%, 第2期28%と感染拡大阻止の集団免疫の目安である89-94%を大幅に下回っていた2,3)

2019年9月, サモア独立国で麻疹が発生, サモア独立国政府は11月17日に緊急事態宣言を発令し, 予防接種義務化, 18歳未満の医療施設, 公共の集会への制限, 学校休校措置をとった。11月16日, WHOが緊急医療チーム派遣の要請を各国に対して発出したが, 2019年11月22日罹患者数は1,644名, 麻疹関連死者数は20名となった4)。すでに緊急医療支援を始めていた豪州, ニュージーランドに加え, 国連, 英国等が医療支援を開始する中, サモア独立国政府から日本政府に対して緊急医療チーム派遣の要請が接到した。11月29日, 日本政府は国際協力機構 国際緊急援助隊(Japan Disaster Relief: JDR)・感染症対策チームを派遣することを決定し, 12月2日筆者を含めた緊急医療支援チームが現地に向けて出発した5)

現地の麻疹の流行状況

WHOの2019年11月29日の公表によると, 現地の感染状況は以下の通りであった6)。“As of November 28, the MoH confirms a total of 2,936 cases with 250 new cases reported within the last 24 hours. Of the 39 recorded deaths 90% (35), are children aged below five years. Of the 190 measles cases requiring hospitalization 82% have been admitted and currently hospitalised in Tupua Tamasese Meaole Hospital (TTMH). Twenty-one children are critically ill in the Intensive Care Unit (ICU).”

チームの活動:診療活動内容, 重症例のマネジメント

今回の活動では, 麻疹症例は合併症の有無で2つに分類した。合併症の無い麻疹症例は主として外来対応可能とし, 合併症を有する以下のような症例は入院適応とした(経口摂取不良や脱水のため入院が必要な病態, クループ, 肺炎, 膿胸, 気胸, 敗血症などによる重症感染症や呼吸不全を呈する病態)。

重症例の多くは5歳未満の患児で, TTMHのICUに入院したが, 入室時から血液培養陽性となる敗血症, 耐性菌による膿胸などの症例が多かった。胸腔ドレーン留置が必要な膿胸や気胸の症例に対しては, 抗菌薬治療を選択し, 画像評価やドレーン管理について現地の小児科医を支援する形で診療にあたった。診療例として2歳男児, 両側気胸/膿胸合併症例(図1-A, B), 1歳男児, 左側気胸/膿胸合併症例(図1-C, D), 7歳女児左壊死性肺炎, 巨大肺胞性嚢胞(図1-E, F)などがみられた。これ以外にも多数の下気道合併症症例の診療にあたった。敗血症や膿胸の起炎菌としては, methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA), 緑膿菌などさまざまな菌が培養同定された。

麻疹感染に伴う免疫修飾はさまざま報告されているが3), こうした免疫修飾を背景として発症すると思われる二次感染による重症下気道感染症については, 高所得国においての報告は乏しく7), 肺炎の合併症率は1-6%8)であった。しかし, 低中所得国における流行時には, 限られた医療資源や地域社会における医療リテラシーの程度を把握(あるいは理解)した上で, 重症化の可能性も考慮した対応が必要となりうる。

島嶼沿岸部には小規模の郡病院(有床・無床診療所相当の医療レベル)があり, 日本チームはLeulumoega District Hospital(LLM)という郡病院を中心に麻疹診療支援を行った。2019年12月6日時点でのLLMの入院患者数は22人, 外来患者数は1日30-40人程であった。診療内容は, 5か月, 11か月など乳児の麻疹患児多数の診察, 治療, クループ症状のある麻疹患児にエピネフリン吸入後に入院加療, 21歳麻疹罹患産婦の正常分娩・新生児診察, 新生児へのB型肝炎ワクチン接種などであった。また, 伝統治療を受けている2か月男児が麻疹+クループ症状で受診し, 入院後に離院した症例があり, 地域住民の医療リテラシーについての認識も重要であった。

チームの活動:公衆衛生的観点から, 現地保健省や海外チームとの関係

日本チームが活動開始した時点で各国の緊急医療チーム(Emergency Medical Team; EMT)は豪州, ニュージーランド, 英国が主体であった。各国EMTチームの陣容は小児科(感染症科, ICU)を中心とした医師, 看護師, 物流担当者等10-20名程度で構成され, サモア国内唯一の急性期病院であるTTMHで診療支援活動を展開していた。TTMHの全科合わせた病床数は200床であったため, 麻疹の隔離病床を院内だけでは対応できなかったことから, 豪州EMTチームは病院敷地内にテントを設営して, ICU診療を行った。短期間で入れ替わるEMTチームや国ごとの診療スタンスの違いによる医療過誤を防ぐために, 完全に混成したスタッフで病棟運営を行うのではなく, 各国EMTチームがそれぞれの担当病棟を決めて診療に当たっていた(図2)。

日本チームの医療スタッフは当初医師1名, 看護師1名であり, 各国EMTと同等にTTMHで病棟運営を行うことは困難であった。このため, 現地保健省やWHOを中心としたEMTコーディネーション会議等で迅速な役割調整を図り, 重症例の感染症診療, 呼吸器診療の支援を行った。また, 後発隊のLLMにおける診療支援のコーディネートも行った。各国EMTチームが有機的に現地での診療支援を行うために, 公衆衛生的見地で臨機応変に意思決定を行う機能が求められていた。

LLMでは麻疹患者を隔離して診療するため, 非麻疹患者(発熱性疾患, 外傷, 生活習慣病など)は近隣の診療所で診療を分担する体制とした。麻疹患者数増加に伴って, こうした非麻疹患者のケアを行うための人材確保が困難となり, 地域医療体制の堅持も重要な課題であった。

アウトブレイクのその後と活動の振りかえり

今回JDR・感染症対策チームとして初の感染症診療支援を経験した。各国EMTの構成や活動内容を鑑みると, 今後日本の感染症対策チームの人材バンクをさらに充実させ, 緊急時の対応ができる体制を構築することが重要な課題であると考えられた。また, 今回の診療支援において, 麻疹以外の疾患への診療支援に対して現地医療からのニーズがあったことから, ひとつの感染症アウトブレイクで地域医療システム全体へ多大な影響が生じることが認識された。こうした, 公衆衛生的観点からも活動の意義や方法論を検討していく必要性があると考えられた。

 

参考文献
  1. 2016年サモア独立共和国国勢調査 Samoa Bureau of Statistics, Population and Housing Census 2016
    https://www.sbs.gov.ws(閲覧2020/02/20)
  2. Samoa: WHO and UNICEF estimates of immunization coverage: 2018 revision
    https://www.who.int/immunization/monitoring_surveillance/data/wsm.pdf(閲覧2020/02/20)
  3. Moss WJ, Measles, Lancet: 390(10111): 2490-2502, 2017
  4. WHO/UNICEF SECRETARIAT SUPPORTING MEASLES OUTBREAK PREPAREDNESS AND RESPONSE IN THE PACIFIC. No.1 2019/11/22
    https://www.who.int/docs/default-source/wpro---documents/dps/outbreaks-and-emergencies/measles-2019/measles-pacific-sitrep-20191122-docx.pdf(閲覧2020/02/20)
  5. サモア独立国における麻しんの流行に対する国際緊急援助隊・感染症対策チームの派遣, 2019/11/29外務省報道発表
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008081.html(閲覧2020/02/20)
  6. WHO/UNICEF SECRETARIAT SUPPORTING MEASLES OUTBREAK PREPAREDNESS AND RESPONSE IN THE PACIFIC, No3 2019/11/29
    https://www.who.int/docs/default-source/wpro---documents/dps/outbreaks-and-emergencies/measles-2019/measles-pacific-sitrep-20191129- docx.pdf(閲覧2020/02/20)
  7. Loukides S, et al., Eur Respir J 13(2): 356-360, 1999
  8. Strebel PM, et al., N Engl J Med :381(4): 349-357, 2019
 
 
長崎大学病院総合診療科        
 山梨啓友              
長崎大学熱帯医学研究所臨床感染症学分野
 山内桃子              
長崎大学病院感染症制御教育センター  
 田中健之

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version