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腸管出血性大腸菌感染症における溶血性尿毒症症候群, 2019年

(IASR Vol. 41 p73: 2020年5月号)

溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)は腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の重篤な合併症の一つである。感染症発生動向調査で2019年に報告されたEHEC感染症のHUS発症例に関してまとめを報告する。

HUS発生状況

感染症発生動向調査に基づくEHEC感染症の報告数(2020年3月30日現在, 以下暫定値)は, 2019年〔診断週が2019年第1~52週(2018年12月31日~2019年12月29日)〕が3,744例(うち有症状者2,511例:67%)で, そのうちHUSの記載があった報告は78例であった。性別は男性24例, 女性54例で女性が多かった(1:2.25)。年齢は中央値が8歳(範囲:0~87歳)で, 年齢群別では0~4歳が24例(31%)で最も多かった。有症状者に占めるHUS発症例の割合は全体で3.1%, 年齢群別では0~4歳が6.0%で最も高く, 次いで5~9歳が5.9%, 10~14歳が4.5%の順であった()。

EHEC診断方法と分離菌およびO抗原凝集抗体

診断方法は, 菌の分離が45例(58%), 患者血清によるO抗原凝集抗体の検出が31例(40%), 便からのVero毒素(VT)検出が2例(3%)であった()。

菌が分離された45例の血清群と毒素型は, 血清群別ではO157がHUS症例の76%(34例)を占め, 毒素型ではVT2陽性株(VT2単独またはVT1&2)が91%(41例)を占めた。また, 患者血清のみで診断された31例のうち, O抗原凝集抗体が明らかになった4例すべてがO157であった。

感染原因・感染経路

確定または推定として報告された感染原因・感染経路(重複含む)は, 経口感染が47例(60%), 接触感染が9例(12%), 動物・蚊・昆虫等からの感染が1例(1%), 「記載なし」または「不明」の報告が25例(32%)であった。経口感染と報告された47例中23例に肉類の喫食が記載され, うち生肉(ユッケ, レバー, 牛刺し, 加熱不十分な肉等)の記載は4例(ユッケ2例, 生センマイ1例, 生の鶏肉1例)であった。

臨床経過(症状・転帰)

保健所への届出時に報告された臨床症状は, 昨年と同様に腹痛, 血便の出現率がそれぞれ58例(74%), 55例(71%)と高く報告されていた。また, 届出時に脳症を合併していた症例は10例(13%)であった。届出時点で報告されていた死亡は3例で, HUS発症例全体での致命率は3.8%であった。

考 察

2019年に報告されたHUS発症78例は, 現在の届出基準で比較可能な2006年以降で過去最少であった2018年に次ぐ少なさであり, 有症状者に占めるHUS発症例の割合3.1%も過去最低の2018年に次ぐ低さであった。10歳未満の小児が多数を占め, 女性が多いという傾向は従来通りであった。

感染原因・感染経路では, 例年同様「肉類の喫食」が一定数報告されており, うちEHEC感染リスクが高いとされる生肉喫食の記載も依然として数例報告されていた。EHEC感染に伴うHUS等の重症化の要因は不明な点が多いため, EHECの感染そのものを予防することが重要である。EHEC感染予防として, 生肉(加熱不十分な肉を含む)の喫食を避けること, 食事前の手洗い, 調理時の食品の適切な取り扱い等の基本的な食中毒予防だけでなく, 保育施設や家庭内での患者との接触後や, 動物との接触後に十分な手洗いを行うなどの注意を払うことも重要である。

 
 
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